ダイキン工業は、2025年度を最終年度する戦略経営計画「Fusion25」を発表した。2025年度のありたい姿として、売上高3兆6,000億円(年平均成長率7.5%増)、営業利益4,300億円、営業利益率12%を目指すほか、その実現に向けた2023年度までの中期実行計画では、売上高3兆1,000億円、営業利益3,250億円、営業利益率10.5%を計画。成長戦略の実現に向けて、設備投資や研究開発投資、デジタル投資、人材投資などで、3年間合計で8,000億円を超える投資を実行し、5年間累計では1兆3,000億円超を実行する。このほかに、M&Aとして約6,000億円の投資構想を盛り込んだ。
また、2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けて、カーボンニュートラルの定量目標を設定。ライフサイクル全体を通じて温室効果ガス排出削減を目指し、CO2実質排出量は、2019年を基準年とし、未対策のままで事業成長した場合の排出量と比べ2025年で30%以上の削減、2030年には50%以上の削減を目指す。
ダイキン工業の十河政則社長兼CEOは、「経済、産業、社会の大きな構造変化を踏まえ、ダイキンの未来のありたい姿を起点に、解決すべき課題を洗い出し、バックキャスティングで、5年間で取り組むテーマを設定した」とし、「国内空調事業のすべての分野でトップを目指す。アジアの空調分野では圧倒的なナンバーワンポジションを維持、拡大し、北米空調市場でもナンバーワンを目指す」と、成長戦略の推進に意欲をみせた。
Fusion25で挑む「ナンバーワン」と「サステナブル」
同社では、過去20年間に渡り、Fusion戦略を展開しており、これまでにFusion05、Fusion10、Fusion15、Fusion20を実施。20年間で売上高、営業利益を約5倍の規模に拡大してきた経緯がある。5年先の目指す姿と重点戦略を打ち出し、同時に3年先の定量目標と実行テーマを設定して、成長戦略を推進しているのが特徴だ。
2020年度を最終年度としたFusion20では、重点戦略として掲げた事業領域拡大、事業構造転換、既存事業強化の各テーマに取り組んだ結果、売上高、営業利益は、2018年度までは計画通りに進捗。だが、2019年度以降、新型コロナウイルスの影響を大きく受けたことで、「攻めと守り」、「体質強化」の施策を実行した。最終年度となる2020年度の売上高は2兆4,934億円(計画は2兆9,000億円)、営業利益は2,386億円(同3,480億円)、営業利益率は9.6%(同12.0%)に留まっていた。
今回、新たに策定したFusion25は、「空調業界の低炭素化をリードし、サステナブルな社会への貢献とグループの成長を実現する」ことを目指し、営業利益率はFusion20の目標でもあった12%という高い目標に改めて挑戦することになる。
そのための重点戦略として、成長戦略で3テーマ、強化地域で1テーマ、経営基盤強化で5テーマの合計9つのテーマを設定した。
成長戦略では、環境・社会貢献を行うとともに、事業拡大と収益力向上を実現することを目的に、「カーボンニュートラルへの挑戦」、「顧客とつながるソリューション事業の推進」、「空気価値の創造」の3つのテーマをあげた。
「カーボンニュートラルへの挑戦」では、欧州、北米での普及率が10%前後に留まっているヒートポンプ暖房事業の売上高を2025年度までに倍増させるほか、インバータなどの省エネ機器の拡販、低GWP冷媒化、冷媒に関するエコサイクルの推進を行う。
「顧客とつながるソリューション事業の推進」において、空調ソリューション事業では、サービスやエンジニアリングの事業基盤を強化しながら、病院や工場といった市場別に展開。機器運用データの活用や、エネルギーマネジメント、IAQ技術を組み合わせて個別最適な空間の実現など、新たな価値提供につなげるほか、空調専業メーカーとしての技術力を生かし、コネクテッド機器の推進での省人化、効率化を図るとともに、競争力のある電力負荷低減ソリューションの提供も図り、年平均9%の成長率を見込む。また、低温ソリューション事業では、空調とショーケースを組み合わせたワンストップの店舗向けソリューション事業の確立により、省エネ性が高く、適切な食品温度管理を実現する安全な店舗環境を提供する。ここでは、年平均12%の成長率を見込んでいる。そして、生産地から消費地までをつなぐコールドチェーンの実現により、食品ロスの削減、社会課題の解決と、収益性の高い事業モデルの構築に取り組むとしたほか、「空気、換気需要の高まりをチャンスと捉え、これを一大事業化する。グローバルで空気清浄機の市場を創造し、各地域(日本、米国、欧州、中国、アジア・オセアニアの各地域)で、年間100万台規模に挑戦する。また、ヘルスケア領域、くらしを豊かにする商品、サービスの創出、外部との共創を進め、空気の価値化にも取り組む」とした。
