パナソニックは、同社独自のクリーンテクノロジーであるナノイーおよびナノイーXのモビリティ向けの展開を強化。8社96車種に搭載している自動車向けの販売台数が、2021年7月に、累計1,000万台に到達したことを受け、2025年度には累計出荷2,000万台を目指す新たな計画を明らかにした。また、トヨタのヴェルファイアを使用した実車におけるナノイーの効果を検証。1時間の曝露で菌やウイルスを99%以上抑制したことがわかった。
パナソニック アプライアンス社ビューティ・パーソナルケア事業部デバイス商品部の中村浩二部長は、「コロナ禍により、車移動の増加とともに、車内の清潔ニーズが高まっている。車移動や清潔ニーズに、ナノイーで貢献したい」と述べた。
水から生まれたナノイー、清潔な空間へ効果
ナノイーは、空気中の水に高電圧を加えることで生成されるナノサイズの微粒子イオンだ。霧化電極を冷やすことで空気中の水を結露させて作った結露水に、高電圧をかけることで、ミストが次々とRayLeight分裂を起こし、ナノイーを生成し、放出する。
直径5~20nmの弱酸性の水のなかに、反応性が高いOHラジカルが生成され、これが脱臭、菌、アレル物質の抑制に効果を発揮する。サイズは、タバコの煙やウイルス、スチームよりも小さいため、繊維の奥まで入り込んでアレル物質を取り込み、活動を抑制したり、マイナスイオンよりも長寿命という特徴を持つ。
「水分子やOHイオンは、8個の電子で構成され、安定しているのに対して、OHラジカルは7つの電子で構成され、ひとつ足りない超不安定な状況にある。そのため有害物質から電子を奪おうとして、水素ごと奪う特性がある。また、OHラジカルは水に包まれており、効果が長持ちし、遠くまで到達する。空気中に多い酸素や窒素に反応せず、対象成分に到達して反応し、菌や臭いなどを抑制する」という。
ナノイーが作用するメカニズムは、「分解」と「変性」だ。
分解では、水に包まれたナノイーが、空気中を消滅することなく浮遊。カーテンやカーペットなどの繊維の奥まで到達し、繊維にしみついたニオイの原因物質とナノイーが結合。ナノイーのOHラジカルが、アンモニアなどの臭いの原因物質と化学反応し、無臭成分に分解。繊維にしみついた臭いを元から消すことができる。
変性では、ナノイーが的確に菌に届き、OHラジカルが菌のたんぱく質を変性。これによっても、菌を抑制するという仕組みだ。ハーバード大学公衆衛生大学院環境衛生ナノサイエンス研究所との共同検証では、ナノイーが、菌の細胞壁と細胞膜を損傷して、抑制する効果があることがわかったという。今後、様々な菌やウイルスを抑制する可能性や、空気滅菌での活用、食品業界や院内感染予防分野におけるナノイーの応用について、共同研究を進めるという。
ナノイーの始まりは、1997年、当時の松下電工 快適科学研究室において、水には臭気成分を溶かす性質があることに着目し、これを空気浄化に応用することを検討。住環境の空質改善をテーマに研究をスタートさせたことにある。この成果をもとに、2001年にナノイーの発生技術の開発を開始。2003年には、ナノイー技術を搭載した空気清浄機「エアーリフレ nanoe」を発売した。その後、発生デバイスを小型化、高性能化、高濃度化といった形で進化させ、パナソニックの様々な製品に搭載してきた。
さらに、2016年に発表したナノイーXは、山形大学工学部電気電子工学科の東山禎夫教授と共同研究を行って開発。4本針形状のマルチリーダー放電を採用したことで、コロナ放電方式を採用していた従来のナノイーが毎秒4,800億個のOHラジカルを発生していたのに対して、ナノイーXでは、10倍となる毎秒4兆8,000億個のOHラジカルを発生することができるようになった。
ナノイーXでは、主要なカビの抑制や日本の主要な花粉の抑制のほか、タバコ臭やペット臭、焼肉臭、生乾き臭、汗臭の生活5大臭と、加齢臭を脱臭。PM2.5に含まれるとされる有害物質を分解したり、ダニ由来や菌由来の主要なアレル物質の抑制、浮遊や付着している菌やウイルスの除菌、抑制ができる。また、肌水分量の湿度を20%アップさせるなど、美肌や美髪の効果もあるとされている。
