ソニーセミコンダクタソリューションズは、2022年1月25日、同社が持つ最新の技術や取り組みを紹介するオンラインイベント「Sense the Wonder Day」を開催した。

同社は、ソニーグループ株式会社の100%子会社であり、イメージセンサーを含む半導体デバイス事業を展開。2021年11月に、新たなコーポレートスローガンとして、「Sense the Wonder(センス・ザ・ワンダー)」を発表している。

  • 半導体から車、宇宙まで、ソニーセミコンが手掛ける最新技術の現在

    新たなコーポレートスローガン「Sense the Wonder(センス・ザ・ワンダー)」

今回のイベントでは、同社の清水照士社長兼CEOのほか、それぞれの技術を開発するエンジニアたちが登場。高画質な撮像を可能にするイメージング技術や、車載やファクトリーオートメーション用途などに利用されるセンシング技術を紹介するとともに、エンジニア一人ひとりが、自らの「Sense the Wonder」を宣言した。また、ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長CEOもメッセージを寄せた。

  • ソニーセミコンダクタソリューションズの清水照士社長兼CEO

当初は、厚木テクノロジーセンターでのデモンストレーション体験セッションも予定されていたが、新型コロナウイルスの感染再拡大の影響もあり、完全オンラインで開催。同社社員のほか、パートナー企業や学生など、約6,500人が参加した。

ソニーの「テクノロジー」のコア

なお、新スローガンの「Sense the Wonder」は、自ら切りひらくことや、胸躍る未来への想いを込めるとともに、これを、同社の存在を表現する言葉に留まらず、「好奇心をもっと感じよう」、「もっと驚きと感動に満ちた世界にしよう」という形で、社会に呼びかけることを重視しているという。さらに企業ミッションには、「テクノロジーの力で人に感動を、社会に豊かさをもたらす」を掲げている。

ソニーセミコンダクタソリューションズの清水照士社長兼CEOは、「今日は、ソニーセミコンダクタソリューションズの未来に向けたチャレンジを全世界に向けて宣言する日」と位置づけ、「Sense the WonderのSenseは、人がなにかに気づいたり、感じ取ったりする行為を表している。日常のなかで感じる喜びや、気づくやさしさなど、人が持つ感性を常に忘れないようにしたいという思いを込めた。また、イメージセンサーを意味する言葉でもある。一方、ソニーのカルチャーであり、研究開発の原点には、Wonder(好奇心)がある。驚きに満ちた発見を生み出し、人の心を震わせ、世界を捉える感受性を高めたいという思いがWonderという言葉に込められている。イメージングやセンサーのテクノロジーは、世の常識を覆すような事実や、日常に潜む新たな豊かさを発見させてくれる」とした。

また、「ソニーセミコンダクタソリューションズは、テクノロジーと社員一人ひとりの好奇心が、原動力となっている企業である。社員一人ひとりがSense the Wonderの主役になる。今後、様々なところでイメージセンサーが活躍するセンシングソサエティがやってくることは間違いない。ソニーセミコンダクタソリューションズは、もっと世界を驚かせることができる。そのためにはパートナーとの共創が必要である」などと語った。

また、ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長CEOは、「ソニーセミコンダクタソリューションズは、ソニーグループのパーパスのキーワードである『テクノロジー』のコアと位置づけているイメージングとセンシング技術を進化させている企業である。ナンバーワンの技術で世界に感動を届けるためには、世の中のニーズを捉え、新たな事業機会を捉えていくことが重要である。世界の未来をワクワクする方向へと切り拓くことを期待している」と述べた。

  • ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長CEO

進化に挑み続けるイメージセンサー

最初に紹介したのは、ソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α1」に搭載している35mmフルサイズ積層型CMOSイメーシセセンサーである。

スピードを追求して一瞬を捉えること、圧倒的画質を達成すること、肉眼を超える画像を作り出すことにこだわり、プロのニーズを満たすためのCMOSイメーシセセンサーを開発したという。

  • メモリー内蔵35mmフルサイズ積層型CMOSイメーシセセンサー

ソニーセミコンダクタソリューションズ モバイル&センシング事業部の上村晃史氏は、「無限で多様な表現するためには、『光』に対する技術を追い続けることが必要である。α1に搭載した積層型CMOSイメーシセセンサーは、要素技術を含めて、ソニーセミコンダクタソリューションズの英知を結集して開発したものであり、ソニーのカメラ部門との連携により、数1,000人の技術者が共同で作業を行って生まれた傑作である。世界を驚かせ、感動で満たすという大きな目標を一人ひとりが意識し、チームとして動いたことで、大きな課題を乗り越え、実用化できた」という。

