東芝は、2022年2月8日、アナリストを対象にした「東芝 IR Day」の2日目の説明会を行い、分割する東芝/インフラサービス Co.と、デバイス Co.の概要について説明した。
前日に行われた「東芝 IR Day」の1日目の説明会では、東芝の綱川智社長CEOが、2021年11月12日に公表した企業を3分割する戦略的提案を見直し、新たに2分割にすることを発表。さらに、空調事業、昇降機事業、照明事業、東芝テックを非注力事業として、切り離す計画も明らかにしていた。
今回の説明会ではそれを受けて、再編する2社の今後の事業方針などについて触れた。
インフラサービス Co.の事業方針
東芝/インフラサービス Co.は、エネルギーシステムソリューションやインフラシステムソリューション、デジタルソリューション、電池事業を担当する会社となる。
東芝の畠澤守副社長は、「世界をよりよい場所にしたいというのが、変わらない想いであり、140年間に渡って培ってきた発想力と技術力を結集し、持続可能な社会の実現に貢献。人と、地球の、明日のために、新しい未来を始動させることが、インフラサービスCo.の存在意義になる」と前置きし、「温暖化ガスの抑制、地球温暖化への対応といったカーボンニュートラルの実現と、自然災害の増加、インフラ老朽化、サイバー犯罪の高度化への対応などのインフラレジリエンスへの対応は、持続可能な社会を実現する上で避けて通れない喫緊の課題である。また、デジタル技術の進展によるデータ流通の加速、シェアリングエコノミーの加速、AIの進化などは顕著なトレンドであり、これらの技術的転換を捉えて、迅速で、俊敏に対応していく必要がある。インフラサービスCo.は、インフラとサービスに関わる事業がひとつの会社にまとまることで、カーボンニュートラルとインフラレジリエンスという社会課題に対して、事業に直結した形で経営が可能になる。エネルギーや社会インフラに携わる事業部門がひとつとなり、デジタル技術を最大限活用した『×(かける)デジタル』で、カーボンニュートラルとインフラレジリエンスといった大きく変化する新たな時代の社会課題を解決に取り組むことになる。迅速な経営判断に基づき、事業を運営することで、持続的で利益ある成長と、企業価値の向上を達成する」との方針を示した。
インフラサービスCo.は、2021年度に売上高1兆5,200億円を、年平均成長率5.3%を見込み、2025年度の売上高は1兆8,700億円を目指す。また、営業利益は2021年度の540億円を、2025年度には1,200億円に拡大する計画だ。今回の説明会では、これに加えて、新たに2030年度に、売上高2兆5,000億円、営業利益2,500億円、営業利益率10%を目指す計画を発表した。
そのうち、再生可能エネルギー事業、物流ソリューション事業などで構成する成長領域は、2021年度の売上高が2,428億円。2025年度の売上高が5,669億円、営業利益が343億円とした。また、発電システム事業やグリッド事業、社会システム基盤事業、鉄道システム事業、システムインテグレーション事業などで構成する基盤領域は、2021年度の売上高が1兆2,772億円、営業利益が551億円。2025年度の売上高は1兆3,031億円、営業利益は857億円とした。東芝の畠澤守副社長は、「成長領域が売上げ増を牽引し、事業構造転換の進めることで営業利益が大きく伸長する。2025年度には全体の約30%を成長領域が占めることになる」と述べた。
また、「インフラサービスCo.の強みは、国内外の強固な顧客基盤と、豊富な納入実績を活かして、インフラサービスを展開している点にある」とし、「電力、インフラ、製造、モビリティ、ビル/データセンター、ITサービスなどの社会や産業の重要インフラを支える国内外の顧客との信頼関係が資産である。機器の納入だけでなく、顧客の業務品質を維持するメンテナンス、サービスを提供し、トラブルが発生した際も、顧客に寄り添い解決を図るというひとつひとつの実績で培ってきた信頼がある。これまでと変わらず、業務品質の維持や新たな課題解決につながる機器やサービス、ソリューションを提供することで、顧客とともに高い成長を実現したい」とした。
3つの事業部門別の取り組みについても説明した。
ひとつめのエネルギーシステムソリューションの売上高は2021年度の5,700億円を、2025年度には6,740億円に拡大。年平均成長率は4.3%としている。だが、2030年度には1兆540億円を目指し、この間の年平均成長率は9.4%となる。
