パナソニックは、同社のサステナビリティへの取り組みについて説明。2022年4月からの持株会社制にあわせてスタートする新中長期戦略では、サステナビリティを基軸とする計画を打ち出す姿勢を示したほか、持株会社に、楠見雄規グループCEOを委員長とするサステナビリティ経営委員会を設置し、グループ全体で取り組むべき施策の立案と実行を支援する体制を敷くことを明らかにした。さらに、「30% Club Japan」に参加し、2030年までに女性役員の比率を30%に引き上げる考えも示した。

  • 全社挙げてサステナビリティ、週休3日や環境事業で「理想」目指すパナソニックの新時代

    パナソニックの楠見雄規社長兼グループCEO

パナソニックの楠見雄規グループCEOは、「将来の世代に、社会の負を残さないためにも、様々な社会課題に、正面から向き合わらなくてはならない。グループすべての事業で最優先に取り組むのは、気候変動を含む地球環境問題である」としたほか、「パナソニックの伝統的な考え方がESG経営そのものである。これは、経営基本方針に立ち返ることであり、『物と心が共に豊かな理想の社会』を実現しながら、経営そのものをサステナブルにすることにつながる。お客様それぞれの理想のくらし、理想の仕事を支援し、地球環境に貢献できるように邁進し、そのお役立ちの報酬としていただく利益をしっかりと生み出し、企業価値向上につなげていく」と述べた。

  • 創業の使命に立ち返ること。競争力を徹底強化すること。これをパナソニックは目指す

2030年のCO2排出実質ゼロ、カーボンニュートラルへの進捗

パナソニックでは、2030年までに、全事業会社のCO2排出量を実質ゼロにするとともに、2050年に向けては、使用されている同社商品からのCO2排出量を減少させたり、BtoBやBtoGに対しても、省エネソリューションやクリーンエネルギー技術を提供することで、バリューチェーン全体のCO2を減らし、CO2排出規模を上回る削減貢献を目指す計画を打ち出している。また、2022年1月5日には、米ラスベガスで開催されたCES 2022のプレスカンファレンスで、Panasonic GREEN IMPACTを発表して、地球環境問題の解決に貢献する姿勢をみせた。

  • Panasonic GREEN IMPACTは、持続可能な未来のためのコミットメントである

同社によると、事業活動において年間220万トンのCO2を排出しているが、調達や製品の使用によるバリューチェーン全体のCO2排出量は、年間で約1億1,000万トンとなり、世界の電力消費の約1%に相当するという。

「パナソニックグループの商品は、世界で毎日10億人以上が利用し、その消費電力によるCO2排出量は8,600万トンとなり、バリューチェーン全体の80%を占めている。さらに、そのうちの80%が照明、空調、換気である。これらを中心にエネルギー削減を進めることが大切である。また、パナソニックが向き合う産業は多岐に渡っており、様々な領域からCO2排出量削減の働きかけを行うことが、世界のカーボンニュートラルに向けた動きを加速させることにつながり、社会全体のエネルギー変革を前倒しするインパクトにつながる。Panasonic GREEN IMPACTは、持続可能な未来のためのコミットメントである」と述べた。

ここでは、照明、空調、換気における取り組みについて説明した。

照明では、床や机などの平面の照度に加えて、快適性の研究をもとに、空間の明るさ感を指標化しており、「光制御技術」と「適所適光による空間演出」によって、快適性を損なわずに、最大30%の省エネを実現。空調および換気では、機器の革新や空調機器の連携などにより、約40%のエネルギー削減を目指し、冷媒回路技術のノウハウを活用した室外機の排熱活用技術「エネチャージ」を冷房に展開。換気の熱ロス低減や、空気質のセンシングに応じた空調機器の連携で最適制御を行い、使用するエネルギーの極小化と快適性の両立を図るという。

「需要の拡大や商品力の強化によって、これらの商品の販売が成長すると、この領域での使用エネルギー量が増加することになる。いかにネルギーを削減するかが大切である」とした。

  • 快適さを維持しつつ省エネを実現する

車載電池や再エネ、エネルギーシフト事業で役立ちたい

また、社会のエネルギー変革については、需要サイドで電化を進めていくことが大切であると指摘し、空気中の熱をヒートポンプで効率的に集め、少ない電力で温水を作るヒートポンプ式温水暖房機の提案、吸収式冷凍機を活用したコージェネの廃熱利用の提案のほか、将来的には水素燃料電池などの再エネ由来のコージェネに置き換えて、これを病院や公共施設、工場などにも提案していくと述べた。

なお、吸収式冷凍機を活用したパナソニックの拠点での実証では、17%のCO2排出量削減を達成しており、今後は、各事業場にも展開していくという。

環境車向け車載電池では、容量、コスト、供給力の徹底強化のほか、今後の製品化が予定されている高容量の4,680セルの生産性向上、2,170セルの急激な需要増大への増産対応などに取り組んでいるほか、リユースやリサイクルまで見据えた環境負荷低減により、環境車の普及拡大に貢献する考えを示した。

