NECは、グローバル5G事業への取り組みについて説明。NEC 執行役員常務 ネットワークサービスBU担当の河村厚男氏は、「Open RAN市場は、2025年度には、全世界で1兆円以上の規模が見込まれており、NECは、そのうち20%のシェアを獲得したいと考えている。Open RAN市場への選択と集中を図ることで、グローバルでの事業化を進め、Open RANベンダーとしてのポジションを、市場のなかでしっかりと確立していく」と述べた。
NECが「グローバル5G」で狙うもの
グローバル5Gは、デジタルガバメント/デジタルファイナンス(DG/DF)、コアDXとともに、NECが打ち出した「2025中期経営計画」における3つの成長事業分野のひとつであり、2025年度の売上収益は1,900億円、調整後営業利益率は10%を目指している。売上収益の年平均成長率は35%となる。
同社によると、グローバルの基地局市場は、約4兆円の規模と見られ、Open RAN市場は、2025年までの年平均成長率が35%以上となり、1兆円以上の規模に達する見込みだ。
「主要な通信事業者の85%がOpen RANを採用する意向を示しており、期待が高まっている。通信事業者にとっては、新規参入によるイノベーションの促進、レガシーベンダーによるロックインからの脱却、TCO削減への期待が、Open RAN導入のドライバーになっている。だが、その一方で、マルチベンダーによるシステムの複雑化、新たなシステム導入によるTCO削減の実現性が課題となっている」と指摘。その上で、「NECは、Open RAN導入の障壁を取り除くために、完全なエコシステムを提供する。そのためには、これまで培ってきた無線技術、仮想化技術を用いたプロダクトを中核のアセットとし、パートナープログラムを加えることで、エンド・トゥ・エンドのソリューションを提供する。また、市場ニーズにあったソリューションを、キャリアグレードのミッションクリティカル性を担保しながら、総合的にシステムインテグレートすることで、NEC製品単体だけでなく、マルチベンダーシステムにおけるサービス保証を実現し、お客様のシステムの複雑性を解決し、イノベーションの加速や、ベンダーロックインの排除といったOpen RANのメリットを最大限提供する」と述べた。
マルチベンダー化を進める上では、複雑性が課題となるが、「実績を積み上げることで、複雑性は、指数関数的に改善できる」と述べた。
また、TCO削減については、「ITの世界で起こったようなオープン化や汎用化の波が貢献する」と予測。「仮想化環境における汎用ハードウェアの適用領域の拡大、自動化による運用コストの削減のほか、オペレータが実現したいサービスをオンデマンドで提供することが、顧客の収益拡大につながると考えている」などと述べた。
NEC「グローバル5G戦略」の中身を紐解く
同社では、グローバル5G事業に関して、顧客戦略、製品戦略、事業遂行戦略の3点から説明した。
顧客戦略では、Open RANの先行顧客に注力して市場拡大を進めるという。
O-RAN AllianceやTelecom Infra Project、Open RAN Policy CoalitionといったOpen RANに関する業界団体の活動が活発化していることに着目しながら、Open RANへの先行導入に意欲的な顧客との共創を推進。Open RANの導入実績の拡大を図っていくという。ここでは、2021年10月には、NECの5G Open RAN対応基地局無線機が、Telecom Infra Projectの要件適合製品に認定された例も示した。
現在、日本では、NTTドコモと楽天モバイルに、Open RANの商用装置を出荷。「大規模ネットワークにおいて、先駆けて実用化することができた。また、RANを収容するためのモバイルコアにおいても、NTTドコモや楽天モバイルから選定された実績がある。国内での商用実績を武器に、欧州、北米を中心に、オペレータの開拓が進んでいる。実証実験のみならず、商用案件でも、Tier1オペレータからベンダー選定を受けている」などと述べた。
NTTドコモとは、RAN Intelligent Controller (RIC)による基地局のインテリジェント化に向けた共同開発を開始。NTTデータとは、グローバルでの5G活用による企業向け共創活動をスタート。楽天モバイルとは、完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワークをプラットフォーム化し、海外展開することで合意しており、5GコアのUPF(User Plane Function)性能で、世界最高水準のデータスループットを達成したほか、完全仮想化 クラウ ドネイティブモバイルネットワークプラットフォームであるRCP(Rakuten Communications Platform)の顧客開拓を推進しているという
また、欧米や中近東では12社が実証実験をスタート。また、日本、欧米、インドで、20社以上と商談を進めているという。
