東芝は、2022年2月7日、アナリストを対象にした「東芝 IR Day」を開催。新たな再編計画について発表した。

  • 東芝 代表執行役社長CEOの綱川智氏

    東芝 代表執行役社長CEOの綱川智氏

2021年11月12日に公表した戦略的再編では、企業を3分割する提案としていたが、これを2分割することを新たに決定。東芝/インフラサービス Co. として、エネルギーシステムソリューションやインフラシステムソリューション、デジタルソリューション、電池事業とともに、キオクシアホールディングスの株式を保有する企業を継続。その一方で、半導体事業、ハードディスク事業などで構成するデバイス Co.をスピンオフする。2023年度下期までにスピンオフおよび上場を完了する予定だ。さらに、2022年中に産業競争力強化法の申請を行うことも明らかにした。

また、空調事業、昇降機事業、照明事業、東芝テックを非注力事業と位置づけ、空調事業を行う東芝キヤリアにおいては、東芝が保有するの55%の株式を米Carrier Corporationに譲渡することを同時に発表。2022年9月30日までに譲渡を完了する。今後持ち株比率は5%となり、連結対象から外れることになる。

  • 再編の提案を3分割から2分割へと変更

東芝の綱川智社長CEOは、「2021年11月の発表以降、数多くの株主の意見を聞き、スピンオフ計画をどのように改良できるかを検討してきた。当初の目的を維持し、会社分割を確実に実現し、スピンオフの安定性を高めるために、辿り着いた決定が2分割である。それぞれのビジネス特性を生かした体制に進化する思いに変わりはない。株主と向き合うことを回避するために変更したものではない」と切り出し、「株主や関係各所からのフィードバックを踏まえて、スピンオフ計画を具体化するなかで、様々な面から2分割のスキームが最適と判断した。3分割に比べて、安定的な財務体質の確保が可能であり、東芝の上場維持にかかる不確実性を除去できること、構築に必要となる経営体制が2つに減少し、規律あるガバナンス体制を敷きやすいことのほか、3分割では当初計画よりも大きなコストが発生することがわかった。また、2分割では、1社を上場させるだけで済み、審査における実務負担の軽減につながること、負債を抱える東芝本体を独立させるよりも、2分割によって、両社に適切な財務プロファイルを構築し、安定した財務体質で事業を継続ができること、2つの企業が主力事業を有し続けることで、パートナー企業を見つけやすくなり、提携が容易になるといったメリットがあると判断した」と説明した。

さらに、分割を契機に、執行体制の専門性を高めることにより、事業に精通したメンバーによる機動的で、迅速、的確な意思決定ができるとし、「それぞれに深い業界知識と明確な成長戦略を持つ取締役と執行役を選定し、スピンオフ後の新たな経営体制の構築に向けて、社外からの人材起用も含めて、候補者選定プロセスを推進していくことになる」と述べた。デバイス Co.をも指名委員会等設置会社にする予定であること、経営陣の選出時期は未定だが、具体的な人選が決まり次第、公表する考えも明らかにした。

綱川社長CEOは、「今回の戦略的再編は、それぞれの事業の競争力を高め、持続的で利益ある成長を実現するためのステップであり、ステークホルダーにとっての価値を最大化できる最善の道であると確信している。2分割は、すべての利害関係者に納得し、合意してもらう最適解を見つけるための改善策である」とした。

また、2021年11月の発表から3カ月で3分割から2分割に変更したことについては、「本邦初のスピンオフということもあり、費用の増加など、想定外のことも起きた。最適解に到達したいという思いや意欲から、提案したものである。短い期間での修正はけしからんという声もあるだろうが、これは最適解に向かうステップである。キオクシアの株式を売却する際にも二転三転し、見方によっては右往左往したように見えたかもしれない。今回もそれと同じで、迷走や右往左往ではなく、必要なステップであり、改良、改善である。今後も、もし次の最適解に向かうステップがあれば、それは改善として取り組む。だが、これ以上の策はないと考えている」と述べた。