  • 環境車向け車載電池の競争力を強化

ここでは、充電式乾電池についても言及。「繰り返し利用できる充電池では、充電できる回数の延長など、寿命延長も大切である。リチウムイオン電池の創成期から積み重ねてきた技術やノウハウを生かし、電池の個体特性と使用状況に応じた独自の充放電制御技術の開発などにより、寿命劣化を抑え、電池を長く使える取り組みを行っていく」とした。

さらに、再生可能エネルギーの拡大に向けて、2022年春から、滋賀県草津の燃料電池工場で、純水素型燃料電池と太陽光発電、リチウムイオン蓄電池を連携したRE100ソリューションを展開。再生可能エネルギー由来の水素を活用することで、供給サイドの再エネ拡大につなげるという。

加えて、樹脂のリサイクルでは、再生樹脂の高純度選別技術と材料調合により、機能および寿命回復技術を進化。3種類の樹脂を99%の精度で選別する技術なども活用することで、家電リサイクル樹脂の循環モデルを構築し、すでに2014年~2020年までに、約11万トンの再生樹脂を商品に活用したきたという。

楠見グループCEOは、「30年先のカーボンニュートラルの社会を正確に描き切るのは難しいかもしれないが、カーボンニュートラル社会を必ず実現し、それをできるだけ早期に実現しなくてはならない」とし、「そのためには、商品で使用するエネルギーも、生産するために使うエネルギーも徹底的に削減し、使わなければならないエネルギーは無駄なく使い、CO2排出量を徹底して減らす。また、化石燃料から電気へのエネルギーシフトを加速させ、供給エネルギー自体を再生可能エネルギーへと置き換えていかなくてはならない。事業サイドでのアクションが、供給サイドの再エネ化を加速させることにもつながる。さらに、資源循環も重要であり、サーキュラエコノミーの考え方を取り入れ、商品ライフサイクルを通じたCO2排出量削減にも取り組む。今回説明した取り組みは一例であり、地球環境問題を次の世代に残さないためにも、様々な領域で、できるだけ早く、できるだけ多くのお役立ちを果たしたい」とした。

週休3日やダイバーシティ活用、「働き方改革」の最前線へ

一方、パナソニックでは、心身ともに健康で幸せな人生を支えるために、「くらしのウェルビーイング」と、「しごとのウェルビーイング」に取り組む考えも示した。

「一人ひとりが快適で、安心で、心身ともに健康で、幸せな状態を、プライベートなくらしの場面、職場や現場の仕事の場面で実現したい。そのためには、従業員のウェルビーイングなしには、お客様のウェルビーイングが実現できないと考えている」と述べた。

「くらしのウェルビーイング」では、2021年9月に、米国でスタートしたパーソナルアシスタントサービス「Yohana」について説明。共働きの忙しい家族に対して、専属アシスタントがAIを活用しながら、暮らしの困りごとを支援することができるという。また、中国では、現地パートナーとの連携により、高齢者向け街づくり事業を展開。健康状態を日々の生活のなかで自動測定し、快眠を提供する住空間の自動制御と、健康データに基づいたコンシェルジュによる支援や、認知機能の低下を予測するサービスを提供。心のゆとりや、健康なくらしで、幸せな人生を支えることができる環境づくりに取り組んでいるという。

  • くらしのウェルビーイング

「しごとのウェルビーイング」では、買収したBlueYonderのソリューションと、パナソニックが現場で培ってきたエッジデバイスを組み合わせることで、働く現場を改善して、働く人をクリエイティブな仕事に従事できるようにしたり、高齢化による人手不足の解決につなげたりできるという。また、東京・汐留の同社ビル内には、ニューノーマル時代のワークプレイスを創造するための「worXlab」を開設。バイタルデータや位置情報、会話量などの人のデータと、室温やCO2濃度などの環境・設備データを活用することで、人起点での空間最適化を図っており、この成果をソリューションとして提供していくことになるという。

  • しごとのウェルビーイング

また、パナソニックの従業員のウェルビーイングでは、ワークライフバランスの実現に向けた制度や仕組みの見直しに着手することに言及。副業や自己学習、地域ボランティアなどを支援するための「選択的週休3日制」の導入、単身赴任勤務の選択や、配偶者転勤時の雇用継続を実現する「ホームオフィス」の導入、多様な価値観のワークライフバランスを維持し、個々の挑戦を支援するための評価制度や役職登用選考制度の見直しに取り組むとした。

