SUVらしさを重視した正常進化のフルモデルチェンジ
新型フォレスターは昨年(07年)12月25日に発表された、国産車でもっとも新しいSUVだ。今回のモデルで3代目となるフォレスターは、多くの部分をベースとなったインプレッサと共用している。エクステリアデザインを見てもインプレッサと似たイメージで、スバルの新しいデザイントレンドを取り入れたSUVに仕立てられている。
フロントガラスの面積を拡大し、Dピラーのデザインを工夫することで前後方向の視界を拡大。このグレードはNAエンジン搭載のためボンネットにインタークーラー冷却用のインテークがない |
リヤハッチのガラス下端を広くしたことで、リヤバンパーから0.98m離れたとこに立つ身長1mの子供を目視できるように後方視界を拡大。リヤカメラ付きのナビ装着車でなくても後退時の死角を減らす努力をしている |
UVカット機能付き濃色ガラスは上級グレードに標準だが、スポーティパックを選ぶことでも装備できる |
SUVらしい外観を演出するルーフレールは2.0XS、2.0XTに標準装備。オプションのシステムキャリアベースを装着すれば80kgまでの荷物を積むことが可能だ |
このようにデザインはインプレッサによく似ているが、ボディのアウターパネルはもちろんフォレスター専用で、全幅はインプレッサよりも40mmも幅広くなり1780mmという堂々としたサイズに成長した。確実に以前のモデルよりも車格感がアップしているように見える。ボディは全幅だけではなく、全長、全高、ホイールベースも先代よりも大きくしているが、実はリヤオーバーハングだけは短くしている。これはリヤタイヤから後ろを短縮することで、SUVらしい軽快感と塊感のあるスタイルをうまく両立させているのだ。
アプローチアングルは25度と、SUVとして十分なスペックを持っている。バンパーまで覆うようなスキッドプレート風のデザインもSUVらしさを際立たせている |
NAの2.0L DOHCエンジンは新たにシリンダーヘッドを開発。吸気AVCSを採用するなど燃焼効率の向上により燃費性能を向上させた。スパークプラグ周辺の冷却水経路を変更することでノック限界を高め、10.2という比較的高い圧縮比を実現できた |
ちなみにエンジン上部で光輝きながらクネクネと曲がるパイプがインテークパイプ |
このクルマは2.0XSだが、メーカーオプションのアドバンスパックを装着しているため17インチのアルミホイールと225/55R17に変更されている。標準は16インチアルミホイールに215/65R16タイヤ |
スバルはインプレッサからサッシュドアとグリップタイプのアウターハンドルを採用しているが、フォレスターも同様に変更された。来年新型が登場するとウワサされているレガシィは、サッシュレスドアはアイデンティティだと主張していたが、インプレッサ、フォレスターと続くとスタイルを変更してくるはずだ。長くシッシュレスドアを使ってきた同社だが、高速時の気密性や静粛性を考えると現在の主流はサッシュタイプ。ドアのアウターハンドルも事故などの救出時に力を入れやすいグリップタイプが主流だ。フォレスターが取ったスタイルは、そうしたデザインの流れに合わせたものだと言える。
ついにサッシュレスドアをやめたが、ご覧のとおりサッシュ付きでもガラスの段差は少なく風切り音が少ない |
スポーティな走りが期待できるターボモデルでも新型は車高などは下げず、SUVらしいスタイルを守っている。ボンネットのエアスクープは高さが抑えられており前方視界の邪魔にならない |
新世代のスバルデザインらしいフロントフェイスで上級感がアップしている。ターボはHIDヘッドライト(ロービームのみ)とフロントフォグランプを標準装備 |
エアスープの高さがここまで抑えられたのは視界要件が厳しくなったからだ。死角を減らすため太さ30cm、高さ1mの円柱を車体に沿って動かしても、運転席から確認できることが必要 |
ボディが拡大され、特に幅が広くなったことで取り回し性を気にする人が多いだろうが、それは心配ない。これによってフロントトレッドを広くすることができ、ホイールハウスのスペースを大きく取ることができるようになった。その結果タイヤの切れ角を増やせたので4WDにもかかわらず、最小回転半径は従来と比べ0.1m小さい5.3mという優れた小回りを実現している。
サイドビューモニターなどの設定がないため、このような無骨なサイドアンダーミラーが全車標準。歩行者との衝突を考えるとやはりモニタータイプに変更したい。ドアミラーは風切り音を抑え、ミラー面に水滴が付きにくい形状にデザインされている |
実際試乗してみると狭い場所でのUターンも楽々こなせ、ボディが大きくなったことをまったく意識させないのだ。運転席に座ると全幅が拡大されたため、助手席に座る人との間が広くなり、広々感が増していることがはっきりわかる。幅が広くなったが取り回しでのネガティブな面はない。自宅の駐車場スペースによっては入れにくいということはあるかもしれないが、時間貸し駐車場や立体駐車場で幅が問題で困るようなことはないはず。もっともSUVなので1675mmの全高が邪魔をしてタワーパーキングなどに入れないことがあるが、それは他のSUVでも同じことなので大きな問題ではない。それよりもボディサイズが拡大されたことで、リヤシートのレッグスペースやラゲッジスペースが拡大されていることのメリツトのほうが大きい。今までのモデルは中途半端なサイズだったが、新型はサイズアップしたことでファミリーユースのSUVとしても使えるようになった。
