パナソニックが、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催している「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」。その中で、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤好生社長らが、「変革するモビリティ~ミライのクルマ、街、くらし~」をテーマにしたビジネスセッションを行った。
オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は、パナソニックの車載関連事業を中心とした社内カンパニーだが、セッションの話題はクルマだけに留まらず、人々の生活全体に対して、自動運転などの最新技術が与える影響を探っていく内容になった。
パナソニックが完全自動運転時代にできること
伊藤社長は冒頭、パナソニックが目指すモビリティ社会について以下のように説明した。
「クルマを取り巻く環境には、『コネクティッド(Connected)』、『自動運転(Autonomous)』、『電動化(Electric)』、そしてクルマの『シェア(Sharing)』といった、『CASE』と呼ばれる変化が起きている。これらの変化の対応には、パソナニックがテレビやデジカメなど、家電で培ってきた技術が貢献できる。デジタルAVC技術や画像処理技術、電池、電源技術を活かして、コックピット、ADAS、自動運転、電動化の分野で、クルマの進化に貢献したい」
また、将来的に完全自動運転が実現した世界での“挑戦”にも言及。「ドライバーが運転から解放されると、移動時間の過ごし方が大きく変わる。パナソニックは創業以来、家電と住宅設備で、よりよい暮らしのための住空間を提供してきた。この住空間の技術やノウハウとコックピットシステムを融合させ、新たなコンセプトの移動空間を作る」と語る。
「新たな移動空間としての次世代キャビンは、乗っている人の状態をセンシングすることで、その人に最適な空間を提供する。人の体温にあわせて空調をコントロールしたり、用途にあわせて照明や音響をコントロールしたりすることで、リビングのような空間を作り出すことができる」と、将来的な展望も付け加えた。
「あわせて、未来のモビリティにも挑戦する。パナソニックは、藤沢と綱島で、スマートタウンをオープンした。エコで快適、安心、安全のインフラを提供している。ここでは、小型EVモビリティが街のなかを行き交い、子供たちの送迎に利用されるなど、地域の移動を支えていくことになる。街の活気を高めるモビリティサービスを提供したい」
これからのクルマは「つながる」
これら伊藤社長の話を受け、三菱総合研究所の杉浦孝明主席研究員をモデレータに、伊藤社長のほか、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の柴田雅久上席副社長、慶應義塾大学 環境情報学部教授 政策・メディア研究科委員長の村井純氏、モータージャーナリストの岡崎五朗氏、ファッションモデルの蛯原友里さんが参加してパネルディスカッションが行われた。
慶應の村井教授は、日本におけるインターネットの父と呼ばれる存在。「インターネットの前と後では生活が大きく変わった。いま普通のことが、インターネット以前にはどうやっていたのだろうと思うほどだ。最初はコンピュータが有線でつながっていることが、”つながっている”ことの証であり、それが格好いいとされた。当時のインターネットの世界をリードした雑誌の名前がWiredだったのもそれが理由だ」と前置きた。その有線接続が主流だった黎明期の当時から、「コンピュータをクルマに組み込むと、人と一緒に動くことができると考え、クルマへの搭載を進め、それから持ち運べるようなものを作ろうとした。そこからビジョンを考えて続けて、いまに至っている」と、インターネットが登場した早い段階から既に、クルマをベースにした研究が始まっていたことを示した。
これを受けて、パナソニックの柴田氏は「これからのクルマは、通信が前提になってくる。次世代通信規格の5G、準天頂衛星のみちびきによるGPSの進化、V2Xと呼ばれるクルマとクルマ、クルマと人、クルマとインフラがつながることで、さらにクルマは進化することになる。自動運転が発展し、運転をすることよりも、移動が主になる」とし、それにより、「クルマにはさらに車内空間の快適性が求められるようになる。パナソニックが培った技術を車内空間に生かすことができる」と話した。