営業利益は、2021年度には330億円を2025年度には496億円に拡大。2030年度には1,030億円を見込んでいる。
そのうち、発電システム事業では、2025年度の売上高が3,620億円、営業利益が255億円。送変電・配電等事業では売上高は3,120億円、営業利益は274億円を目指す。
発電システム事業では、高度なエンジニアリング力と、プロジェクト管理能力を活かしたサービスソリューションを提供。CO2の分離回収、利用、貯留において、世界トップクラスの技術であるCCU/S技術などにより、カーボンニュートラルに向けた対応を進める。ここでは既設設備にも適用できる燃焼後回収方式が強みになり、シグマパワー有明三川発電所では、日量600tのCO2を回収したという。また、次世代太陽電池の市場投入や、GEとの協業による洋上風力市場への参入、エネルギーアグリゲーション事業(VPP)の本格立ち上げに取り組むという。
太陽光発電では、低コストと軽量、柔軟性を実現したフィルム型ペロブスカイトと、高効率と軽量化を実現したCu2Oタンデム型の2つの独自技術による新型太陽電池で事業を拡大。VPP(バーチャルパワープラント)ではネクストクラフトベルケの技術を活用して市場を開拓。水素ソリューションでは、CO2フリー水素製造に不可欠となる水電解装置において、世界トップレベルの高い変換効率を誇るSOECコア技術での競争優位性を確保。欧州など世界市場への参入を目指し、水素ソリューションで2030年度には1,000億円の事業規模を目指すという。
2つめのインフラシステムソリューションの売上高は2021年度の6,500億円を、2025年度には9,300億円に拡大。年平均成長率は9.4%と高い成長を見込んでいる。2030年度には1兆2,000億円を目指す。
営業利益は2021年度の410億円を、2025年度には830億円、2030年度には1,200億円を目指す。
そのうち、公共インフラ事業の2025年度の売上高は5,100億円、営業利益は520億円。鉄道・産業システム事業の2025年度の売上高は5,000億円、営業利益は310億円を目指す。
公共インフラ事業では、オーガニックでの成長と、プログラマティックM&Aにより、サービスおよび新規事業を強化する計画であるほか、鉄道・産業システム事業では、差異化技術に注力して、成長路線に復帰するという。
公共インフラ事業の上下水道ソリューションでは、上下水道の運転自動化、維持効率化に関わるIoTソリューションを開発。物流ソリューションでは倉庫内における人とロボットの運用最適化によって、ECの拡大や商品の多種多様化に対応していく。また、鉄道・産業システム事業の鉄道交通ソリューションでは蓄電池を利用したエネルギーマネジメントにより、鉄道事業者とカーボンニュートラルを共創する取り組みを紹介。具体的には、東芝独自の回生電力貯蔵(TESS)装置を用いて余剰電力を効率的に貯蔵し、加速中の列車に供給するという。工場自動化ソリューションでは、ハード販売からサービスビジネスに転換し、生産現場の省人化や省力化ニーズに貢献。ソフトコントローラのクラウド化により、計装プラットフォームを提供し、未参入領域に事業展開するという。
3つめのデジタルソリューションの売上高は2021年度の2,300億円を、2025年度には2,730億円に拡大。年平均成長率は4.4%を見込んでいる。2030年度には3,950億円を目指し、この間の年平均成長率は7.7%を想定している。
営業利益は2021年度の230億円を、2025年度には284億円、2030年度には590億円を目指す。
デジタルソリューション事業では、インフラサービス領域における業界知見を活かしてソリューションサービスを展開。さらに運用まで確実に取り込んでマネージドサービスを強化し、拡大する考えだ。また、インフラサービス領域で蓄積したデータを活用するため、パートナーと組んで、データサービス化のための施策を展開。自動車業界を中心とした組込開発ニーズの取り込みも図るという。
ここでは、スマートマニュファクチャリング事業の立ち上げに取り組み、つながる工場を実現する「Meister Factoryシリーズ」や、オープンな情報モデルである「アセット管理シェル」にいち早く対応するなど、東芝のモノづくりの知見に基き、制御からクラウドまで工場丸ごとデジタル化を図る取り組みも行う。また、量子暗号通信(QKD)事業の立ち上げにも取り組み、理論上、盗聴不可能となる量子暗号通信のサービスプラットフォーム化を進め、インフラの安全安心に貢献するという。「研究開発や実証、標準化活動で、業界を牽引していく」と述べた。