「空気価値の創造」に向けては、用途別や市場別に最適な換気を提案し、全熱交換器を拡販するほか、空気清浄機のグローバルベース機を投入し、各地域の基準や規制に対応。中国をIAQのマザーと位置づけ、新たな商品やサービスを創出し、グローバルへの展開を進める。ここでは、中国の清華大学との協創による技術開発なども進める。また、空気診断アプリの開発も行うという。
北米を重点強化、インドも一大拠点とする
「Fusion25では、2025年度までの5年間で、売上高1兆円超の拡大を目指すが、そのうち、成長戦略3テーマで、5割を占める5,000億円超を確保することになる」(ダイキン工業 経営企画担当 執行役員の足田紀雄氏)という。
既存事業の強化の観点では、「北米空調事業」を強化地域とすることをテーマに掲げた。
「世界最大市場であり、チャンスが大きい北米で、ナンバーワンのポジションを確立し、グローバル展開の加速と収益力の強化により、成長戦略への投資原資を獲得する」(足田執行役員)という。
北米空調事業は、2025年度までに売上高を1兆円規模にまで拡大する計画だ。
十河社長兼CEOは、「北米空調事業の収益性を引き上げることが重要。これまでの投資によって、販売力、生産力、商品力など、事業の競争力を高めることができたが、投資回収という点ではまだ途上にある。米国のライバル企業が空調専業化し、事業拡大を加速しているが、バイデン政権のもと、省エネ規制や環境政策の強化も進んでいる。ダイキンの強みであるインバータ化、ヒートポンプ化、低GWP冷媒化によって、市場の変革をリードしたい。Fusion25では北米空調ナンバーワンを目指して、さらなる成長投資を実行しながら、2025年度に営業利益率10%以上を達成する。チャンスの時である」とした。
また、大きな市場成長が見込まれるインドの空調市場については、現地生産を強化し、事業を拡大。一大拠点化を目指す。「すでに、圧倒的ナンバーワンのボジションを獲得しているが、それを維持、拡大したい。中国に次ぐ、一大拠点化を進める。市場のインバータ化、R32化をリードし、省エネ性の高い商品や付加価値のあるサービスを提供。現地生産体制や販売網、商品開発の強化を実行していく」と述べた。
そのほか、「欧州では、空調、暖房給湯、アプライドソリューション、冷凍冷蔵のすべての分野で、機器販売だけでなく、空気質、エネルギーといった顧客ニーズに応えることができるソリューションプロバイダーを目指したい。中国の空調事業では高収益の維持を進めるほか、世界で最もデジタル化が進んでいる地域であることを捉えて、デジタルを活用した販売、営業活動を進められるビジネスモデルを構築。プロショップとオンラインルートの活用、換気や空気、浄化などによるシステムの提案、最先端のスマートファクトリーの稼働により、収益維持と成長を目指したい」と述べた。
さらに、国内空調事業に関しては、「住宅用空調、業務用空調、空気・換気事業のすべてにおいてトップを目指す。業務用空調は長年ナンバーワンであり、41%のシェアをFusion25では44%に高めたい。住宅用空調は昨年首位になり、18%のシェアを獲得しているが、これを20%以上にしたい。空気・換気事業はまだナンバーワンではない。空気清浄機はシャープやパナソニックが強い。換気については三菱電機が強い。アプライドソリューションもシェアを伸ばしていかなくてはならない。さらに、データを活用したソリューション事業の拡大にも取り組む」と述べた。
生命線は技術開発力、デジタル投資で加速
経営基盤強化の5テーマとしては、「技術開発力の強化」、「強靭なサプライチェーンの構築」、「変革を支えるデジタル化の推進」、「市場価値形成・アドボカシー活動の強化」、「ダイバーシティマネジメントの深化による人材力強化」をあげた。
「技術開発力はメーカーの生命線であり、外部連携などを行いながらこれまで以上にスピードをあげて差別化した技術、商品を開発し、事業貢献を加速する。また、自然災害などのリスクが高まるなか、グローバル100カ所以上の生産拠点網を活かし、有事や変化に強いサプライチェーンを構築。データを活用した新たなビジネスモデルづくりや、技術開発のスピードアップ、モノづくりSCM改革、間接業務の効率化など、全社をあげてデジタル化を徹底推進する」(足田執行役員)と述べた。
重点領域テーマをグローバル全体で推進するために、海外開発拠点のさらなる強化や、イノベーションを推進するための人材の獲得、育成に取り組むほか、ダイキン情報技術大学を中心に、デジタル人材を1,500人育成する計画も示した。
