パナソニックは、東京・有楽町の東京国際フォーラムで創業100周年記念イベント「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」を開催した。この中で、パナソニック エコソリューションズ社の北野亮社長が、「次の100年における人々の『くらし』の変化とパナソニックのお役立ち」と題したビジネスセッションを行った。
「アタッチメントプラグ」を手掛けるエコソリューションズ社
エコソリューションズ社は、かつてのパナソニック電工(旧松下電工)の流れを汲み住宅関連事業を手がける、パナソニックの社内カンパニーだ。ちなみに、パナソニックの創業商品として有名なアタッチメントプラグは同社が担当しており、現在でも漁船向けや屋台向けなど、年間10万個の出荷実績があるという。
北野社長はエコソリューションズ社について、「練り物樹脂の製造技術をコアにスタートした配線器具や照明器具などの電設資材や、雨樋でスタートした住設機器のほか、空気質設備、ソーラー、蓄電池など、住宅分野および非住宅分野にひろく事業を展開している。近年は高齢者向け介護サービス事業、自転車によるモビリティに加えて、さらに街づくりにまで事業を広げている」と説明。同社を「24時間、人々が生活しているあらゆる場面で役に立てるカンパニーだ」と位置づける。
セッションには北野社長のほか、小学館 サライ編集室の小坂眞吾編集長、スキーマ建築計画の長坂常代表、東京大学大学院 工学系研究科 先端学際工学専攻の森川博之教授が参加し、人々の「くらし」の変化についてのパネルディスカッションを行った。このモデレータを務めたのは、フリーキャスターであり千葉大学の客員教授でもある木場弘子氏だ。
今後の住宅ビジネス、デジタルで成長させたい
まず北野社長は、「住宅着工件数をみると、先行きは明るくない」という見通しを示す。パナソニックは、住宅着工数が上昇し続けていた数十年前の成長期には、豊かなくらしを実現するためとして『電気の1、2、3運動』を展開し、1部屋に2つの灯りと3つのコンセントを提案するなどしてきた。その後も省エネで明るいインバーター技術や、LEDの普及にも力を注ぎ、人々のくらしを変えてきた。そして、「これからはデジタルが重要な役割を果たすことになる」と展望を述べる。
北野社長はパナソニックの強みを、「リアルなくらしのタッチポイントを持っている」ことだと話す。その強みを活かし、「デジタルが、さりげなくより良いくらしやより良い社会をサポートしてくれることに期待している。デジタルを活用することで、掃除、洗濯中であったり、午後からはホームパーティーを開いていたであったり、一日の中でその時間に何をしていたのかといった、これまではわからなかった、その人のくらしぶりがわかるようになる。実際のくらしぶりにあわせて、本人すら気がつかなかった新たな価値やサービスを提供できるようになる」と今後を語る。
パナソニックは直近、住宅向けIoT家電導入を包括的に提供する新ビジネス「Home X」を発表している。北野社長はHome Xを、利用者とくらしをデジタルでつなぐ「くらしの総合プラットフォーム」だといい、「Home Xでは、賢くて押しつけがましくない奥ゆかしいサービスを、さりげなく提供する」と説明した。
エコソリューションズ社の方針は今後も変わらず、「家、街、社会を、人起点で、より良く、快適にすることだ」と話す。ただし、「やり方は、いま流のやり方になる」という。変えるべきは変え、「IoTとAIを組み合わせた家電の知能化によるくらしのアップデートを通じて、人に寄り添った変化を提供したい。より良いくらし・社会のために、果敢に取り組み、変わり続けるカンパニーでありたい」と述べる。
未知のニーズを如何にかたちにできるか
ここで、スキーマ建築計画の代表で建築家でもある長坂常氏が、京都・南禅寺のブルーボトルや、東京・表参道のHAY TOKYOなど、自らが設計した店舗での経験をもとに、「ブルーボトルの店舗は京町家を改装したものであり、景観を守りながら、和の様式のなかに洋を取り入れた。また、HAY TOKYOでは、一晩で、すべての什器を取り外すことができる仕組みとなっている。パリでは、午前中にはマルシェだったところが、午後は通路になったり、広場になったりし、道にある緑もリフターで動かすことができる。散々、建物を作ったなかで、人がアクティビティになっていないという課題に気づいた。いまは、ある程度、街のなかに建物が整ってきて、そのなかをどうしていくかということが重要になっている。これからはリノベーションが重要になる」という気づきを語る。
長坂代表はさらに、「今後は、建物や部屋を所有するというだけでなく、時間単位で空間をシェアするようなことが増える」という見解を示す。そして、「空間を作る上でデジタル技術は必要になる。それによって、もっと豊かな空間を作れるだろう」と、デジタル技術とくらしが繋がることへの期待を語った。
東京大学 大学院の森川教授は、「隠れた顧客のニーズを探し出すことが大切であり、これを実現するのがデジタルである」と発言する。過去の例としてハードディスクレコーダーの登場を挙げ、「ハードディスクレコーダーにすべての番組を録画しておき、見ないものは消すという、それまでにないTV体験を実現した。こうしたものを探さなくてはならない」と、発言の背景を説明する。
今後さらに期待することとして、「AIやIoT、ビッグデータを使ったデジタルが、さりげなく裏側に入って使われる世界を期待している。たとえば、建物や地面などにセンサーを埋めることで、事前に地滑りなどの危険を検知するといった使い方が可能であり、命を救うことにつながる。こうした活動が地道に行われ、私たちをさりげなく守ってくれる世界が訪れてほしい」と、新しいデジタル活用の可能性を語った。
サライの小坂編集長は、家電を取り巻く現状を、「便利な家電が世の中に数多く溢れていても、デジタルが進み、すぐにそれ以上に便利な家電が生まれる。これが今後もずっと繰り返えされるだろう。一方で、モノを買っても、すぐ売ったりシェアリングしたりするような若い世代が増えている」と分析する。そして、「全体がこうした(若い世代の変化の)流れに対応していく必要がある」と語る。「モノとモノがつながるだけでなく、人と人がつながるものを出してもらいたい」と、パナソニックのデジタル活用への期待を寄せて締めくくった。