パナソニック コネクティッドソリューションズ社は、東京オリンピック/パラリンピック競技大会(東京2020大会)での支援活動について説明した。

パナソニックは、最高位となるTOP(The Olympic Partner)として、1988年のカルガリーオリンピックからスポンサーを開始。2024年のパリオリンピックまで長期パートナーシップ契約を結んでいる。

映像機材および音響機材を最初に納入したのは、1992年のバルセロナオリンピックのデジタル放送機材が最初で、1998年の長野オリンピックでは全天候型RAMSAスピーカー納入。2012年のロンドンオリンピックでは、開閉会式のプロジェクターを納入。13大会で貢献してきた経緯がある。

  • 映像・音響、そしてレッツノート、東京オリパラ成功に総力を結集したパナソニック

    1992年のバルセロナオリンピックから映像・音響機材で貢献している

東京2020大会では、すべての競技会場や非競技会場、各種施設において、競技サポートや映像演出、機器納入、システムオペレーションなどのソリューションを通じた支援を行い、パナソニックの技術力と現場力を結集して、大会運営をサポートした。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社副社長兼メディアエンターテインメント事業部 事業部長の貴志俊法氏は、「パナソニックは、事業を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与することを経営理念においている。スポーツを通して、世界平和への貢献と、よりよい社会実現を目指すオリンピック憲章に共感し、ワールドワイドスポンサーとして、長年に渡り、契約を結んでいる。アスリートが安心して、力を存分に発揮し、感動が世界中に伝わり、元気になることを目的に貢献活動を行っている。大会への貢献は、日頃行っている現場プロセスイノベーションをベースにしたものであり、それによって、アスリートや大会関係者の現場を支えることができた」と語る。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社 副社長兼メディアエンターテインメント事業部 事業部長の貴志俊法氏

セレモニーや競技を盛り上げたパナソニックの映像・音響機器

会場に導入した主なAV機器や放送機器は、多岐に渡る。

LED大型映像表示装置は、31会場に80面、2117㎡の規模で導入。プロ用音響システムは42会場に設置し、そのうち競技会場内への設置は15会場で、開閉会式用にもRAMSA大型ラインアレイスピーカー約40台を導入した。また、開閉会式向けのプロジェクターとして約60台、その他プロジェクターとして28台を導入したという。

放送などに使用するリモートカメラシステムやカムコーダー、スタジオカメラなどのシステムカメラは全部で約180台。レコーダーやドライブを含むデッキは約140台、スイッチャーは約50台、業務用ディスプレイや放送用モニターはあわせて、約1,400台を導入した。

さらに、レッツノートやタフブックといったモバイルパソコンは約1万2,000台したほか、セキュリティカメラは約7,000台を新規に導入。1,000台の既設カメラを含めて、過去最大となる約8,000台の規模で運用したという。また、同じく過去最大規模となる約350台のレコーダー(記録装置)を活用。オリンピック大会史上初となるウェアラブルカメラを約250台活用したという。

いくつかの具体的な取り組みを見てみよう。

1つめは放送における映像機器および音響機器ソリューションでの支援だ。

東京2020大会での新たな取り組みは、4KとHDを同時に放送するサイマル放送をオリンピック史上初めて実施したことだ。そのため、リオオリンピックに比べて約2倍となる回線数への対応が必要になったという。

  • 4KとHDを同時に放送するサイマル放送をオリンピック史上初めて実施した

また、大会自身が過去最多となる33競技、339種目を実施したこともあり、オリンピック放送機構(OBS: Olympic Broadcasting Services)が制作したコンテンツは約9,500時間に達し、リオオリンピックの約1.3倍に増加したという。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社メディアエンターテインメント事業部 事業開発センター所長の松原洋二郎氏は、「これまでにない大規模な放送コンテンツの制作業務に取り組む一方で、OBSではカーボンニュートラルへの取り組みを掲げ、さらに、コロナ禍での対応という、東京2020大会ならではの挑戦が行われた。パナソニックでは、最新の4K技術の提供と、5カ月間に渡る現場でのシステムサポートによって、こうした挑戦を支援した」と述べる。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社メディアエンターテインメント事業部 事業開発センター所長の松原洋二郎氏

