オリンピックのTOPスポンサーを務めるパナソニックは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会において、競技サポートや映像演出のほか、システムオペレーションなどのソリューションを含めた機器納入により、大会の進行を支援した。

パナソニックは、1988年に開催されたカルガリー大会から、オリンピックのワールドワイドオリンピックパートナー契約を結んでおり、同社では、「サポートを通じて、夢に挑むアスリートの姿や大会を支える人たちの情熱、それらスポーツの素晴らしさをあますことなく、世界各地へと発信することで、常に新しい感動と元気を届けてきた」としている。

  • 東京2020パラリンピック競技大会の運営を陰から支えたパナソニックのパワーアシストスーツ

    東京2020パラリンピック競技大会の運営を陰から支えたパナソニックのパワーアシストスーツ (パナソニック提供)

あの開会式ピクトグラムでも縁の下の力持ち

東京2020大会において、国立競技場(オリンピックスタジアム)で開催した開会式および閉会式では、パナソニックのプロジェクターを約60台使用した最新の映像音響機器技術によって、演出サポート。話題を集めた東京2020オリンピック開会式の「ピクトグラム 50個の連続パフォーマンス」のライブ映像は、パナソニックの「LUMIX DC-S1」と、「S-R24105」(24-105㎜F4レンズ)で撮影したという。

また、陸上競技男子100メートル決勝や陸上競技女子100メートル決勝、3×3バスケットボール、スポーツクライミングなどの競技を盛り上げたプロジェクションマッピングもパナソニックのプロジェクターを使用。自転車競技のトラックケイリンでは、先導車にパナソニックの電動アシスト自転車を採用。従来はバイクを使用していたが、電動アシスト自転車によって環境に配慮した先導を可能にしたという。

さらに、東京2020組織委員会では、東京都葛飾区、府中市、長野県飯田市、福井県福井市で、会場で観戦しているような臨場感や迫力を体感できる「未来のスポーツ観戦プロジェクト」を実施。競技会場に設置した魚眼レンズを装着した「LUMIX DC-BGH1」で撮影した競技映像をドームスクリーンに投影した。

そのほか、国際放送センター(IBC)には、4K/8Kテレビ放送に対応した放送システムを構築。システムカメラ約180台、デッキ約140台、スイッチャー約50台、モニター約1,400台などを提供。水泳競技を行った東京アクアティクスセンターの大型映像表示装置にもパナソニックの機材が設置されたほか、メインプレスセンターには、モバイルパソコン「Let's note」と「TOUGHBOOK」のサービス受付および無償の修理工房拠点を設置した。

また、選手村では、東京2020大会で初めて導入された純水素型家庭用燃料電池の提供や、5Gに対応したLet's noteのほか、「ナノイーX」搭載ルームエアコン、選温水洗浄便座の「トワレ」などを提供。次亜塩素酸により、清潔な空間を実現する「ジアイーノ」も約550台提供したという。

パラリンピック運営を支えたロボット技術

一方、2021年9月5日に閉幕した東京2020パラリンピック競技大会においては、パナソニックのパワーアシストスーツなどのロボット技術が、陰で大会運営を支えていた。

  • 1個で何十キロもあるパワーリフティングの重りを交換するのは、腕や腰にかなりの負担がかかるが、これを最新技術で文字通り「支えた」のだ (パナソニック提供)

大会ボランティアやスタッフが重いものを持ち上げる際の作業をアシストするパワーアシストスーツ「ATOUN MODEL Y」、歩行をサポートするパワーアシストスーツ「ATOUN HIMICO」と、「ATOUN MODEL Y」に腕のアシスト機能を追加して競技機器などの運搬を支援する「ATOUN MODEL Y + kote」の3種類のロボットに加えて、大会施設の床掃除を自動化するロボット掃除機の開発モデルを活用。「東京2020大会のビジョンにある『史上最もイノベーティブで世界にポジティブな改革をもたらす大会』の実現をサポートした」としている。

パワーアシストスーツについては、パナソニックからスピンアウトしたATOUN(あとうん)が製品化したもので、空港や工場、物流、建設、・農業現場など、重い荷物を取り扱う作業現場に導入されている。

東京2020パラリンピックに関連して、20台のATOUN MODEL Y、3台のATOUN HIMICOが使用されたという。

たとえば、競技エリアでは、パワーリフティングや砲丸投げの競技において、パワーアシストスーツのATOUN MODEL Yや、腕の動きサポートする「Kote」を、補助員などが利用。最大50Kgに達するパワーリフティング用の重りの交換を行ったり、選手が投げた男子7kg、女子4kgの砲丸を回収する際に使用。「パワーリフティングでは、一日に何度も重りを付け替える作業があり、砲丸投げでも選手が投げた砲丸を何度も拾う作業がある。パワーアシストスーツを利用することで、腰や腕への負担を軽減することができ、使用者からも効果があったという声があがっている」という。

