ミニにユニークなボディタイプが追加された。ミニ・クラブマンというネーミングで登場したそのクルマは、ワゴンに似たボディを持っているから"プチワゴン"と表現するのが合っているかもしれない。現在のミニはBMWが製造するモデルで、昨年2代目に進化した。そのミニを使いやすいワゴンタイプにしたのがミニ・クラブマンというわけだ。実はBMWはクラブマンをワゴンとは言っていない。それはミニ独特の世界観を表現するためで、ワゴンと表現すると限られたイメージでとらえられてしまうためだ。こうした緻密なブランド戦略が、ミニの人気を維持しているポイントだ。
クラブマンのルーツは2つある。1つは1960年代に生産されたモーリス・ミニ・トラベラーやオースチン・ミニ・カントリーマンがそれにあたる。モーリスやオースチンのブランドだったミニの時代に作られたワゴンで、これらを思い出す年配の方も多いはず。ボディに木を使うなどユニークなボディワークがなされていた。もう1つは05年の東京モーターショーでコンセプトモデルとして登場していた"ミニ・コンセプトTokyo"。このモデルはボディがストレッチされ、観音開きのリヤゲートが付けられていた。まさにクラブマンのプロトタイプというべきモデルだが、クラブマンの特徴の1つである、ボディ右側の進行方向とは逆に開く小さな"クラブドア"は存在していなかった。こうしたコンセプトを煮詰めていって"シューティング・ブレーク"としてまとめられたわけだ。もともとのシューティング・ブレークは、ミニの生まれ故郷イギリスで狩猟などに使われたクルマのこと。こうしたクルマのリヤには猟銃や荷物を載せるためのスペースを確保していた。
クラブマンは、ハッチバックのミニのホイールベースを80mm延長してスペースを稼ぎ出している。ラゲッジスペースの拡大と観音開きのリヤゲートを採用したため、リヤ周りのデザインを変更。これによってリヤセクションが160mmも長くされている。そのため全長は240mmも伸びることになり、ちょっと細長いデザインのミニに仕上がっている。長く見えるのは視覚的なものでだけではなく、BMWが製造するクルマの中でもっとも大きい7シリーズのルーフより、クラブマンのルーフのほうが長いのだ。
クラブマンに乗り込んでみると、インテリアの雰囲気は従来のままで、あまり変わった印象はない。だが、ルームミラーに映るリヤウインドーを見れば明らかに違うクルマであることがわかる。リヤウインドーのセンターには観音開きのためのピラーが存在しているからだ。さらにボディ右側にも観音開きのアクセスドアとなるクラブドアが付けられている。外から見るとドアハンドルが付けられていないためドアがあることがわかりにくいが、ボディサイドに1本多く入ったパーティションラインでクラブマンであることがわかる。
クラブドアを開けるには内側のオープナーを使う。このように開ければ、開口部がとても広いことがわかる。リヤシートの乗り込むにはやはりクラブドアを使ったほうが楽だ |
このドア部がBピラーも兼ねていて、運転席のシートベルトもここから出ている。シートベルト下の丸いのがドアオープナー |
このクラブドアが最大の特徴でもあるが、このドアについてはいろいろな意見がある。右側通行の国の仕様もクラブドアは右に付けられている。これは右側が歩道側になるからで、後席に乗せることが多い子供などの安全性に配慮しているからだ。だが、日本のような左側通行の国になると、右側に付けると車道側からリヤに乗り込むことになる。左側にクラブドアを付けることも検討したようだが、左側リヤには給油口があるため、ここにドアを付けることが難しかったという。もし左側にクラブドアを付けるとなると燃料タンクや給油口の変更が必要となって、大幅なコストがかかってしまうからだ。もっとも右側のドア位置が使いづらいというのは子供などを乗せる場合で、ドライバー1人で手荷物などを後席に置く場合は、右側にクラブドアがあるためとても便利ということになる。
クラブマンで高速道路や市街地を走ってみたが、乗り心地はほとんど従来のミニと変わっていなかった。BMWが作る2代目のミニになって乗り心地は大幅に改善されたため、初代のように路面の凹凸を常に拾うということはない。クラブマンはホイールベースが80mm延長されているので、もっと乗り心地がよくなっていることを期待したが違いは感じられなかった。高速道路でジョイントが連続するようなところでは多少ピッチングが少なくなったようにも感じるが、同じ場所で比べなければはっきりとはわからない範囲にとどまっている。
リヤゲートにはガスダンパーが装備されているので、坂道でリヤゲートを開けても勝手に閉まることはない |