とくに活躍したのが、パナソニックが得意とするリモートカメラだという。「現場にカメラマンを配置することになく遠隔で操作するリモートカメラは、屋根の上などの高所からの撮影など、従来では撮影が困難な場所から、アスリートの決定的な瞬間を捉えることができた。また、撮影現場にあわせたカメラの画質調整もリモートで行い、きめ細かくサポート。カメラの性能を最大限に引き出すことができた。東京2020大会ならではの美しく、迫力がある映像を、コロナ禍でのオペレーションの省人化、効率化と両立しながら、届けることができた」と胸を張った。

  • リモートカメラの導入によって、美しく迫力がある映像を、省人化・効率化と両立しながら届けることができた

また、映像制作現場では、スイッチャーやルーターといった機器の4K対応を図り、小型化、一体化、IP化することで、省システム化を実現したり、操作性を生かしたオペレーションの効率化に貢献したりといった成果が生まれたという。

たとえば、カヌー会場となった海の森水上競技場では、IT/IPスイッチャーであるKAIROSを活用して、レイアウトフリーなコンテンツ編集を実現。大型映像への画像切り出し作業の効率化を実現したという。「現場のAVマネージャーからは、IP/ITならではの直感的な操作性や、IPとSDI接続を組み合わせた効率的な4Kワークフローの実現に高い評価を得ている」という。KAIROSは、海の森クロスカントリーコースで行われた馬術でも使用された。

  • 4Kスイッチャーやルーターが、オペレーションの効率化に寄与した

一方で、5カ月に渡るサポート体制では、システム設計、システム設置、事前テスト機材レンタル、リモートトレーニング、運用保守をあわせて、延べ2,250人が1日3交代制の専任体制でサポート。コロナ禍で状況が変化するなか、3密を回避しながら様々な工夫を行って支援したという。

「コロナ禍で来日が遅れ、ホテルでの待機が余儀なくされた海外カメラクルーには、待機の期間を活用し、リモートでトレーニングを実施。また、従来は各テレビ局が個別のラックルームに分散して保有していた各種機能を、IBC(国際放送センター)の中央に集約することで、全体の消費電力を削減し、カーポンニュートラルを実現した」とし、「放送における映像機器および音響機器ソリューションは、過去13大会、26年間で蓄積した経験、知見を活用することで実現できたものである」と自信をみせた。

なお、パナソニックは、東京2020オリンピック聖火リレーのサポーティングパートナーとして、2021年3月25日から、福島県を皮切りに47都道府県を巡った東京2020オリンピック聖火リレーイベントでも、映像、音響機器などで支援。各地の状況にフレキシブルに対応した、運営サポートを行ったという。

2つめは、開閉会式をはじめとするセレモニーや競技会場でのプロジェクションおよび音響での貢献だ。

東京2020大会では最新鋭のプロジェクターを約60台活用し、迫力があるプロジェクションマッピングによるセレモニー演出をサポートした。

「東京2020大会では、高度な演出技術への期待、東京の夏ならではの厳しい現場条件や設置条件への対応、コロナ禍での大幅な制約下での運用が求められた。パナソニックでは、世界初となる5万ルーメンの4Kプロジェクターを活用。臨場感があるマッピング演出を支援した。また、システムサポートを通じて、より省スペースでの設置と、省人化による運営を支援した」という。

東京2020大会で使用されたパナソニックの業務用プロジェクター「PT-RQ50K」は、約50%の省スペース化を図りながら、投射面積が1.7倍、照度1.2倍を実現した世界最高輝度の5万ルーメンを実現。卓越した明るさと、鮮やかな色再現を達成したという。