分割で成長戦略を描きやすく、3,000億円の株主還元も発表

説明会のなかで、綱川社長は、これまでの東芝の反省点として、次のように示した。

「事業領域が広く、組織体制が複雑であり、コングロマリットディスカウントの存在と、意思決定のスピードの遅さが大きな課題であることを認識している。インフラサービスとデバイスというビジネスモデルが異なる2つの事業が存在し、相互シナジーを生まない事業が混在していたことで、経営の複雑性が上昇し、その結果、コングロマリットディスカウントの存在があることに加えて、個々のビジネスにとって適正な財務体質および事業リスクの判断が難しく、全社画一的なキャピタルアロケーションを適用してしまい、最適な資本政策を講じることができなかったことも反省点である。また、経営陣の出身母体が異なり、意思決定の考え方が共有できず、個々のビジネスモデルに応じた柔軟で、機動的な判断にも遅れが出ていた。また、全事業が単一の会社のもとで管理されており、投資家は東芝株に投資する以外にはないという選択肢の狭さも課題であった。これらの観点から、事業成長や企業価値の向上が実現できなかった」とする。

その上で、「コングロマリットディスカウントを解消し、持続的で利益ある成長による企業価値向上を目指す手段としては、スピンオフが最適であると確信している。2分割することで、ビジネスサイクルや市況、設備投資の多寡など、ビジネス特性に見合う明確な成長戦略の策定が可能になる。今回、注力事業と非注力事業の選定、非注力事業の外部化の方針も固めた。また、両社の中長期的な成長戦略に基づいて、研究開発、設備投資、M&A、株主還元といった事業特性に即したキャピタルアロケーションを策定でき、適正な財務体質や事業リスクに見合った資本構成が構築できると考えている。さらに、分割を契機に、事業に精通した経営体制の構築や、事業特性に応じた俊敏な経営が可能になる。外部人材の登用や、経営のスリム化により、特定分野に関心のあるパートナーと戦略的な提携を模索することもできる」と、今回の再編計画のメリットを示した。

  • 従来の東芝の反省点と、スピンオフの意義。企業価値のいわゆるコングロマリットディスカウントも意識している

なお、スピンオフにかかる取引コストとして、2年間で約200億円が発生するほか、事業運営コストとして、年間130億円増加するが、コーポレート機能の効率化や外部委託費用の削減により、年間300億円の事業運営コストの削減を目指すとし、「スピンオフによる事業計画への実質的な影響はない」と述べた。

また、事業計画の円滑な遂行を前提に、今後2年間で3,000億円の株主還元を想定していることも示した。

  • 株主還元として2年間で3,000億円を想定

新たな分割2社は何を目指すのか

2つの新たな会社の概要についても触れた。

東芝/インフラサービスCo.では、エネルギーおよび社会インフラ分野でデジタルの力を活用し、カーボンニュートラルやインフラレジリエンス、デジタルエコノミーに対応した社会課題や産業課題の解決に貢献。「従来の事業を通じて、顧客とともに培ってきた実績や知見、技術力に加え、デジタル技術を最大に生かし、循環型に変化する新たな社会課題の解決を目指す」という。

デジタルとの掛け算によるソリューション拡充、新規および既存のパートナーシップを通じたバリューチェーンや、デジタルソリューション領域の拡大、社内DXや事業運営力強化のための人材育成、ROIC重視の経営を進める。

社員数は国内約4万1,000人、海外約9,000人。子会社は国内68社、海外78社となっている。2021年度に売上高1兆5,200億円を、年平均成長率5.3%を見込み、2025年度の売上高は1兆8,700億円を目指す。営業利益は2021年度の540億円を、2025年度には1,200億円に拡大する。

東芝/インフラサービスCo.に含まれるキオクシアについては、「2021年11月発表の株主還元方針に基づき、様々な方策を検討しつつ、キオクシア株式の現金化を進める予定である。キオクシアに対しては、できるだけ早期の上場を正式に要請している」と述べた。

デバイス Co.は、社会インフラや情報インフラが進化するデータ社会において、グリーン化やデジタル化に不可欠な半導体、ストレージ、先端半導体製造装置に注力し、持続可能な社会の実現に貢献するという。パワー半導体では、300mmラインを中心にした設備投資を進めるほか、SiCやGaNによる化合物半導体の開発加速、ニアラインHDDでは、データセンター向け大容量化の推進、マスク描画装置では高精度、高生産性のマルチビーム機の投入を予定している。

社員数は国内約1万1,000人、海外約1万5,000人。子会社は国内14社、海外18社となっている。2021年度の売上高8,600億円を、年平均4.1%の成長率を見込み、2025年度の売上高は1兆100億円とし、営業利益は2021年度の550億円を、2025年度には800億円にすることを目指す。