なお、その他領域として、二次電池への取り組みについて触れ、SCiBの尖った特長を活かせるエネルギーやインフラなどのヘビーデューティ領域に注力するという。二次電池の売上高は2021年度の549億円を、2025年度には1,000億円に拡大。2030年度には2,000億円を目指す。
一方、経営を変革する施策として、「横断型新事業創出」、「営業体制変革」、「IT・デジタル化投資」、「技術・人材育成」、「ESG」の5つを実行し、スピーディに経営変革を実現することを示した。
横断型新事業創出では、横断型新事業創出のための2つの組織を設置し、研究資産や技術資産を最大限活用し、カーボンニュートラルやインフラレジリエンス領域の事業拡大に直結する活動を推進するという。「これまでの垂直統合型から、既存事業の強みとデジタル技術の強みを活用した事業横断型や、ソリューション提案型の組織に転換していく」という。
R&D部門のなかに設置するインフラサービス共創センター(仮称)は、事業目線でのR&Dテーマの選定、R&Dリソースの最適なアロケーションを行う。また事業部門においては、インフラサービス事業推進センター(仮称)を設置し、課題解決に直結するサービス創出や、事業化を担う。技術やシーズ、ビジネスアイデア、人材を統合し、社外のスタートアップ企業との連携も行う。
営業体制変革では、垂直統合型から、顧客の課題解決に向けたソリューション提案型営業へ転換。各事業部門が培ってきた顧客資産やソリューション、ノウハウを統合し、事業横断の営業機能を強化。重要アカウント向け営業チームを設置し、事業横断でのソリューション提案を行うという。技術リソースの拡充と営業人材の育成、強化にも取り組む。
IT・デジタル化投資では、次期基幹システムの導入と、設計、製造といった最前線のビジネスプロセスをデジタル化することで、バリューチェーン全体の情報を統合し、経営情報の一元管理と経営の高度化を実現するという。「これまでは、ビジネスプロセスに関わるIT投資やデジタル投資は、現場任せや、事業部任せになっており、短期的な業績を優先し、現場力向上への投資優先度が下がっていた。企業の足腰をしっかりと立て直す投資にも力を入れる」と述べた。
技術人材育成では、人材育成やキャリア採用により、インフラサービスの推進やソリューション開発の専門人材を拡充するという。全社員を対象にITスキルアップ教育を実施するほか、AI教育体系を整備して、オンラインの活用や実践的な教育により、AI人材をタイプ別に育成。さらに、既存の処遇とし切り離したプロフェッショナル従業員制度により、AIなどの先進領域において高度なスキルを有する人材を獲得するという。2022年度には、2000人のAI人材を育成、獲得する予定だ。
ESGでは、インフラサービスCo.として、2050年度までに企業活動におけるバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現。2030年までの中期目標としてバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量を70%削減することを発表した。
投資戦略についても明らかにした。
2021年度~2025年度までの設備投資額は4,000億円。ペロブスカイト・タンデム型太陽電池設備や、風力発電ナセル組立設備、水素実証プロジェクトのほか、SCiB二次電池の電極・セル・モジュール・パックラインの増産に投資するという。
研究開発費は3,900億円であり、バランシンググループ予測/最適化技術や風況解析技術、水素製造技術、上下水道監視制御プラットフォーム、気象データ解析、サイバーセキュリティソリューションの開発のほか、デジタルサービスではQKD、IoTデータ基盤、Meisterシリーズが対象となる。
また、投融資として1,240億円を計画。再エネ発電所の開発や運用、転売した事業モデルへのマイナー出資、エネマネマッチングの拡大、水素ビジネスの拡大に投資する。
「2021年度~2025年度までの資源投入額は合計で9140億円であり、2016年度~2020年度の6,310億円に比べて約1.5倍になる。注力事業への投資を積極的に行う」と述べた。
研究開発投資は、2025年度には売上高比率を5.0%にまで高め、エネルギーおよびインフラ事業の成長領域での競争力強化を優先するという。