妥協がないカメラとして登場したα1では、クリエイターに驚きと感動を与えることができたとし、今後、その期待を超えるイメージセンサーとして、進化に挑み続ける姿勢を示した。

  • フルサイズミラーレスカメラ「α1」

また、ソニーセミコンダクタソリューションズのイメージセンサーが、ミラーレスカメラからスマホにまで搭載されており、「手軽な撮影体験によって、全世界の人たちがクリエイターになることができる」と述べた。

また、2021年12月に発表した世界初の2層トランジスタ画素積層型CMOSイメージセンサー技術について説明。ダイナミックレンジの拡大とノイズの低減を実現することで、逆光などの明暗差が大きいシーンでも白飛びや黒つぶれがなく、室内や夜景などの暗いシーンでもノイズの少ない高画質な撮影が可能になるという。

従来は、同一基板上で形成していたフォトダイオードと画素トランジスタの層を別々の基板に形成し、上下に積層することで、従来比約2倍の飽和信号量を確保し、ダイナミックレンジ拡大とノイズ低減を実現し、撮像特性を大幅に向上しているのが特徴だ。

  • 世界初の2層トランジスタ画素積層型CMOSイメージセンサー技術

ソニーセミコンダクタソリューションズ 第2研究部門の中澤圭一氏は、「この研究は、究極の画素構造はなにか、というところからスタートしている。3Dシーケンシャルインテグレーションと呼ぶ新たなプロセス技術を採用。製造フローの途中で新たなウェハーを貼り合わせるもので、フォトダイオードの形成後に、シリコンウェハーに貼り合わせ、その上に画素トランジスタを形成している。アライメント精度はリソグラフィーで決定されるため、高精度なアライメントが可能になる。課題となっていたウェハー積層後の製造工程における熱問題も、ウェハー接合技術の進化や新たなトランジスタ構造により解決した」という。

新たな製造プロセスと構造を採用したことで、画素性能の向上だけでなく、新たな機能の追加なども可能になっているという。

ソニー目線で取り組む車載機器とEV(電気自動車)

続いて、モビリティへの挑戦として、EVのプロトタイプであるVISION-Sなどの取り組みについて触れた。

VISION-Sでは、安心安全なモビリティを実現する「Safety」、人に近づき、共に成長する「Adaptability」、モビリティエンターテインメント空間の深化を目指す「Entertainment」の3点に取り組んでいるが、これらの実現に向けて、ソニーセミコンダクタソリューションズのセンサー技術が採用されているという。

  • ソニーのEV。写真はプロトタイプの「VISION-S」

ソニーグループ AIロボティクスビジネスグループの田森正紘氏は、「刻一刻と変化する車外の周囲環境を認識するために、高感度でハイダイナミックレンジのイメージセンサーを搭載し、車室内では人の状態や行動を高精度に認識式するための画像センサーを搭載している」と、VISIONS-Sに搭載されている合計40個のセンサーが、リアルタイムに周辺環境の認識や把握し、安全運転を支援していることを示した。

ソニーセミコンダクタソリューションズの車載事業部の薊純一郎氏は、「数年前には、ソニーのようなコンシューマ向け企業が、車載向けセンサーを本気でやる気があるのかという目で見られ、訪問しても会議室が用意されず、プロジェクターもない廊下で、ノートPCの画面を見せながらプレゼンすることも多々あった。当初は、セキュリティカメラ向けイメージセンサーに似た仕様を車載向けに転用したようと考えていたが、お客様の声を聞くうちに、求められているものが違うことに気づき、LED標識やLEDライトを認識でき、トンネルの出入り口などの明暗差が大きな場所でも白飛びが無いように、独自のサブピクセスという画素構造を開発して、広大なダイナミックレンジと、LEDフリッカーの抑制を実現した。ここからソニーに対する見方が変わり、会議室に通され、飲み物も出されるようになり、ようやく認めてもらえたと感じた」というエピソードを披露。現在、サブピクセルの第2世代製品の量産と、第3世代製品の開発を進めていることを明らかにした。「ソニー製センサーが搭載されていれば安心という世界を作りたい」と、今後の車載向けセンサーの進化に自信をみせた。

  • トンネルの出入り口などの明暗差が大きな場所でも白飛びが無いように、独自の画素構造を開発

なお、ソニーセミコンダクタソリューションズのセンサーは、ソニーのプロフェッショナル向けドローンのAirpeakにも採用されているという。

AIを活用したセンシングソリューションを拡大

3つめのテーマが、エッジAIセンシングプラットフォーム「AITRIOS」によるソリューション展開だ。

AITRIOSは、AIカメラなどを活用したセンシングソリューションの効率的な開発、導入を可能にするもので、エッジとクラウドが連携し、AIを活用したセンシングソリューションの普及、拡大を目指している。