  • 世界最高輝度の5万ルーメンを実現したロジェクター「PT-RQ50K」を駆使して、プロジェクションマッピングによるセレモニー演出をサポート

リオオリンピックでは2万ルーメンのプロジェクターを約110台使用したが、この台数を約60台にまで大幅に削減して、省スペース化を実現。映像表現では、朝日が昇る力強さをイメージしたサンライズレッドがセレモニーで象徴的に採用されるなど、発色が難しい赤が多用されるなかで、PT-RQ50Kでは、美しい赤を忠実に再現するために、独自の冷却技術を活用した赤レーザーの搭載によって対応。「東京2020大会ならではの大きく、明るく、迫力があるプロジェクションマッピングを実現できた」という。

また、国立競技場では、プロジェクターを配置するためのタワーを、客席スペースの4カ所に設置する必要があったが、ここでも本体の小型化が貢献して、省システム化に貢献。客席の占用スペースを最小化したほか、国立競技場が半屋外の構造となっているため、ゲリラ豪雨や梅雨、台風といった天候条件にも対応できる防水対策を施したほか、機器の温度や電圧の状況をリモートでモニタリングできるようにしたという。

こうした取り組みの結果、「リハーサルから本番が終了するまで、トラブルなく安定運用ができた」という。

パナソニックでは、開閉会式のほかにも、12会場でプロジェクターを納入。選手紹介や選手入場を盛り上げたという。

さらに、音響システムでは、有観客開催から無観客開催へと変更されたことにあわせて柔軟に構成を変更。既設のスピーカーと組み合わせながら、音環境を最適に構築。会場内にいる選手や大会関係者、VIP、報道関係者などに対して、高明瞭度で、均一に音声が届くように設計したという。

「スケートボード、BMX、クライミングの会場では、音による演出が重要であり、RAMSAが、これらの新競技を盛り上げることができた」と振り返った。

  • パナソニックのプロジェクターが多彩な演出を可能にて、多くの競技を盛り上げた

東京大会ならではの難しさがあったセキュリティ対策を支援

取り組みの3つめは、セキュリティ面での貢献だ。

パナソニックは2006年のトリノオリンピックからセキュリティカメラを導入。東京2020大会では、競技会場や選手村など、全48ベニューにAVセキュリティ機器を設置し、統合監視を実現したという。また、会場内で事案が発生した際には、ウェアラブルカメラを装着した警備員が急行し、警備員目線の映像を本部で確認。現場状況を把握できるようにした。さらに、事案発生時の指揮命令に関する情報統制、大会警備に関わる各種システムとの連携、治安機関との情報連携などを実現し、「各会場の警備本部からあがってきた情報を大会警備本部でもリアルタイムに把握できるようにするなど、映像監視システムは、大会警備の中核システムともいえる役割を果たした」(パナソニック システムソリューションズ ジャパン 東京オリンピック・パラリンピック推進プロジェクト セキュリティ推進部門統括の前田雄司氏)という。

  • パナソニック システムソリューションズ ジャパン 東京オリンピック・パラリンピック推進プロジェクト セキュリティ推進部門統括の前田雄司氏

東京2020大会では、セキュリティ上で、2つの課題があったという。ひとつめは、過去大会において設置された「オリンピックパーク」が存在せず、競技会場や選手村などが、生活圏である市街地に点在。会場ごとの強固なセキュリティ構築に加え、他会場との情報の共有や活用が重要であることだ。ここでは同時に、日常の都市活動への影響を最小限にしたセキュリティを実現するという課題もあった。もうひとつは、多くの会場が海辺と隣接しており、広範囲にわたる海辺での警備強化が必要になるという点であった。点在する会場を広域に守る必要があるため、監視や警備への負担が大きい大会だったのだ。

  • 競技会場と生活圏がバッティングするロケーションの東京大会ならではの負担があった。今回は既存の1,000台に加え、さらに約7,000台ものセキュリティカメラを導入

