シャープは、唾液に含まれる新型コロナウイルス(変異株を含む)に、同社独自技術であるプラズマクラスターイオンを2時間照射すると、感染価(感染性を持つウイルス粒子の数)が99.4%以上減少することが実証できたと発表した。
同社では、2020年9月に、長崎大学とともに、プラズマクラスターイオンが空気中に浮遊する新型コロナウイルスを減少させる効果があることを実証している。今回は、日本ウイルス学会理事である島根大学医学部微生物学講座の吉山裕規教授と、明海大学保健医療学部の渡部茂教授、京都工芸繊維大学機械工学系の山川勝史教授が監修し、ウイルス対策として推奨されている湿度60%の条件下で検証を行い、モノに付着した唾液に含まれる新型コロナウイルスの減少効果を新たに実証したことになる。
シャープ Smart Appliances & Solutions事業本部副本部長兼空調・PCI事業部長の中島光雄氏は、「新型コロナウイルスの感染経路には、浮遊ウイルスによる飛沫感染と、付着するウイルスによる接触感染の2つが考えられている。今回の実証によって、浮遊ウイルスと付着ウイルスの両方の効果を実証できた。また、事前検証によって、より生活環境に近い条件下での減少効果が確認できた」としている。
また、島根大学医学部微生物学講座の吉山裕規教授は、「新型コロナウイルスの変異株に対しても同等の低減効果が得られており、今後発生する新たな変異株についても同様に低減効果が期待できる」とした。
「富岳」の飛沫シミュレーションも反映し、実環境に近い検証
今回の実証実験の実施にあたっては、2つの事前検証を行っている。
シャープ Smart Appliances & Solutions事業本部空調・PCI事業部 副事業部長兼PCIソリューション推進部部長の岡嶋弘昌氏は、「新型コロナウイルスは、実際の空間では検証ができないが、より実環境に近づけるために事前検証を行った。乾燥する冬場に感染が拡大したこと、スーパーコンピュータ『富岳』による、湿度を上げることで飛沫飛散が抑制されるが、落下飛沫が増えるという飛沫シミュレーションの結果を反映した」という。
ひとつめは、実生活環境を想定するために、2つの異なる湿度での飛沫粒子の動きをシミュレーションした。その結果、湿度30%と60%の時に、人が咳をした場合、湿度60%の環境では、人の周囲に浮遊する飛沫粒子が、湿度30%の時と比べて減少する一方で、その飛沫粒子は落下してテーブルなどに付着することがわかった。今回の実証実験を行う上では、湿度60%の環境で、落下して付着した新型コロナウイルスの低減効果を検証することが重要であると判断した。
京都工芸繊維大学機械工学系の山川勝史教授は、「相対湿度を上げることは、飛沫粒子拡散の抑制に貢献するが、一方で落下した飛沫粒子へのケアが必要になる」としている。
2つめは、ウイルス感染を引き起こす飛沫の多くが唾液に由来することから、通常ウイルス試験に用いる液体培地と唾液のそれぞれに混合した新型コロナウイルスを用いて、湿度60%の環境で、2時間自然放置した場合の感染価を測定した。その結果、液体培地中の感染価は1%未満だったのに対し、唾液中の感染価は約56%残存したという。
明海大学保健医療学部口腔保健学科の渡部茂教授は、「食事中に分泌される唾液量は安静時の約10倍となっている。これにアルコールが加わると、口数が増え、多くの唾液が出る。食事中に話すと、安静時より多くの飛沫が飛ぶ可能性が高い。また、唾液は水に比べて蒸発しにくく、落下した唾液は水よりも長く存在し続ける。新型コロナウイルスは、感染時に、細胞の表面にある受容体(ACE2)と結合し侵入するが、口や鼻の気道上皮細胞には、ACE2が多く存在し、そこから感染、増殖することがあり、粘液などを通じて唾液にウイルスが含まれると考えられる。感染者の唾液は新型コロナウイルスを含んでいる可能性がある。排出された唾液の飛沫は、粘性により乾燥しづらく、含まれるウイルスが長く活性を保っている可能性もあるため、注意が必要である」と述べた。
また、島根大学の吉山教授は、「液体培地中の感染価は1%未満だったのに対し、唾液中の感染価は約56%も残存していることが確認できた。唾液の存在が感染リスクを高めることがわかった」とした。
こうした事前検証をもとに、プラズマクラスターイオンの効果検証試験を実施した。
島根大学医学部微生物学講座に、今回の実験のために、プラズマクラスター技術搭載付着ウイルス試験装置を開発し、約38Lの試験空間に、約60万個/cm3の濃度を持つプラズマクラスターイオンを、10cmの距離から照射。付着ウイルスは、唾液とウイルス液を混合し、フィルターにウイルス液を50uL塗布した形でシャーレのなかに設置した。唾液は20~60歳代の男女7人分を使用。検証したウイルスは、従来株と変異株(アルファ株)の2種類。試験条件は、温度が約20℃、相対湿度を約60%とした。
