地下鉄茅場町駅から徒歩約5分。オフィス街と住宅街が混じり合ったような、ゆったりとした時間が流れる地域で、すぐ傍に隅田川がある。支流が街を通り抜け、橋を渡って少し歩くと左手の路地にお店があった。カフェダイニング「パリカリ」だ。店を訪れたときは、ちょうどきんぴらごぼうを作っているところだった。

口に入るものにこだわり、産地などの情報をオープンにしている

ここの厨房には何も隠すものがない。無農薬で栽培されたお米、抗生物質を使用せずに育てた鶏の卵……。生産者の思いが詰まった食材が並んでいる。「調味料まで無添加にこだわっています」と村上秀貴料理長。村上料理長は大使館のパーティのケータリング、企業私営の迎賓館での接客に携わってきた。この店を始める前にいた中目黒のバーで同店のオーナーである朴成賢(ぱくそんぎょん)氏に出会い、意気投合、店の立ち上げに加わった。朴氏は飲食店等の設計を手掛けるKEFI(ケフィ)の代表取締役。パリカリの入るビル全体の内装を手掛け、1階の運営を任された。

これまで有名グルメ誌に特集を組まれる人気店のデザインも手掛けてきた朴氏は、パリカリの内装を時間をかけて納得がいくまで作り込んだという。「この店の中で既製品は椅子だけ。あとは全部自分たちで作り込みました」。その経緯は店のブログに書かれている。内装はホテルのラウンジをイメージしている。「ホテルと言ってもかっちりしたものではなく、山荘のような親しみのある空間にしたかった」とのこと。

季節によって窓がオープンになる

本棚があり、書斎のような空間

料理もデザインも人の手の温かさを感じさせる店。つくり手は皆30代。「自分たちはまだまだ若手であり、これが完成形ではない」と控えめだが、料理の話を始めると熱い思いが溢れてくる。まず出していただいた料理は「紅大根のピクルス」。紅大根と蓮根と人参を天然海塩や蜂蜜、ワインビネガーで1週間漬け込んだものだ。野菜のみっちりとした歯応えと瑞々しさを酸味が引き締めている。味付け、色合いともにナチュラルでやさしい。素材にこだわっているから、野菜はまるごと皮付きで食べることができる。これが嬉しい。全てを無駄なくいただけるのだ。

写真左が「紅大根のピクルス」(550円)。上は「旬野菜のカポナータ」(680円)

野菜の多くは千葉・成田の農家から送られてくる。およそ100種類の野菜が育っている畑から週3回、旬のものが届けられるのだ。村上料理長は同店オープンまでの2カ月間、"ウメさん"の隠れ家レストランで働いていた。ウメさんこと梅木文隆氏は、小山薫堂氏が企画・脚本を手掛けたテレビ番組『東京ワンダーツアーズ』(日本テレビ・2005年)にも出演した人気シェフだ。

「パッケリ ボロネーゼ」(1,150円)

ランチタイム(~14:00)は全席禁煙で、ランチメニューにはドリンクとサラダが付いている。通し営業で、ランチタイム後も近くのオフィスワーカー達が打ち合わせの場として利用している。「楽しく、美味しく食べてほしい」という気持ちが、"自然で安全な食"にたどり着き、調味料にまでこだわる店となったそうだ。お客から「ベジタリアン向けの料理を用意してほしい」と相談されると、その場でメニューを組み立てる。野菜が食べられるレストランとして、口コミで人気が広がっている。

このようなタイプの店には珍しく、お酒も充実している。生産者や生産地域が明記されたワインリストにはビオワイン(有機栽培されたブドウで造るワイン)しか載っていない。ブルゴーニュやボルドーの赤ワイン、そしてシャンパン。どれもビオワインだ。赤白2種類のグラスワインは、その日ごとに銘柄を選んで開けている。ドラフトビールは「エビス」と「エビス〈ザ・ブラック〉」。日本酒は「臥龍梅 純米吟醸」や「醸し人九平次 純米吟醸 無濾過」等、こだわりの銘柄が数種類ある。

夜の平均客単価は3,400円。訪れるお客の半数以上が女性だ。「地元に根付く店にしたい」と朴氏。取材を終えた時間は17時過ぎだったが、早くもディナー利用の女性2人が来店していた。厨房では村上料理長がフライパンを振っている。厨房から季節の香りが漂ってくる、心の落ち着くレストランに出会った。

●店名: カフェダイニング「パリカリ」
●住所: 東京都中央区新川1-6-12 AIビル茅場町1階
●TEL: 03-3537-6663
●営業時間: 11:30~23:00(L.O.22:30)
●定休日: 日祝日
●予算: 昼900円、夜3,400円
●客層: 男性と女性の割合は4:6
※営業時間等のデータは、取材時のものです