三菱総研の杉浦氏は「快適なリビングやホテルのような車内空間になると、もっとクルマは便利になる」と指摘。岡崎氏も、「これまでのクルマは、走る、曲がる、止まるという3つの要素があり、そこにデザインがすばらしければ、いいクルマと言われた。この考え方が100年間続いてきた。だが、これからは、ここに、つながるという要素が加わることになる。つながることが、我々をワクワクさせている」と期待を寄せる。
一方、村井教授は「これまでのクルマ移動は、”運転”する必要から、子供の世話ができない、仕事ができないという状況になっていた。生活と移動が乖離していた。だが、コネクティッドオートモバイルでは、移動している間も、生活と同じことができる環境が実現する。生活のなかに、移動を溶け込ませることができる」と指摘。これに対し子育てと仕事を両立中の蛯原友里さんは、「運転で最もストレスなのが駐車するとき」で、「運転中に、後席のチャイルドシートで子供が急に泣きだし、なにもできないということがある。運転中も子供の相手ができる時間がつくれたらいいと思っている」と、実体験をもとに語る。
柴田氏は「全周囲カメラで障害物を検知する機能で、駐車のストレスを軽減できる。さらに次のステップでは、クルマが自動で駐車してくれる。その次にはショッピングモールの店の入口で降ろしてくれて、あとはスマホ操作でクルマが自動的に駐車スペースを探して駐車してくれるようになる。また、ドライバーの眠気発生時などに注意を促すシステムを開発しているが、この技術を応用し、後席のお子さんが泣かないように対話してくれるといったシステムも可能になるだろう」とした。
伊藤氏は「技術的に難しいものでも、使いやすいことが大切。技術者視点で作ってしまうと使いにくいものができてしまう可能性がある。パナソニックは、白物家電を長年やってきた。その上で、スイッチの場所、表示方法などを含めた使いやすさを追求してきた。この点でもパナソニックが貢献できる」と付け加える。
また今後は、カーシェアリングの仕組みにより、使いたいとき、必要なサイズのクルマを利用するスタイルが広がるという指摘があがる。柴田氏はそれに同調しながら、「とくに女性から、前の利用者のたばこ臭やポテトチップのニオイが気になるという声がある。前の利用者がインフルエンザや風邪だったということも想定できる」とし、蛯原さんも「子供を病院に連れていく際、逆に風邪がうつるかもしれない」と心配する。柴田氏は「パナソニックのナノイー技術で車内の空気をきれいにできる。シェアリング車に乗るだけで、髪や肌に潤いを与えるということにも使える」とし、さらに村井教授は「病院に行かなくても、クルマのなかで移動中に診療が受けられたり、診療したりできる時代がやってくる」と展望を話した。
モビリティは地方創生にも貢献できる
セッションでは、地方都市におけるクルマの必要性についても議論があった。地方ではクルマが必要不可欠な移動手段であるものの、高齢化で、住民の免許返納も進んでいかざるを得ないという問題が生まれている。
参加者たちは、自動運転の実現が、こうした地方の移動の問題を解決したり、ドライバー不足を解決する手段になると話しあう。また自動運転車が、地方都市を訪れる外国人観光客に対しても、新たに有力な移動手段のひとつになり、地方創生にもつながっていくことなどが話された。杉浦氏は「モビリティは、地方のインフラを活性化することができる。地方創生において、これからはモビリティによる社会を作る必要がある」と結論づけた。
最後に、モータージャーナリストの岡崎氏は「移動の自由度を高め、快適性を高め、安全性を高め、これを安価に利用できることが求められている。今後のモビリティに期待したい」と述べる。蛯原さんは「自動運転によって子育てにもいい影響をもたらし、みんなが笑顔になれるクルマが登場してほしい」と発言した。村井教授は「パナソニックには、人の周りにあるものを使いやすくするという知見が蓄積されている。自転車、車椅子、小型EV、自動車など、様々な移動手段において、これらのノウハウが生かされることに期待したい」と述べ、セッションを締めくくった。