2020年7月には、大阪府立大学 大学院生命環境科学研究科 獣医学専攻の安木真世准教授との共同実験により、ナノイーで使用される帯電微粒子水が、新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」に対する抑制効果を確認できたと発表している。
なお、ナノイーの名称は、微細化技術のナノ(nano)と、電気を帯びたエレクトリック(electric)を組み合わせた造語で、パナソニックが世界各国で登録商標している。また、ナノイーXのXは、10を示し、従来のナノイーよりも10倍のOHラジカルを発生することに由来している。現在、ナノイーの国内認知度は75%に達している。
家電だけじゃない、コロナ禍のニーズ受けひろがり加速
現在、ナノイーおよびナノイーXは、空気清浄機や洗濯機、冷蔵庫、エアコン、ヘアドライヤーなど、パナソニックの40商品に搭載。さらに自動車メーカー8社、エレベータメーカー7社、鉄道会社11社をはじめ、44社で採用されているという。
2020年度のナノイーの生産台数実績は850万台。2025年度には1,500万台の出荷を目指している。
そうしたなか、パナソニックが注力する領域のひとつに掲げたのが、クルマをはじめとするモビリティ市場だ。
調査によると、2020年4月の第1回目の緊急事態宣言以降、38.3%の人が、マイカーでの移動を増やしたと回答。その一方で、空気の質が気になる場所では、「自動車の車内」、「バス・電車タクシーなどの公共交通機関」とした人が30%以上を占めるという結果が出ている。
パナソニックでは、スズキ、マツダ、三菱自動車など、8社96車種にナノイーを搭載。トヨタでは、ナノイーX搭載車を、ハリアー、クラウン、MIRAI、ヤリス、ジャパンタクシーなどに展開。7月19日にトヨタが発売した新型アクアにも、ナノイーXを搭載している。
「車種によって、ナノイーを搭載する位置や風量などをシミュレーションして、車内にナノイーが規定値以上の濃度で拡散できるようにしている。なかには、2台のデバイスを搭載している車種もある。とくに、トヨタでは、車室空間の空質改善の取り組みの一環として、ナノイーXを積極的に採用している」という。
ナノイーの車載向け販売は、2007年11月に開始。13年間を経て、2021年7月に累計1,000万台を達成したところだ。「現在、国内で販売される新車の約5台に1台にナノイーが搭載されている。今後展開を加速し、4年後の2025年度には累計2,000万台の販売を目指す」とした。
採用する自動車メーカーの拡大に加えて、搭載する車種を増やすほか、ひとつの車種においても、グレードによって搭載される範囲を広げることで、搭載率の向上に力を注ぐという。
また、パナソニックでは、トヨタのヴェルファイアを使用したナノイーの効果についても実証した。
試験対象としたのは、菌抑制、ウイルス抑制、付着臭(タバコ臭)の脱臭、花粉(スギ)の抑制の4点。試験対象を付着させた試験片を、運転席および2列目運転席後ろ、3列目中央のヘッドレストの高さに設置。ヴェルファイアに標準搭載されたナノイーを1時間曝露し、それぞれの試料を回収して、効果を測定した。
菌抑制およびウイルス抑制では99%以上を抑制。付着臭(タバコ臭)の脱臭では、臭気強度を、1以上低下させることができ、ほとんどの人が脱臭効果を体感できたという。また、花粉(スギ)の抑制では、69%以上の抑制ができたという。
「ナノイーにより、安心、快適な車内空間を届けることができる。移動空間における空質のニーズは高まっている。今後は、鉄道会社への提案も積極化したい。また、中国やASEANなどの海外展開も進めていく。すべての人に、安心、快適な移動空間を実現したい」と述べた。
コロナ禍で高まる空質ニーズに向けて、ナノイーが採用される場面が増えそうだ。