  • パワーリフティングの競技サポートにパワーアシストスーツを使用している様子 (パナソニック提供)

  • 砲丸投げでも活躍。選手が投げた重い砲丸を何度も拾う必要がある (パナソニック提供)

そしてこれらは競技以外でも利用された。

国立競技場では、清掃部門において、足への負担を軽減するパワーアシストスーツのATOUN HIMICOを活用。成田空港や羽田空港では、パラリンピックの選手および関係者の荷物運搬にATOUN MODEL Yを利用。東京・晴海の選手村での荷物運搬や清掃にも、ATOUN MODEL Yを使用した。また、東京ビッグサイト内に設置されたメインプレスセンターの清掃部門では、ロボット掃除機の開発モデルを使用した。

  • 施設内を清掃するパナソニックのロボット掃除機 (パナソニック提供)

「広い国立競技場において、ごみの回収を行う場合に使用し、階段の上り下りの際の足への負担を軽減した。選手村でも重たい飲料などの運搬や、清掃で出たごみの運搬などをサポート。メインプレスセンターで使用したロボット掃除機の開発モデルは、現在、実証を行っているモデルのひとつで、1階のホワイエの清掃に2台を使用。清掃員の代わりに、広域エリアを隅々までを清掃した」と、同社の担当者は説明する。

パワーアシストスーツが社会に浸透するきっかけ

ATOUN HIMICOは、歩行の動きをセンサーで検出して、腰部のモーターと両膝のサポーターをつなぐワイヤーによって、歩行中の脚の持ち上げ下げをサポート。歩行による移動が長時間にわたる大会スタッフの疲労軽減に役立ったという。

  • ATOUN HIMICO

また、ATOUN MODEL Yは、センサーが人の動作を読み取り、モーターを繊細にコントロール。自然な動きを妨げることなく、作業をアシストするのが特徴。具体的には、腰の動きをセンサーが捉え、パワフルなモーターの力で重量物を持ったときにかかかる腰部の負担を低減。左右のモーターが個別に制御されているため、斜め取りなどのアシスト時にも、自然なサポートを可能としている。荷物の持ち上げ字には、腰を伸ばすように体を持ち上げるアシスト、荷物を下ろすときには、ブレーキをかけるように、身体をゆっくりと下ろすサポートが可能だ。

ATOUN MODEL Yに、腕を補助するユニット「+ kote」を加えたのが、ATOUN MODEL Y + koteであり、腰のサポートに加えて、腕をサポート。指先センサーで動作を感知し、ATOUN MODEL Yのフレーム上部にドッキングしたモーターユニットが、リストホルダーにつながるワイヤーを巻き取り、腕を引き上げることでパワフルかつスピーディーに作業をサポート。肩のモーターと手をつなぐワイヤーの伸縮により、荷物を引き寄せるときや持ち上げ、運搬などの作業時に腕をサポートし、作業効率の向上と疲労軽減を促進する。

  • ATOUN MODEL Y + kote

一方、ロボット掃除機は、将来に向けた研究を目的として開発したもので、カメラやLiDARを搭載し、人や壁、障害物といった掃除環境を高精度に自動認識。事前の片づけなしで、安全に床面を、隅々まで自動で掃除を行い、大会期間中の清掃員の作業負荷を軽減する。同社独自のナノイーXを搭載しており、集塵BOXを除菌し、清潔で快適な施設空間を提供するという。

  • 開発中のロボット掃除機

パナソニックは、パラリンピックについても、2014年に国際パランピック員会(IPC)と、国内初となるワールドワイドパートナー契約を締結。オリンピックでサポートしている映像音響システムや白物家電、電動自転車、市販電池、コンピュータ機器に加えて、パラリンピックでは、ユニットバスのアクアハートやTheシャワー、ホームエレベータ、パワーアシストスーツが対象カテゴリーになっている。

パナソニック社内には、東京オリンピック・パラリンピック推進本部を設置。障がい者スポーツへの協賛だけでなく、障がい者や高齢者を含めて、誰もが暮らしやすい社会の実現を目指した活動を続けてきたという。

また、パナソニックでは、東京2020組織委員会がロボット有識者、内閣官房、文部科学省、経済産業省、東京都、大会パートナーとともに推進する「東京2020ロボットプロジェクト」にも参画。人に寄り添う先進的なロボットの提供により、東京2020大会の運営に貢献したという。

パナソニックは「体力に左右されず、働くことができる社会、人にやさしい先進的な現場づくり、高齢者を含めたあらゆる人にやさしい商品、サービスの提供することしを目指している」という。「今回の取り組みは、こうしたモノづくりにつながることになる」としており、近い将来に振り返ってみれば、今回の大会がきっかけであったのだと思い出される日が来るのかもしれない。