この4月から、新たに数十万人単位の若者が社会人となり、「職場デビュー」を果たすことになる。新たな人生のステージを迎えるにあたり、期待に胸を膨らませている人もいるだろうが、これまで慣れ親しんだ「学生」から「社会人」になることに対し、希望以上に不安を抱いている人もいるはずだ。

「勉強とは勝手が違う仕事への不安」「遅刻が許されないプレッシャー」「上司や同僚との人間関係」など、さまざまな心配事があるだろうが、「身だしなみ」という項目もその一つに含まれるだろう。

個性的な身なりが許された学生時代とは違い、社会人はTPOに見合った服装や持ち物が求められる。例えばスーツはその最たる例だが、これまでスーツを着る機会が限定されていた人にとっては、「正直何を選べばいいのかわからない」というのが本音のはずだ。

そこで今回、スタイルアドバイザーでタカギ&アソシエイツ代表でもあるたかぎこういち氏に、社会人としての必須アイテムを選ぶ際のポイントをうかがった。社会人として恥をかくことがないよう、ぜひとも参考にしてほしい。今回のテーマは「ビジネスシューズ」だ。

  • おしゃれは足元から

    おしゃれは足元から

新しいステージに歩み出される皆さん、心からお祝い申し上げます! ファッションにルールはありません。でも、ビジネススタイルにはルールがあります。シューズ選びにも歴史的なルールがあります。スタイリングで最も大切なアイテムは靴です。そう、まさに「足元を固める」のです。良質な靴は格安スーツさえも良質に見せてくれます。靴は皆さんの想像以上のパーツ数と製造過程によってできる商品です。

毎日あなたの全体重を支え、汗に耐え、仕事によっては毎日1万歩を一緒に歩んでくれる最も酷使されるアイテムです。たまの休日には感謝を込めてお手入れしてやりたいですね。

汎用性が高い基本の6足

まずは履き回しがきき、スーツを変えても外れない基本の6足を紹介します。

1.革製のブラックのウイングチップ(つま先の革の切り替えに使われる革片が、翼のような形をしているデザイン)

2.革製のブラックストレートチップ(つま先の革の切り替えがストレート、すなわち一文字飾りになったデザイン)

3.1と2のシューズのブラウン

4.ダブルモンクのブラウン(修道僧が履く靴にヒントを得た、ストラップとバックルで甲部分を締めて固定するデザイン)

5.雨の日に着用するブラックビジネスシューズ

6.スポーツタイプでないレザースニーカー(ブラックかブラウン)

靴底はレザーでなくても大丈夫です。ただしアッパー(底に乗る上部)は従来のビジネスシューズデザインで。なぜなら新人ですから、ちゃんとした印象が必要だからです。

革底よりスニーカータイプの方が履きやすく疲れません。カジュアル化と靴製法の進化がスニーカータイプのビジネスシューズを商品化してくれ、価格も手頃にしてくれました。

では、お勧めブランドをご紹介してゆきます。

1.ケンフォード

初めてのビジネスシューズなら、入門ブランドで手の届きやすい価格帯のケンフォードをご紹介します。1902年に日本の靴製造のルーツとも呼べる数社が統合され創業、1961年にアメリカとの技術提携にて「リーガル」ブランドの製造販売をスタートした、まさに日本の靴の歴史を刻んできた企業を代表するブランド「リーガル」。その弟分として生まれ、普段履きの上質を目指すブランドが「ケンフォード」です。

トラディショナルコンセプトを色濃く引き継ぐタイプと、トラディショナルな中にもトレンド要素を取り入れた若年層向けタイプの2つのスタイルがあります。

  • ケンフォードのストレートチップ(画像は公式ホームページより)

    ケンフォードのストレートチップ(画像は公式ホームページより)

  • ケンフォードのダブルモンク(画像は公式ホームページより)

    ケンフォードのダブルモンク(画像は公式ホームページより)

2.マドラス

1921年に創業された日本の靴製造会社。1946年にイタリア・ヴェネツィアの郊外ヴァッサノで創業された「マドラス社」と1965年に技術提携し、イタリアの伝統的クラフトマンシップとイタリアの洗練されたデザインを取り入れ、国内生産で「マドラス」ブランドをスタートさせました。

今春、スポーツシューズメーカーのミズノと靴作りのテクノロジーを融合させた「マドラス ウォーク ミズノ セレクト」を発表しました。

  • マドラスのウイングチップ(画像は公式ホームページより)

    マドラスのウイングチップ(画像は公式ホームページより)

3.ホーキンス

1850年にイギリス・ロンドン郊外の製靴業者の街ノーザンプトンで創業された由緒あるブランドが「ホーキンス」です。1986年にABCマートの前身である国際貿易商事が日本の代理店となりました。ABCマートは1995年にホーキンスの商標権を取得、翌96年に木村拓哉、大塚寧々を広告に起用し、一気にブレイクさせました。小売店のオリジナルブランドとしてのコストパフォーマンスは抜群です。

  • ホーキンスの防水ビジネスシューズ(画像は公式ホームページより)

    ホーキンスの防水ビジネスシューズ(画像は公式ホームページより)

4.ロックポート

1971年、アメリカのボストンから北に25マイル、ケープ半島の先端の街・ロックポートで、ビジネスシューズのアッパーにスニーカーのアウトソールをつけると履き心地の良いシューズができると考えたカッツ親子が創業。時代に先駆けた発想でした。独自のテクノロジー開発、革新的な靴作りが始まったのです。

インソールには衝撃吸収クッション材、つま先には歩行時蹴り出しにかかる力をサポートするに反発力のある材料を使用。コンフォータブルなビジネスシューズ製造の追求が続いています。

  • ロックポートのレザースニーカー(画像は公式ホームページより)

    ロックポートのレザースニーカー(画像は公式ホームページより)

いかがでしょうか? まずは基本から入るのが何事も大切です。

イタリアの古いことわざに以下のような言葉がありますが、お気に入りの一足を選んで、力強く一歩ずつ歩み出してください。皆さんの輝く将来に向って。

「その人が履いている靴は、その人の人格そのものを表すものである」

筆者プロフィール: たかぎこういち

スタイルアドバイザー。タカギ&アソシエイツ代表。1952年大阪生まれ。若くして輸入服飾雑貨卸業を大阪で起業。その後1998年現フォリフォリジャパングループとの合弁会社取締役に就任して以来、アニヤ・ハインドマーチ、オロビアンコ、リモワ、マンハッタンポーテージ等の海外ファッションブランドを日本市場に紹介、成功させる。
また、「東京ガールズコレクション」「デザイナーズ&エージェント」など国内外のファッションイベントにも参画。現在は日本のビジネスパーソンのファッションリテラシー向上を目指して体系化したオリジナルの「6ポインツ・メソッド」を伝えるべく、「日経DUAL」「WEDGE Infinity」などへの記事執筆や文化服装学院、東京モード学園での講師経験を持つ。
著書に「オロビアンコの奇跡」「LIKABLE GUY STYLING FILE」共に繊研新聞社刊「一流に見える服装術」日本実業出版社他。