また、インフラサービスCo.では、同社に必要とされる基礎研究から製品化までの一貫した研究開発機能を実装。インフラサービス共創センター(仮称)を新設し、新成長領域の事業化を牽引する研究開発を推進するという。また、共通基盤領域については、共通組織をインフラサービスCo.に持たせ、デバイスCo.とは契約に基づいて、共創関係を維持することになる。
成長を支える共通基盤技術として、SCiBやパワーエレクトロニクス、AIをあげ、SciBでは、インフラサービスへの展開とアライアンスによる新たなバリューチェーンを創出し、パワーエレクトロニクスでは、競争力あるパワー半導体とシステム制御技術を軸に、省エネソリューションの開発に注力する。また、AIによる再エネ発電量予測による安定した電力供給、異常予兆検知によるインフラの安定稼働、顔認証による交通システムの利便性向上を図るという。
また、オープンに、様々なサービスやアセット、システムとつながる共通プラットフォームである「東芝インフラサービスプラットフォーム」を構築。ドメイン知見を詰め込んだソフトウェアアセット群を、Toshiba IoT Reference Architectureにより国際標準化。Toshiba IoT Service Factory (TISF)によって、すばやく組み立てて再利用し、Toshiba SPINEX Market Placeでカタログ化し、迅速に利用できるように提供するという。また、マネージドサービスにより、運用を支え、保守を提供。さらに、ここで得られたデータを活用してサービスの最適化や改良を図るサイクルを生むことができるという。
そのほか、将来の技術の種として、伝導冷却によるHeレス冷却技術を採用した超電導技術、高性能なアンプとアンテナを搭載したミリ波レーダーによって瞬時に異物を検出するミリ波イメージング、疑似量子トンネル効果を採用し、従来と比べて10倍の計算速度を提供するシミュレーテッド分岐マシンなどの開発を強化するという。
説明の最後に、東芝の畠澤守副社長は、「インフラサービス Co.として、関連する事業がひとつにまとまることで、一体となった経営に変革する。また、企業活動と事業を通じて、カーボンニュートラルとインフラレジリエンスの実現に貢献する。これまで培ってきた強固な顧客基盤と技術の強みを生かして、注力領域に資源を集中投資し、事業を成長させる。これにより、持続的で利益ある成長と、企業価値の向上を実現することができる」と述べた。
デバイス Co.の事業方針
一方、デバイス Co.は、東芝デバイス&ストレージを母体に、半導体事業とハードディスク事業で構成する企業となり、東芝からスピンオフする形で発足する。
東芝デバイス&ストレージの佐藤裕之社長は、「持続可能な社会の実現に向けて、様々な課題への取り組みが求められている。日常生活や社会活動を維持していくために欠かせないエネルギー問題に対して、パワー半導体はあらゆる産業におけるエネルギー消費を抑えるポテンシャルがある。また、IoTの発達に伴い、進化するデータ社会において、HDDをはじめとするストレージデバイスに求められる要求も今後ますます高まる。デバイス Co.は、社会インフラや情報インフラに不可欠な半導体、ストレージ、先端半導体製造装置に注力し、持続可能な社会の実現に貢献していく」と述べた。
また、デバイス Co.から見たスピンオフの意義についても説明。「デバイス Co.が対象とする市場は、変化や技術進化が速く、投資やM&Aなどの意思決定を速やかに行うことが必要になる。現在の東芝は、事業部、分社会社、コーポレートの3層構造となっているが、新たな会社では2層構造となり、業界に精通したマネジメントチームが経営にあたることで、迅速に意識決定ができ、成長戦略の実行が速くなる。費用や投資を自らの判断で必要なタイミングで直接投入でき、コストコントロールの自由度が高まること、事業特性を加味したKPIを設定できるようになり、市場への理解が進むこと、業界の特徴を加味した特有の人事制度が可能となり、より専門的で優秀な人材を確保できる」などと述べた。
デバイス Co.では、2021年度の売上高8,600億円を、年平均4.1%の成長率を見込み、2025年度の売上高は1兆100億円とし、営業利益は2021年度の550億円を、2025年度には800億円にすることを目指す。また、2021年度は、クラウド/データセンター、車載、産業/FAの売上構成比が52%であったが、これを2025年度には69%に拡大。海外売上比率は、中国市場での拡大などにより、70%から81%にまで拡大させるという。