リヤゲートのステーには穴が空けられていて、ゲートを開けていても横からリヤコンビランプが確認できるようになっている |
むしろ気になったのはロードノイズだ。これはタイヤのパターンノイズが下回りから侵入しているようで、ノーマルミニよりもややうるさい感じがした。また、このノイズのピークが悪いことに市街地でよく使う60km/h前後なのだ。高速域になればほかの騒音が目立ってくるのでノーマルミニと静粛性は変わらないが、この市街地のロードノイズはちょっと気になった。ミニの広報担当者によるとタイヤの個体差でロードノイズが大きいものがあるということで、装着タイヤが変われば印象が異なる可能性はある。
リヤシート横にはカップホルダーと小物入れが備わる |
日本仕様はリヤシートには2人しか座ることができない。海外仕様には大人2人、子供1人が座われる仕様もあるが、日本では1人当たり幅400mmが確保できないとシートとしてカウントできない。そのためクラブマンも乗車定員は4人 |
クラブマンには1.6L DOHCのクーパーと同エンジンにツインスクロールターボを装着したクーパーSの2グレードを設定している。試乗したのはNAのクーパーだが、動力性能の的にはこれで十分だ。ホイールベースの延長などで車重は約80kg増加しているというが、120馬力を発揮するNAで高速道路も気持ちよく走ることができる。ノーマルミニに比べエンジンに大きな変更点はないというが、吹け上がり感は確実にクラブマンのほうがスムーズで速い。これはVVT(連続可変バルブタイミング)のプログラムを変更したためで、NAらしい吹け上がりをより楽しめるようになった。だだし、少し残念なのはレッドゾーンが6500回転からに設定されているにもかかわらず、ATのマニュアルモードを使っても6400回転でシフトアップされてしまうこと。高回転域でもトルクの落ち込みがないだけにキッチリとレッドゾーンまで回してオートシフトアップして欲しい。
ユニークなスタイルのミニだけに、このクルマを所有しているだけでカーライフが楽しくなりそうだ。こうした楽しみはほかのブランドやクルマでは味わいにくいもので、ミニ独特の世界。よりクラブマンを楽しむために今後はオプション装備をもっと充実させて欲しい。例えば東京モーターショーで見せたコンセプトTokyoが採用していた、ラゲッジスペースに入るティーセットやリヤゲートを開けてお茶を楽しむためのテーブルなどを用意してくれれば、よりクラブマンを楽しむことができるはずだ。
クラブマンの納車は08年3月2日の「ミニの日」から開始される予定だ。また全国で発売記念イベントを展開するというから注目したい。
ステアリングにはパドルを装備する。操作方法が少し変わっていて左右どちらも押すとダウンシフトして、引くとアップシフトする |
運転席前にはタコメーターをレイアウト。メーター内にはインフォメーションモニターも装備 |
車体の形状の欄を見てもらいたい。BMWはワゴンとは表現していないが、申請はステーションワゴンにしているようだ |
このNAエンジンのほかにクーパーSのターボもラインアップしているが、動力性能はNAのクーパーで十分 |
トノカバーは自動巻き取り式ではなく、自分で任意の位置に入れる必要がある。このプラスチックガイドにトノカバーを当てながらスライドさせるため、この部分が傷つきやすい |
リヤシートは5対5の分割可等式。背面のレバーを引くだけで簡単に収納できる |
クラブマンも豊富なボディカラーとルーフのカラー、ストライプなどを組み合わせると自分だけのミニを作ることができる |
このタイヤのロードノイズが少々気になる。個体差があるようだからほかの銘柄にも試乗してみたい |
ミニの試乗会場はほかのブランドとは一味違う。試乗を待つウエイティングルームは薄暗くされて、このようなミニのグッズをディスプレイしたテーブルが置かれていた。凝った演出だ |
オプションパーツも豊富に用意されているが、クラブマンに似合うピクニックセットやテーブルセットなどのオプションがほしい |
ミニ・クラブマン | |
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クーパー6速MT | 274万円 |
クーパー6速AT | 287万円 |
クーパーS6速MT | 318万円 |
クーパーS6速AT | 331万円 |
丸山 誠(まるやま まこと)
自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員