シャーレ上のフィルターに、プラズマクラスターイオンを2時間照射したあとに回収し、TCID50法によりウイルス感染価(TCID50/mL)を算出している。
その結果、従来株は、プラズマクラスターイオンなしに比べると、減少率が99.7%となり、変異株は同じく99.4%となった。
島根大学の吉山教授は、「感染価を長く保つ唾液で、新型コロナウイルスを減少させる可能性を示したことは、感染防御の点から大変意義がある。プラズマクラスターイオンによる効果でウイルスの表面構造が変化することで感染力が減少したと推測される。これは、デルタ株をはじめとして、どのような変異株に対しても、同様の効果があると推測することができる」とした。
また、シャープの中島氏は、「変異株は、スパイクたんぱく質の先端が変わるものであり、ウイルスの構造そのものは大きく変わっていない。プラズマクラスターイオンは、表面のたんぱく質に効いているということは、いまの変異ウイルスのすべてに効果があると考えている」とした。
家庭内やパブリックな空間での活用、継続して探る
今回の結果をもとに、シャープの岡嶋氏は、「実環境における新型コロナウイルス減少効果、変異する新型コロナウイルスの減少効果、新型コロナウイルスの2つの感染経路に対する効果を示すことができた。ワクチン接種は進展しているが、懸念がすべ払拭されるわけではない。引き続き、より実使用に近い条件における効果の検証や、未知のウイルスなどに対応するために専門家とのネットワークを強化する。また、デバイス技術の進化に取り組み、プラズマクラスター技術の効果、効能の向上を図る。家庭内やパブリックな空間におけるプラズマクラスター技術の効果的な活用方法についても、検討、提案していく」とした。
また、シャープの中島氏は、「これまでは空間ケアという考え方だったが、これが身の回りケアという考え方になってくるだろう。バスや鉄道、タクシーなどの移動空間でも、効果を発揮するような商品づくりが必要だと考えている」と述べた。
現在、市販されているプラズマクラスターイオンを搭載したイオン発生機や空気清浄機などでは、濃度5万個/cm3のプラズマクラスターNEXT、濃度2万5000個/cm3のプラズマクラスター25000、濃度7000個/cm3のプラズマクラスター7000の3つのデバイスのいずれかを搭載しており、試験で活用した約60万個/cm3の濃度とは大きな差がある。
島根大学の吉山教授は、「時間をかければ、減少させるという効果が見えている。また、10分の1でも抑制できれば、感染防止にも効果があるといえるのではないか」としたほか、シャープの岡嶋氏は、「販売している空気清浄機の吹き出し口近傍では、時間をかければ、約60万個/cm3の濃度に近いものが出ている」とした。
シャープのプラズマクラスターイオンは、水にプラスの電荷を、酸素にマイナスの電荷を与えるプラズマ放電を利用した仕組みにより、空気中の水と酸素から、水素のプラスイオン(H+)と酸素のマイナスイオン(O2-)を発生。水分子が粒子に集まる「凝集性質」によって、それぞれのイオンを水分子が取り囲み、安定したクラスターイオンを形成。発生したプラズマクラスターイオンが、空気中に浮遊する菌などの表面で、プラスイオンとマイナスイオンを結合させ、非常に酸化力が強いOHラジカルに変化。これがカビ菌や菌などの表面から、水素原子(H)を素早く奪い取ることで作用を抑制。OHラジカルは奪い取った水素原子と結合して、反応後は速やかに水(H2O)となって空気中に戻る。また、プラズマクラスターではプラスとマイナスの両方の静電気を除去できるため、花粉や微小な粒子が壁などに付着することも抑制する。
これまでに、ウイルスやアレルゲン、カビ菌、細菌の作用抑制や、消臭効果のほか、美肌や美髪にも効果があることが、国内外の第三者機関により実証されているという。
シャープの岡嶋氏は、「放出されるイオンが自然界にあるものと同じプラスとマイナスのイオンであり、GLP(優良試験所基準)に適合した試験施設で安全性データを取得することで実現した『高い安全性』、国内外の外部先端機関で、効果および作用メカニズムを実証した『確かな効果』、現行の第10世代イオン発生デバイスでは濃度を20倍に高め、サイズを6分の1、消費電力を5分の1に削減した『進化する技術』の3点がポイントである。これが世界で認められている」と強調した。
2020年4月には、プラズマクラスター発生デバイスの累計出荷は9000万台に到達。2021年度中に1億台の突破が見込まれている。