立派なサッシュ付きドアになったため、黒いサッシュ部分を手で持ってドアを閉めることができる。従来はガラスのみだったため、下側のドアハンドル付近を押して閉めることが多かった |
側面衝突に備え、ドアが室内にめり込まないようにドア下部にもキャッチャーを装備。だが、サイドエアバッグ&カーテンエアバッグを一部のグレードしか選べないのは大きな疑問。ぜひ早期に全車にオプション設定してほしい |
メーターはオーソドックスだが視認性が高い3眼タイプを採用。2.0X以外は、この美しく光る自発光式のスポーツルミネセントメーターを採用。ターボはこのように、中央のスピードメーター内にSIドライブのモード表示をする |
レガシィやインプレッサとの違いを明確にすることがコンセプト
SUVらしくもちフォレスターは全車AWD(全輪駆動)。北米向けのSUVにはFFなどの2輪駆動のSUVも存在するが、やはりラフロードも余裕で走れるAWDは魅力的だ。エクステリアデザインもアプローチアングルやディパーチャーアングルを意識したもので、ロードクリアランスもこのクラスでは大きな225mmを実現しているのでラフロードを走っても下回りを打つという心配は少ない。今回の試乗会場は山梨県の河口湖。すでに林間コースやラフロードは積雪がある状態のため、本格的なラフロード走行できなかったが、砂利が浮くような路面でのコントロール性は高い。このような路面ではタイヤが踏ん張っても小石でころがりステアリングが効きにくいが、VDC(姿勢安定化装置)のおかげでアンダーステアが少ない。そのときにもVDCが余計な制御をしている感じがなく、うまく自然な感じで姿勢をコントロールしていた。ABSの作動もうまく、制動距離が無用に長くなるようなことがない。本格的に走り込んではいないので確定的なことはいえないが、ラフロードでのコントロール性はかなり高そうだ。
インパネはオーソドックスなデザインだが質感が高くなったため、ライバルと比較しても見劣りしない。写真のインパネはターボモデルのためモニター両側のパネルが標準の木目調。だが、廉価グレードの2.0Xのメタル調のパネルのほうがデザイン的な統一感がある。どちらでも選べるようにしてほしい |
センターコンソール下側には大きな収納を設けているが、この両側にも木目調パネルが付く。これもメタル調のパネルにしたい |
プラチナレザーセレクションを選ぶと美しいレザーシートになる。座り心地がよく、本革でも体が滑ることがないのがいい |
アルミパッド付きスポーツペダルはターボモデルだけに標準装備。そのほかのグレードにはオプションの設定がない |
前述のような試乗会場だったため、林道に入ると雪が残っていたが標準装着タイヤのジオランダーG95はグリップがよく、多少の雪が凍った路面でも安心して走ることができた。SUVらしくオールシーズン(マッド&スノー)タイヤを装着しているが、最近のSUVはオンロード性能を重視したタイヤが装着されることが多い。こうしたタイヤの中には雪道や氷ではまったくグリップしないものもある。それにVDCのコントロールはすばらしく、スピードを維持しながら姿勢制御が行われる。多少滑ってもエンジン出力を大幅に絞ることがなく、出力の復帰も早い。雪道だけでなく、一般道や高速道路などでの緊急回避時にも効果を発揮するVDCが全車に標準装備というのはうれしい限りだ。この装備はABSと並んでアクティブセーフティーを高める重要なものだ。最近は標準装着されているクルマもあるが、多くはオプション。中には設定すらないグレードもある。事故を防ぐのにもっとも適した装備だけに標準にすべきものだ。フォレスターはそういった面でも実質的な安全性を高めている。
後席の居住性を高めているが、このリトラクタブルリヤテーブル。カップホルダーはもちろん、その前方に小さなテーブルが付いているのでとても使い勝手がいい |
ドアはシンプルなデザインで質感が高い。ドアもメタル加飾がされているので、やはりインパネに付く木目調パネルは似合わない |
オンロードでの走りは2LのNAエンジン(148PS)でも軽快で、3人乗車で富士スバルラインに続く長い坂も駆け上ったが、ストレスを感じることはない。車両重両が1.5トン近くあるため2Lエンジンではちょっと非力かと考えていたが、まったくそんなことはなかった。それにターボモデルを含めて、車両重両が1.5トン以下に抑えられているのもうれしい。自動車重量税は0.5トン刻みでアップするので、そのギリギリで抑えているので節税できる。同クラスライバルのRAV4・4WDとエクストレイルの2.5Lは1.5トンを超えているから、重量税は1クラスアップしてしまう。