パナソニックでは、既設の約1,000台を含む約8,000台の監視カメラと、会場のセキュリティフェンス上に設置した約2,500台のセンサーを活用して、全会場を統合監視。センサーで異常を感知すると、該当する場所の映像を自動的に表示し、警備員がすぐに事象を把握。迅速な現場対処の指示を可能にしたという。また、海では気球を使って、広い海辺を上空から俯瞰的に監視して、人的警備と連携。危険を察知した場合には、指揮所から遊撃隊が現場に向かえるような仕組みとした。

「これにより、多くの警備員を配備するような、警備の物々しさを軽減した」という。

  • 警備本部での統合監視によって効率的に迅速な対処ができるように工夫した

また、パナソニックが持つセキュリティに関するノウハウを活用して、設計、施工、設置、運用、保守までを一貫してサポート。カメラ配置は、現地調査を行い、監視エリアの重要度や重要人物の動線に基づいて設計したほか、短期間での導入にも対応。「マラソン会場の急な変更や、コロナ禍に配慮した会場のレイアウト変更にも柔軟に対応した。また、約3,000人の作業員が、48ベニューで同時に設置工事を実施するために、プレパレーションセンターを稼働させて、すべての機材のキッティングや動作検証を行い、現場作業の負担軽減と品質の高位平準化を図り、短期間に設置、導入することができた」という。

さらに、全会場でスムーズな運用ができるように、教育、保守、運用面でもサポートを行い、競技時間中には30分で保守に駆け付けられる体制を敷くなど、24時間体制での運用サポートを行ったという。

修理拠点も設置、1万台以上のレッツノートが活躍

4つめが、東京2020大会の公式パソコンとなったレッツノートによる支援だ。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部マーケティングセンター課長の鈴木恭平氏は、「納入するパソコンの機種が変わると、セキュリティ管理が複雑になり、リソースも増加する。そこで、大会の3年前から準備を開始し、本番まで通用することができるハイスペックなレッツノート1機種に絞り込み、3年間にわたって同機種を生産し、提供してきた」とする。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部マーケティングセンター課長の鈴木恭平氏

競技場やスタッフ業務向けなどに、約1万2,000台のモバイルパソコンが大会運営をサポート。ここでは、競技情報管理や競技結果記録、入退出用アクレディテーションカードの発行業務など、50種類以上の業務に利用。「関係者からは、競技場への移動や屋外使用などの現場での手荒な使い方でも安定した品質で、故障がほとんどなかったといった声があった。また、コロナ禍におけるテレワークへの移行もスムーズに行え、準備を支障なく継続できたという声も出ている」という。

4時間以上の長時間駆動が仕様要件だったが、長時間駆動には実績を持つレットノートだけに、4年を経過しても問題なく稼働したという。

  • レットノートとタフブックが大会の準備から本番まで縁の下の力持ちとして貢献

  • 開会式でも使われてたレッツノートの様子

また、パナソニックでは、MPC(メインプレスセンター)内に、報道関係者向けにレッツノートの貸出と修理サービスを提供する「パソコン修理工房」を設置した。

日本では多くの報道機関がレットノートを使用していることもあり、それらのパソコンの修理や点検を実施したほか、海外の報道関係者が日本に移動する途中にパソコンが故障した場合にもレッツノートを貸し出した。さらに、MPC内には自由に使用できるレッツノートを10台ほど用意していたというが、利用者のなかには持参した他社製パソコンよりもスペックが高く、作業がスムーズに行えたといった声があがっていたという。

さらに、選手村ビレッジプラザには、NTTドコモが、「5G Internet Lounge & Cafe」を設置。レットノートを5G接続し、高速インターネット環境で利用できるようにしたという。

  • レッツノートでは、大会を伝える報道関係者向けのサポートも充実させた

こうした数々の事例からもわかるように、パナソニックは、東京2020大会の様々な場面で、大会運営を支援してきた。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の貴志副社長は、「パナソニックが持つ技術力、現場力を生かしながら、東京2020大会で培ったノウハウを次のイノベーションにつなげ、スポーツ、イベント業界に貢献したい」と語る。

なお、2022年2月に開催される北京2022冬季大会でも、パナソニックはTOPスポンサーとして、支援を行うことになるという。