「2021年度は半導体市況が好調であり、営業利益率6%を見込んでいる。ボラティリティの高い業界であり、2025年度に向けた計画はやや保守的に組んでいる。毎年500億円規模の投資を継続していくが、市況を見ながら機動的に追加投資を行い、計画達成を前倒しをしていく」と述べた。
デバイス Co.は、半導体、HDD、半導体製造装置が主要事業であり、これらの事業が相互に経営資源を有効に活用しながら成長。半導体やストレージは約4万品種、販売数量は1日あたり6,000万個以上に達しているという。
積極投資を行う成長事業として、パワー半導体のほか、データセンター向けHDD、マルチビームの描画装置、エピタキシャル成長装置を位置づけ、経営資源の効率利用を目指す基盤事業では、フォトカプラーやアナログ半導体、デジタル半導体、PC用途などのコンシューマ向けHDD、シングルビームの描画装置を位置づけた。
半導体事業については、2021年度の売上高3,200億円を、2025年度までに3,700億円に拡大。営業利益率は2021年度の14%に対して、2025年度には12%を見込んでいる。グリーン化やデジタル化によって市場成長が期待される自動車、産業/FA分野に注力し、これら分野の売上構成比を58%から65%に高める。
「東芝は、2020年度に先端ロジックLSIの新規開発から撤退し、NANDメモリもキオクシアに売却した。これらは半導体市場全体の3分の2を占めるが、大きな設備投資が必要となる事業である。それに対して、現在の事業領域であるディスクリート、アナログ、マイコンは製品ライフサイクルが長く、設備更新も頻繁ではなく、利用分野が多岐に渡ることから、ボラティリティが低く、投資負担も軽い」としたほか、「大幅な市場伸長が期待され、強みが発揮できるパワー半導体を成長事業とし、積極的な投資を行っていく。ここで培った生産能力や技術優位性を、フォトカプラー、ダイオード、トランジスタ、アナログ、マイコンといった製品に展開し、事業基盤の強化を図る」とした。
パワー半導体での東芝のシェアは6位。注力しているパワーMOSFETでは4位だが、これを2025年度にはトップ3入りを目指すという。これに向けて、技術優位性を持つ製品の開発の加速、業界大手顧客とのリレーション強化、生産能力の機動的な増強の3点に取り組むという。
パワーMOSFETは、オン抵抗とスイッチング損失では世界最高レベルの性能を発揮。車載品質に対応していることも強みであり、高信頼性、高放熱性、高耐候性も特徴だという。今後、高効率化や小型化に貢献する化合物半導体を投入する考えだ。現在、第10世代の開発が完了し、販売拡大に着手。また、第11世代の開発を進めており、2023年度には、パワーMOSFETの製品数を倍増する考えだ。
また、SiCデバイスの開発については、「東芝では鉄道向けを優先してきたこともあり、車載向けで遅れていることは否めない。鉄道向けで培った3kV以上の高耐圧向け技術をベースに、車載市場や再エネ、送配電市場へも展開していく。2026年には、SiCデバイス市場が本格的に立ち上がると予測されている。それをキャッチアップしていきたい」と述べた。さらに、高効率、小型化に貢献する新構造のGaNパワーデバイスを開発し、駆動部制御用ICを含めて、最適化した製品を顧客に提供。2023年には第1世代製品を投入し、2026年には第2世代製品を投入する予定を示しながら、「できるだけ前倒ししたい」としている。
ストレージ事業は、2021年度の売上高4,100億円を、2025年度には5,100億円に拡大させる。営業利益率は2021年度の4%から、2025年度には7%に高める計画だ。
同事業の中核となるのが、ニアラインHDDである。
データセンターやCSP(クラウド・サービス・プロバイダー)が使用するニアラインHDDの需要は顕著であり、世界全体ではニアラインHDDの出荷容量は、2030年までの年平均成長率が22%と高い伸びが続き、大容量データセンターのストレージ構成のなかで大きな比重を占めると見られている。
「HDDのビットコストは、SSDの7分の1を継続的に維持していくと予測されている。ニアラインHDDは、大量のデータを保存する上で、容量と速度のバランスにおいて、経済的に優れており、必要不可欠である。大容量を実現する技術革新が継続しており、記憶容量あたりの消費電力が少ないこと、365日24時間のデータセンターの安定稼働を支える品質があることが評価されている。東芝では、多層枚化やアシスト記録技術で大容量化を実現し、初期導入コストと運用コストの改善により、データ保管コストの削減にも貢献できる」と述べた。