ダイキン工業の十河社長兼CEOは、現在の取り巻く環境として、CO2排出量削減や脱炭素社会への取り組みが求められる「環境、社会貢献の重要性の高まり」、人々の新たなニーズに応えるコトづくりや、ソリューションによる質的成長が求められる「モノからコト、モノの所有から利用による顧客の価値観やニーズの変化」、空調専業機器メーカーの使命として、新型コロナウイルスの拡大に伴う、安全安心意識の高まりなどに対応した空気清浄や除菌などの独自技術を活かした販売、空気価値の探求や創造による「空気、換気に対する市場ニーズの広がり、新たな空気価値の創造(安全、安心、健康、快適)」、ライバルとの戦いに勝つために、デジタル技術を活かして事業活動を変革する「デジタル、AI、5G、ロボットなど技術の革新的進歩、ビジネスモデルの出現」といった状況が生まれていると指摘。そうしたなかで成長戦略を実行する上では、積極的な投資が必要であることを強調した。
「5年間累計で1兆3,000億円超の投資を計画しているが、これは1兆4,000億円に近い規模になる」と前置きし、「生産能力の増強を中心とする設備投資に加えて、研究開発については、成長戦略に関わる技術領域に思い切ってリソースを集中させる。海外の研究開発強化、社内外との共創、デジタルを活かした開発プロセスの変革によって、ヒートポンプなどの環境関連技術を高度化。差別化商品を次々と生み出したい。開発スピードは、2025年までに3分の1に縮める。昨年発売した換気機能付きルームエアコンは、わずか3カ月で市場投入した。すでに地力はあるが、これをもう一段高めたい」と述べた。
十河社長兼CEOは、デジタルへの投資を拡大する姿勢を強調する。
「データを活用したソリューション事業の推進、空気価値の創造など、ビジネスイノベーションを加速するだけでなく、開発リードタイムの短縮、サプライチェーンの効率化につなげるプロセスイノベーションも推進し、経営基盤の高度化につなげる。また、イノベーションを推進する優秀人材の獲得、育成も不可欠。ここへの投資も進めたい」と述べた。
ビジネスイノベーションでは、ソリューションビジネスを拡大するため、データをつなぎ、解析するためのプラットフォームを構築。機器データの取得に加え、人や建物のデータなど、今後の事業拡大につながるデータを取得し、新たな商品、サービスの創出のほか、新たなビジネスモデルを創出するという。また、プロセスイノベーションでは、ECMおよびSCMの改革、開発プロセスの革新、経営基盤の高度化に向けたシステム構築、RPAやAIを活用した間接業務の効率化にも取り組む。
3年間で6,000億円を想定しているM&Aでは、欧州の暖房メーカー、低温ソリューション事業会社、アジアや北米でのソリューション事業拡大に向けたサービス会社やエンジニアリング会社、米グッドマンの販売網強化に向けた販売卸会社が注力したい分野だとした。
一方、2050年のカーボンニュートラル達成に向けては、製品ライフサイクルを通じて温室効果ガス排出の削減に取り組む考えを示し、工場のカーボンニュートラル化により、開発および生産工程におけるエネルギー起源のCO2排出と、HFCやPFCの排出を削減する「モノづくり(開発・生産時)での削減」、ルームエアコンのインバータ比率を2019年の75%から、2025年に98%超に拡大することを目指すほか、省エネ性の高い要素技術の開発により、グローバル全域でインバータ化の加速、省エネ機器による環境対応商品で他社をリードする「製品使用時における消費電力削減」、欧州と北米を最重点地域と位置づけ、燃焼式暖房や給湯機からヒートポンプ式へのシフトを加速する「ヒートポンプ暖房・給湯事業の拡大」、グローバルでR32化を推進し、ルームエアコンのR32化率を2019年の83%から、2025年には95%超に拡大する。
さらに、回収、再生、破壊の冷媒エコサイクルの構築、次世代冷媒および機器の開発といった冷媒起因のCO2排出削減につながる各種対策を進め、環境社会や業界をリードする「空調事業を支える冷媒に関する取り組み」、グローバル各地域でスマートシティプロジェクトに参画したり、マイクロ水力発電のラインアップを拡充による創エネ市場の拡大と、CO2削減貢献が期待できるテーマへの挑戦による「環境新事業への挑戦」、同志社大学との協創によるCO2の常温分解、直接回収、再利用技術の探索や、東京大学との協創によるCO2ネットゼロ社会の仮説構築といったCO2の分離、回収、再利用に関する先端技術をリサーチおよび獲得による「カーボンニュートラル社会に向けた技術開発」にも取り組む。
十河社長兼CEOは、「これまでにも空調機器と冷媒を併せ持つ唯一のメーカーとして、環境、省エネ技術を活かした差別化商品やサービスを世界中に提供し、環境貢献を果たしてきたが、これからは、カーボンニュートラルと事業成長の両立を果たすことが大切である。ライフサイクル全体を通じて、温室効果ガス排出削減に向けた取り組みを一段と加速することは、ダイキンの成長戦略の最優先事項である。環境課題に貢献し、そのなかで事業をどう成長させるかが大切である。そうしないと持続的成長ができない。定量的な目標は必達目標である」などと述べた。