2020年11月には、英国に、CoE (Center of Excellent)を設立し、5Gのグローバル事業体制を強化。ボーダフォンUKやドイツテレコムからプレ商用プロジェクトを受注。テレフォニカとの協業では、商用導入に向けたOpen RANプレ商用実証に合意し、スペイン、ドイツ、英国、ブラジルの4カ国で、800サイトの商用導入を見据えたパイロットプロジェクトを推進するという。なお、テレフォニカでは、2025年までにモバイルネットワーク全体の50%を、Open RANにすることを発表している。
「先進的な取り組みを行う通信事業者と連携しており、多様なネットワークニーズに対応するために、エコシステムを活用し、そこでは、システムインテグレータとしての役割も担う。着実に案件を獲得している」と述べた。
製品戦略においては、「まずは基地局からスタートして、ソフトウェア領域にポートフォリオを広げることで事業を拡大。同時に、リカーリングビジネスモデルを展開していく」と語った。幅広い5Gポートフォリオを揃えるほか、ハードウェアビジネスから、ソフトウェアライセンスおよびSIサービスに事業を拡大し、高い利益率の獲得を目指す。
具体的には、O-RU(無線装置)ベンダーとしてのハードウェアビジネスに、CU/DU(Central Unit/ Distributed Unit)、5GC(5th Generation Core network)、SMO(Service Management and Orchestration)といったソフトウェア製品、RAN SI(RANシステムインテグレーション)といったサービスを加えることで事業規模を拡大し、「これらのポートフォリオのなかから、顧客にとって最適なソリューションを、責任を持ってシステムインテグレートするサービスとして提供していくことになる」と述べた。
同社では、製品戦略を2つのフェーズにわけて捉えている。
2022年までは、市場全体がOpen RANの導入と、ネットワークの構築フェーズであることから、NECでは「積極投資期」とし、O-RU(Open Radio Unit)を中心としたハードウェアビジネスで市場に参入し、顧客ベースを拡大すると同時に、ソフトウェアプロダクトを市場に投入する。「通信事業者が、Open RANによるネットワーク構築を開始するこの時期に、O-RUを中心に顧客を獲得し、RUベンダーとしての地位を確保しながら、Open RAN市場でのポジションを取っていく。同時に、ソフトウェアの製品ポートフォリオの拡充や、SI体制の構築に力を注ぐ」という。
また、2023年~2025年には、5Gの本格展開がスタートすることを予測し、これを「投資回収期」と位置づけ、Open RANのエリア拡大に伴い、運用の効率化や自動化へのニーズが高まると予測。O-RUのバフォーマンスを最大化するためのCU/DUの本格的な市場展開を開始するほか、自動化や運用効率化を実現するRIC(RAN Intelligence Controller)やSMOなど、NECが高付加価値ソリューションを総合的に提供する。
「ソフトウェア製品の自社開発に加えて、システムインテグレータとして、顧客ニーズにあわせて、他社ソフトウェアを活用したベスト・オブ・プリードによるソリューション提供を行う。5G領域で、サステナブルな事業を目指し、ソフトウェアに軸足を置いたビジネスへの転換を実現し、高い利益率を達成する」と述べた。
最後、3つめの事業遂行戦略では、「グローバル5Gの事業推進体制として、欧米、インドで先行し、グローバルに展開できる体制を確立。現地生産を含めた取り組みも進めていく」との基本姿勢を示した。
開発センターやラボは、日本、米国、英国、インドに設置するが、AIやMLといった5G市場における将来の中核技術や高度な機能の開発や、ハードウェアを含めた自社製品の開発は日本を中心に展開。インターオペラビリティテストやハードウェアの生産は、コストメリットがあるインドを中心に展開。ここでは、パートナー活用を含めたグローバル展開も推進するという。
また、開発拠点では、Open RAN市場が活性化する欧米にリソースを集中し、セールス、デリバリー、サポート、現地ラボなどの機能を持たせる。
「2025年には、現在の2.5倍から3倍に人的リソースを拡大していく。グローバルでの推進体制を早期に確立し、多数の顧客へのサービスを提供し、Open RANベンダーとしてのポジションを獲得する」と語った。
NECの河村執行役員常務は、「グローバル5Gは、国内商用実績に裏打ちされた高い製品力など、NECの強みが評価され、受注活動が順調に進んでいる。実績を積み重ねることで、市場におけるフットプリントを広げながら、Open RAN市場の形成を進める。2022年まではソフトウェア領域のポートフォリオ拡充と販売体制の強化に取り組み、2023年以降は、5G本格化の潮流を捉えて、ビジネスの拡大を図る」と述べた。