現在のニアラインHDD市場において、東芝は17%のシェアを獲得しているが、2025年度には24%以上を目指すという。現在、大手CSPの上位10社のうち、8社に導入しており、今後、データセンターの市場拡大が見込まれる中国市場にリソースを投入し、シェア拡大につなげる考えだ。
この実現に向けて、多層枚化やアシスト技術による「大容量化技術」、営業体制強化によるさらなる顧客基盤の拡大などの「顧客リレーション」、フィリピンの生産拠点への継続した経営資源の投入や、ニアラインHDDの第二拠点を中国に設置するといった「生産能力拡大」の3点に取り組む。
「大容量化技術については、これまでにも世界初の技術を開発してきたが、2021年12月に発表したMAS-MAMRでは、30TBの実現に目途をつけており、2023年度に商品化し、2024年度から量産する予定である。今後もさらなる大容量化を目指し、TCOの改善に貢献する」としたほか、「HDDメーカーは世界に3社しかないが、東芝は他の2社とは異なり、ヘッドとメディアを購入して、開発、製造を行う水平分業型の事業を50年以上継続している。キーサプライヤーとの技術的連携が強固であることに加えて、開発投資や設備投資の分散により、資本効率の最適化が図ることができ、このビジネスモデルは強みのひとつになっている」と述べた。
MAMRについては、TDKや昭和電工と開発で連携。また、半導体レーザーを用いたHAMRの基礎技術の開発を進めており、2024年度にはプロトタイプの完成を目標にしている。さにに、積層技術では、2021年度に10枚機の開発を完了し、2022年度には量産化。現在、11枚機の技術開発に着手しているという。
東芝は、1967年にHDD事業に参入し、社会要請に応える形で、HDDに対して、先端技術を継続的に投入し、製品を提供してきた経緯がある。
「今後は、ICTやAIと、人間社会の融合によって、あらゆる情報と人がつながる社会に発展する。これらを支えるサービスの多くは、CSPがプラットフォーマーとして牽引していくことになる。この成長に欠かせないのがストレージの進化であり、サイバー空間での大規模なデータ蓄積、データ保管コストの低減、環境負荷の極小化、暗号化により情報セキュリティを担保することが求められる。2020年代は、データの10年であるといえる。データ生成量は、2025年までの4年間で2.2倍になり、稼働するストレージ容量は2.0倍、そのうちのHDDが占める容量は1.9倍に増加する。データセンターの中核部品であるニアラインHDDは今後もストレージの主役であることに変わりはない。2021年からは、生産、販売、技術の責任部門を横浜の拠点に集結し、要望に応える性能や品質、製品提供体制を強化。データセンターをはじめとしたストレージ用途に、新たな製品を継続して提供していく」と述べた。
半導体製造装置であるニューフレアテクノロジー事業は、売上高は2021年度の410億円を、2025年度には2倍以上となる890億円に拡大。営業利益率は7%から24%に拡大するという。
「半導体市場全体が2030年までに倍増すると見られ、新たに50兆円の市場が創出される。とくに、デジタル化やグリーン化を牽引する先端微細化半導体や高効率化合物半導体の需要が拡大する。それに伴い、半導体製造装置の需要も拡大すると予測されている」とする。
ニューフレアテクノロジー事業では、半導体の回路パターンを転写するための原版となるフォトマスクを製造する電子ビームマスク描画装置と、ウエハー上に結晶方位の揃った単結晶の薄膜を成長させるエピタキシャル成長装置に注力している。
マスク描画装置では、シングルビーム機ではシェア100%を獲得。今後は微細化によって需要増が見込まれるマルチビーム機に力を注ぎ、2021年度から導入を開始。同製品では2023年度に市場シェア50%獲得を目指すという。
「マルチビーム機は、シングルビーム機で培った描画要素技術に独自技術を組み合せて、一定時間内にマスク描画を完了できるため、顧客の生産性向上に寄与することができる」とした。
エピタキシャル成長装置は、化合物半導体の生産に利用されるもので、EVや次世代用通信規格に使われるパワー半導体のSiCやGaNの急伸長を背景に需要が拡大すると見られている。また、現在主流の150mm基板に加えて、200mm基板へのシフトが見込まれ、ここにも需要拡大のチャンスがあるという。