少し気になる部分はATが4速のため、少しアクセルを踏み込んで加速すると3速にキックダウンしてエンジン音が高まることがある点だ。5速ATならばそれほどエンジン回転を高めなくても加速を受け付けるだろうから、この点は少し残念。それに新型は上級感が増しただけに5速ATを採用してもよかったように思えるが、スバルが言うには車両価格を抑えるためにはコストの安い4速ATを使うしかなかったという。それにスバルは自社でミッションも生産しているため、4速ATの減価償却が終わっていないうちに搭載をやめるというわけにはいかない御家事情がある。すでに5速ATもあるが、すぐにフォレスターに搭載できないのはこうした事情があるからだ。また開発者によると、現在より効率が高い縦置き用のCVTも開発しているというから将来が楽しみだ。2Lターボ(230PS)のミッションも4速ATのままだが、パワーがある分だけキックダウンするような場面が少なく、静粛性はNAよりも高い。もっとも高回転までエンジンを回してもNA、ターボともに耳障りな音質ではないのでそれほど気にはならない。巡航時は一般道、高速域ともに静粛性は高く、こうした面でも上級感を増したことが実感できる。
リヤシートは4対6の分割可倒式。ホイールハウスとサスペンションのスペースが小さくなったため、荷物の積載性がよくなっている |
フルフラットにするとかなり広いスペースが生まれる。オプションのカーゴサイクルキャリアを使えば自転車2台を積み込むことができる |
手前の黒いレバーを引くとリヤシートを倒すことができる。ラゲッジスペースにもアクセサリーソケット(12V)があるのは便利 |
新開発のダブルウイッシュボーンサスペンションになったため、室内への張り出しがこのように小さくなった |
NA、ターボに共通する特徴は、乗り心地のよさだ。インプレッサもそうだが、スバルは最近乗り心地を大幅に高めてきた。一般道はもちろん、高速域でもストローク感のあるサスペンションがスムーズにストローク。ギャップもうまく乗り越えて、ショックに突き上げ感がないのだ。ただしNAエンジン搭載車は、一般道の荒れた路面ではボディのゆれの抑えが効いていない感じで、フラットライド感が少ない。これに対してターボはダンパーがよく効いている感じで、荒れた路面でボディのゆれが少なかった。だが、後から開発者に聞くと、意外にもサスペンションの設定はNAとターボでまったく同一だという。これは個体差によってそう感じたのかもしれないが、荒れた路面での印象はターボのほうがよかった。ただし、このターボでもオンロードでコーナーを攻めるような走りではロールスピードがやや速く、操舵感とクルマの動きの一体感はもう一歩だ。ステアリングをゆっくり切り込んでいくようなセオリーどおりの走り方ならばあまり問題はないが、ステアリングをスバッと切り込んで向きを変えるような走り方をするとロールが早く、リヤが沈み込んでタイヤがブレーク気味になる。タイヤもオールシーズンなのでグリップ力が不足気味だが、ターボはパワーに合わせてバネとダンパーを締め上げて、サマータイヤを履かせた仕様があってもいいのではないだろうか。スバルも開発段階で同様のことにトライしていたようだ。だが、そうしなかったのはインプレッサとの差別化だ。先代はインプレッサの走行性能に近づけることでSUVらしさを失い、インプレッサとの差が小さくなったことで販売面でも苦労した。新型はインプレッサとの違いを明確にするために、フォレスターを乗り心地重視のサスペンションセッティングにしたわけだ。限界域での走りはスバルが意図したものなのだ。SUVらしい快適な乗り心地を重視するという新型フオレスターの方向性は、多くのユーザーに歓迎されるはずだ。
フロア下には小物の収納に便利な"カーゴフロアマルチボックス"が全車標準。オプションのトノカバー(1万8,375円)もここに収納できる |
大きな開口部を持つガラスサンルーフはプラチナセレクションやプラチナレザーセレクションを選ぶと標準装備。2.0XSと2.0XTにはメーカーオプションで装着できる |
ターボのエンジンルームはデザインされていて美しい。奥に見える四角のものがインタークーラー。今回から形状が見直された |
ボンネット裏にはエアスクープからインタークーラーに風を導く、大きなダクトが付けられている |
ATは全車シーケンシャルモード付き。先代とは違い、マニュアル時にオートシフトアップしない(レッドゾーンでリッターに当たる)ためスポーツ走行がしやすくなった |
オーバーヘッドコンソールにはサングラスなどを収納できるポケットが備わる。ヘッドライトを点灯すると、この部分やトレイなどがブルーLEDの照明で光る |
うれしいことに新型フォレスターには純正のトレーラーヒッチキットが用意されている。キャンピングトレーラーなどをけん引することを自動車メーカーが認めている国産車は少ない |
トレーラーヒッチキットは最大けん引重量が750kgまでだが、実は北米用の2000kg用とまったく同じ仕様だから頑丈だ。ヒッチボールは2インチで7極カプラーが付属して、取り付け工賃込みで11万2,350円は安い |
丸山 誠(まるやま まこと)
自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員