  • AITRIOSのイメージ

ソニーセミコンダクタソリューションズ システムソリューション事業部の内海沙織氏は、「イメージセンサーが捕捉するデータ量は、他のIoTデバイスに比べて圧倒的に多く、処理が難しい。それがソリューション開発の障壁になっている。AITRIOSでは、パートナーがソリューションの開発、導入を行う際に活用できるプラットフォームとして提供。様々なイメージセンサーで培ってきた技術や知見を活用し、AI処理に向けて最適なデータ出力が可能になり、パートナーが開発したソリューションの性能を最大限に引き出すことができる。日常に新たな価値を送り出したい」とした。

AITRIOSでは、ソニーのAI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」のほかに、各種センサーとの接続も可能になるという。

米マイクロソフトは、2020年5月にソニーとパートナーシップを結び、ソニーのIMX500と、マイクロソフトのAzureの連携を行っているが、米マイクロソフトのRashmi Misra氏は、「センサーとクラウドを活用して、会議室の参加人数にあわせて、オフィスの冷暖房の動的な調整を実現するといったPoCも行っている。また、責任のあるAIの原則に基づき、リスクを検知し、抑制するツールも提供している。今後のエッジAIにおけるパートナーシップに期待している」と述べた。

地球をみまもる、プロジェクト「UNVS(ユニバース)」とは?

次に紹介したのが、ソニーセミコンダクタソリューションズとソニーのR&Dセンターが取り組んでいる社内プロジェクト「UNVS(ユニバース)」である。2021年12月には、事業化を目指した組織を設置。歩みを一歩進めたところだ。

  • プロジェクト「UNVS」

環境センシング、超低消費電力エッジAI、超広域通信ネットワーク、予兆分析をコア技術とした「地球みまもりプラットフォーム」を構築。ソニーセミコンダクタソリューションズ システムソリューション事業部の堀井昭浩氏は、「画像センシングに留まらず、地球の大気や土壌、水資源、森林のほか、作物、家畜、養殖におけるデータを収集。地球上のあらゆるモノやコトをセンシングし、エッジAI処理により、圧縮したデータをクラウドに集約し、必要な情報を人類社会に伝え、人々の行動変容を促すことが可能になる。環境破壊の未然防止、河川の氾濫や山火事などの自然災害の事前検知、農業や畜産業の生産性向上にも貢献できる」とした。

  • 地球みまもりプラットフォーム

また、ソニーセミコンダクタソリューションズ システムソリューション事業部の西村征也氏は、「UNVSでは、利潤を追求する企業活動と、社会課題を解決する活動を両立する、クリエイティングシェアドバリュー(共通価値の創造)という考え方を用いている。なにかのためになにかを犠牲にするトレードオフではなく、環境や社会課題の解決に貢献し、事業価値を高めていくトレードオンにシフトする必要がある。自然災害、高齢化社会、環境破壊、気候変動、人口増加などの課題に貢献するために、ソニーセミコンダクタソリューションズが持つ無線通信規格のELTRESのほか、AITRIOSや各種センサー群を用いて、どこにいても地球の状態を把握し、声なき声を聞くことができるサービスを実現していく。その第1歩として、農業IoTに着目し、水資源の不足と、それに起因する食料問題の解決に試験的に取り組んでいる」と述べた。

従来の農業IoTでは、散水や降雨により、センサーと土の間に隙間が生じて、土壌の測定精度が失われやすいといった課題があったが、ソニーの技術ではそれを解決。水不足が深刻な地域でも、最適な作物と水分量を提案したり、収穫量を高めることができるようになるという。

  • 無線通信規格のELTRESのほか、AITRIOSや各種センサー群を組み合わせて社会課題の解決に取り組むシステムのプロトタイプ

そのほか、ソニーセミコンダクタソリューションズ 厚木テクノロジーセンターのリニューアルでは、「テクノロジーキャンパス構想」によって、社員のほかにも、パートナー企業や大学とともに、コラボレーションや実証実験が行える「開かれた場」を実現すること、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング長崎テクノロジーセンターでは、2021年4月に増設棟「Fab5」が竣工したのに続き、さらにFab5の設備段階的に増強しており、2022年半ば以降には、現在拡張工事を行っている棟も稼働。最先端のCMOSイメージセンサーを量産することになるという。さらに、実業団女子ハンドボール部のBLUE SAKUYAの紹介や、欧州、米国、中国の各拠点からの社員の声なども紹介した。

  • ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング長崎テクノロジーセンターの拡張工事の様子

  • 実業団女子ハンドボール部のBLUE SAKUYA