「東芝は、高い成膜技術を有しており、表面欠陥密度が低く、高い面内均一性を誇る。そのため、高速回転でも高品質を保てるため、短時間での処理が可能となり、化合物半導体業界の生産性向上に貢献できる」とする。
この強みを生かして、2020年度には10%だったシェアを、2025年度には30%以上に拡大していく考えだ。
デバイス Co.全体の投資計画としては、2025年度までに設備投資として2,600億円、研究開発費として3,100億円の合計5,700億円を予定。「半導体は世界的な需要逼迫にあり、ストレージに対する需要は今後もさらに拡大する。それに向けて、生産能力の増強と、安定的な調達網の構築を推進する」とし、なかでもシリコンパワー半導体の生産能力を2020年度比約1.7倍、二アラインHDD生産能力を約2倍に高める。
主要な投資としては、半導体では加賀工場(加賀東芝エレクトロニクス)における新棟を含めた300mmラインのほか、200mm化合物半導体生産ラインの整備を実施する。
加賀工場の300mm新棟は、MOSFETやIGBTなどを生産。省エネ製造設備などの導入によるRE100対応、免振構造や電源の二重化などによるBCP対応、AIシステムや自動搬送システムによる高品質生産、高効率化を実現するスマートファクトリーになる。
「加賀工場には、過去5年に比べて2倍の設備投資を行っていく。300mmの第1ラインは、すでに既存クリーンルーム内に設置し、量産開始を2022年度下期に前倒しした。また、新棟の第1期がフル生産になった際には、現在の2.5倍の生産能力に達し、第2期がフル生産になると3.5倍になる。新棟では2024年度から量産を開始し、300mmライン専用設計により、生産効率を追求する」という。
半導体の主要材料における長期契約比率は80%、マルチ調達比率は70%とし、安定的な生産体制の構築を進める取り組みも進める。
また、ストレージでは、フィリピンおよび中国の生産拠点でのニアラインHDDへの継続投資、横浜工場の製造スペースの拡張などを予定している。
研究開発費では、シリコンパワー半導体のラインアップ拡充や高効率パッケージの開発、高耐圧SiCの開発やGaNの製品化の加速、ニアラインHDDの新機種開発のほか、マスク描画装置では次世代マルチビーム機の開発を行う。研究開発費の内訳は、約1,000億円がパワー半導体、約1,000億円がそれ以外の半導体、約1,000億円がHDDおよび半導体製造装置となる。
再編後の研究開発体制については、これまで東芝のコーポレートラボで、デバイスCo.の事業領域の技術に専従してきた部門と、東芝デバイス&ストレージで先端技術の研究開発を行っているデバイス&ストレージ研究開発センターを統合し、新たな半導体&ストレージ研究開発センター(仮称)を設置。先端基礎研究を含む先行開発を担当するという。
先端基礎研究に関わる人員は、デバイス&ストレージ研究開発センターの3.5倍に増強。デバイスCo.の中長期のロードマップに従い、製品開発に必要な先行技術開発を強化していく。また、デバイスCo.で機動的な研究開発投資を行い、先端基礎研究環境を強化するとともに、事業部の製品開発に向けても、技術者の最適再配置を実施するという。
なお、AIによる新規アルゴリズムや高度な生産効率化技術などの共通基盤技術は、東芝/インフラサービスCo.の研究部門への委託研究により、研究開発を推進することになる。
カーボンニュートラルへの取り組みについては、2030年までに生産工程における再生可能エネルギー利用100%を目指し、先行する形で、大分工場と加賀工場の300mm新棟は2026年度までに再生可能エネルギー利用100%を実現する。「自社で発電した自然エネルギー利用への転換を推進。取引先などとの協働、協業による温室効果ガス排出量の削減により、バリューチェーン全体でのカーボンニュートラルを実現するほか、カーボンニュートラルに貢献する製品の創出と提供拡大にも取り組む」とした。
説明の最後に佐藤社長は、「着実な原価低減や市況変化に即応した需給対応を図ることで、基礎収益力の改善を目指すほか、技術を早期に収益化し、俊敏な投資判断で新事業を育成する。また、ビジネスモデルが近い分野をグループとし、事業ポートフォリオを管理し、費用構造や組織、制度改革を迅速に実行していく。基礎収益力、事業創出力、自己変革力の相乗効果で、成長戦略を実現する」と述べた。