  • 2つの新たな会社のビジョン

  • キオクシアに対しては早期のIPOを要請

再編後の研究開発体制については、基礎研究を含む固有領域は、東芝/インフラサービスCo.とデバイスCo.のそれぞれに分離。両社に基礎研究から製品化までの一貫した研究開発機能を実装する一方、共通基盤領域については、共通組織を東芝/インフラサービスCo.に持たせ、デバイスCo.とは契約に基づき、共創関係を維持するという。「これにより、いままで培ってきた総合力を、持続的に維持することを目指す」という。

研究開発人員のうち、約20%がデバイスCo.の専任となり、約55%が東芝/インフラサービスCo.の固有領域、約25%がAIやセキュリティ、材料、生産技術などの共通基盤領域に配置するという。

先端開発や基礎研究を行っているコーポレートラボでは、約8割の人員が東芝/インフラサービスCo.、約2割の人員がデバイスCo.に分割。さらに、新たな太陽電池などを担当するインフラサービス共創センター(仮称)およびインフラサービス事業推進センター(仮称)を東芝/インフラサービスCo.に設置。デバイスCo.には、半導体&ストレージ研究開発センター(仮称)を新設し、デバイスCo.固有の先端技術領域とともに、既存のデバイス&ストレージ研究開発センターを集約する。

「東芝の復活の原動力は技術力である。新製品開発、ソリューション提供でも技術力は大切である。私が知らないところでも幅広い技術に取り組んでいる技術者がいる。それが強みである。技術者を生かす仕組みをしっかり作ることが大切である」と述べた。

また、東芝ブランドについては、東芝/インフラサービスCo.が単独権利を保有し、デバイスCo.や東芝テックなどにライセンスするという。IPについては、デバイスCo. が持つ固有のIPや、主に用いるIPは分割。共同利用のIPは、東芝/インフラサービスCo.が保有して、デバイスCo.と契約を結ぶ形になる。

注力事業と非注力事業の関係はどうなる

一方、非注力事業の再編についても説明した。

  • 非注力事業に位置づけた空調、昇降機、照明、東芝テックについて。さらなる成長と強化のための再編とした

非注力事業に位置づけた空調、昇降機、照明については、「注力事業との関連が弱く、東芝に残したままでは中長期の成長が限定されると判断した。それぞれが置かれた市場環境、産業構造を踏まえれば、さらなる成長と強化のため、マジョリティ株主として積極的に支援を行う外部資本を導入し、それによって、価値の健全化を目指すことが、最善であると判断した。外部アドバイザーを起用し、価値最大化を実現できるプロセスを設計する。これまでにも、テレビではREGZAが国内トップシェアを取り、パソコンではDynabookが黒字化した実績がある。その分野に注力できる外部資本によって、成果が出ている」などと語った。

空調事業については、米Carrierとの株式譲渡契約を締結し、2022年9月末までに売却を完了。昇降機事業は、可及的速やかに売却プロセスを開始し、2022年度中に最終契約合意を目指す。照明事業は年内に売却プロセスを開始し、2022年度中に最終契約合意を目指すという。

また、東芝テック(リテール)については、「東芝テックの中長期の成長プランを促進するために、実務上、可能な限り、短期のうちに協働していく」と述べた。

なお、水素エネルギーやSCiB二次電池、送配電、再生可能エネルギー、鉄道システム、モータードライブ、データビジネスは、2025年に向けてリソースを投入して改善。注力領域に高めていくという。

東芝の綱川社長CEOは、「東芝は、経営理念として『人と、地球の、明日のために』を掲げており、私はこれが大好きだ。この理念に沿って、スピンオフ計画を確実に進めていく。この計画は、ステークホルダーの共同利益の向上を実現するために、東芝グループが長年培ってきた潜在力を引き出すものである。そのための最善の施策を真剣に考えている。これは東芝グループの未来への進化である。今回の考えを理解してほしい」と述べた。

なお、3分割案に反対していた株主の3Dインベストメント・パートナーズや、ファラロン・キャピタル・マネジメントとも頻繁に話し合いの場を持ったことを明らかにしたものの、「対応については決まったものはない。企業価値をあげたいという思いは一緒である。しっかりと対話を続けたい」としたほか、「非上場となり、外資系ファンドの傘下に入ると、原子力や防衛といった安全保障に関わる事業に影響があり、この分野での受注が減少したり、規制面でも複雑化したりする。上場企業でなくなると社員の不安が高まり、人材流出、人材採用でも影響がある。こうしたことを回避できる案が株主から提案されれば、検討する姿勢はある」とも述べた。

  • スピンオフプロセスの想定タイムライン。今度こそ結果が出せるか