  • 振り返れば過去、パナソニック(当時は松下電器産業)は、国内の週休2日制の導入では先駆者の役割を果たしていた

「全従業員に対する女性比率に対して、役職者の女性比率が極めて低いのが現状である。これは女性社員が挑戦しにくい状況になっていることだと認識している。役職登用選考では過度な負担を強いているため、挑戦を諦める社員が多いという実態もある。具体的には、各事業会社での検討や、労働組合との協議が必要だが、雇用に対する多様な価値観に適応するためにも、早期に変えたい。個々の事業環境に応じて、制度や支援策を柔軟に適用させることを前提とし、24万人のグループ従業員のくらしとしごとの調和を図ることで、多様な人材が力を最大限に発揮できる働きがいのあるグループを目指し、グループ全体の競争力を強化していく」と述べた。

女性や外国人、キャリア入社人材の活用が、パナソニックのダイバーシティ推進におけるポイントになるとし、とくに女性の活用については、「30% Club Japan」に参加し、2030年末までに、経営幹部に占める女性比率を30%に引き上げることを、目標に掲げていることを明らかにし、今後、その実現に向けたロードマップを明確にすると述べた。また、事業会社においては、結婚や出産などのライフイベントによって、女性が役職への登用機会に恵まれていないという実態を把握していることにも言及。今後は各事業会社のニーズを踏まえながら制度を改革し、女性の登用を加速していくという。

さらにガバナンスについては、「2022年度から、サステナビリティを基軸とした新中長期戦略に移行する」と前置きし、事業会社では、10年先の社会問題や環境課題の解決を起点として、戦略とオペレーション力の両輪で競争力強化を徹底すること、大幅な権限移譲による自主責任経営をさらに推進することを掲げる一方、持株会社では、事業ごとの競争力KPI(非財務)を見届け、それをもとに事業会社と徹底討議することや、サステナビリティ経営委員会を設置し、グループ全体で取り組むべき施策の立案と実行を支援すること、取締役などの報酬は、サステナビリティ視点での評価に連動することなどを示した。

  • 新年度からはサステナビリティを基軸とした新中長期戦略に移行

「戦略とオペレーション力の強化は、2022年度を待たずに、着手できるものから実行するスピード感を持って取り組む。また、あらゆる現場の無駄と滞留を撲滅し、オペレーション力を徹底的に磨き上げていく。サステナビリティ経営委員会では、私自らが委員長となり、環境と社会を中心に議論し、実行支援を行っていくことになる」などと語った。

「物と心がともに豊かな理想の社会」へ

パナソニックの楠見グループCEOは、「パナソニックの経営基本方針の実践は、サステナビリティ経営そのものである」と定義する。

パナソニックは、1932年の第1回創業記念式において、創業者の松下幸之助氏が、「パナソニックの使命は、『物と心がともに豊かな理想の社会』の実現にある」ことを打ち出した。

ここでは、1節を25年として、10節250年という長期で、「物と心がともに豊かな理想の社会」を実現するとしており、「自分たちの世代だけでなく、次の世代、その次の世代へと、真の使命達成の仕事を受け継いでもらいたいという創業者の願いが込められている。だが、次代を良くするために、私たちが犠牲になってはいけない。私たちが十分に、人生の幸福を味わい、人生を全うし、なおかつ次代を良くするということを創業者は添えている」と語る。

  • パナソニックは「250年計画」で使命を受け継ぐ

また、「私がCEOに就任以来、発信しているのは、使命を実践するために、お客様や社会から認めていただけるように、誰にも負けない立派な仕事をすることであり、そのためには競争力を徹底的に強化していくことが大切であるということだ。それを具現化するために、社員一人ひとりが実践していくための行動規範を示したものが経営基本方針である」と前置きし、「パナソニックが目指している『物も心がともに豊かな理想の社会』は、心身ともに幸せな状態を意味する『ウェルビーイング』と符合し、世代を超えて実現するという遠大な使命は『サステナブル』な経営でなくてはならないということを意味する。1932年に掲げられた使命には、ウェルビーイングとサステナブルの考え方が根底にあった。そして、使命達成に向けた経営基本方針は、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)に沿ったものである」とした。

ここでは、「環境」および「社会」の視点においては、「気候変動を含む地球環境問題の解決や、人々の心身ともに、健康で幸福の実現に向けて、誰にも負けない幸福へのお役立ちを果たし、得られた利益を社会に還元し、さらなるお役立ちに向けた投資にも回すことになる」とし、また、「ガバナンス」の視点では、「自主責任経営や、一人ひとりの社員稼業の実践、人を生かす経営、衆知を集めた全員経営、コンプライアンス順守を含む公明正大の精神を謳っていることと合致する」と位置づける。

その上で、「地球と社会へのお役立ちにおいて、誰にも負けない競争力を、誰にも恥じない社員一人ひとりの行動で維持、伸長し、さらにお役立ちを拡大することが経営基本方針の目指すところであり、経営そのもののサステナブルの要諦でもある」と述べた。