帰国子女!? ヨーロッパ生まれのアーバンSUV
エクストレイルのベース車といってもいいのがこのデュアリスだ。ヨーロッパ市場でキャシュカイとして販売されているSUVを少しだけ手直しして日本仕様にしている。キャシュカイは、イギリスの日産サンダーランド工場で生産されるモデルで、ここで日本仕様のデュアリスも生産されている。そのため今のところは輸入車なのだ。輸入手続が面倒な輸入車だけにちょっとしたトラブルもあった。デュアリスに装着しているガラスルーフの「スタイリッシュガラスルーフ」に"JISマーク"が誤って表示されていたという。JISは日本工業規格のマークだからイギリス製産ならばECEのマークだけとなるはず。もちろん道路運送車両法で定められた保安基準に適合しているため性能や安全面で問題はないが、これはデュアリスを国産化するパーツを誤って供給したのではないだろうか。
ヨーロッパで高い人気を得ているキャシュカイとはグリルなど一部のデザインが異なるが、基本的な仕様は同一。ハッチバックとワゴンのクロスオーバー的なSUVだ |
最近の日産車に共通するデザインのリヤコンビランプが特徴的。リヤは面のデザインがけっこう絞り込まれているのでコンパクトに見え、扱いやすそうな印象を受ける |
実は日産はヨーロッパ市場でうれしい悩みを抱えている。キャシュカイがヨーロッパで大人気なのだ。受注に対して生産が追いつかず、為替の関係からあまりもうからない日本仕様をイギリスで作る理由がない。そのためサンダーランド工場だけではなく、なんと日本の九州工場でも両モデルを生産するという。2008年初頭を目処に九州工場でも生産する予定だというから、輸入車であるデュアリスを購入したいのならば早くオーダーする必要がある。もっとも日本で作っても仕様は変わらないから乗り味に変化はないだろうが、細かな部品などは現地調達ということで日本産に置き換えられるだろう。
Cプラットフォームを共用する日産車であることはステアリングのデザインを見てもわかる。ステアリングのボタン配列などは異なるが、インパネ全体のそれは日産車そのもの |
ヨーロッパで人気を得ている一因はこのワゴン的に使えるラゲッジスペースだろう。過不足ない広さでリヤシートは6対4の可倒式 |
ちょっと話題がそれてしまったが、デュアリスがヨーロッパで開発された影響というか、効果はとても大きい。CセグメントのSUVだからといとって、開発で手を抜かなかったのがいい走りと乗り心地を実現させているポイントだ。デュアリスに乗るとボディ剛性感があふれるようなマッチョな感じではないが、サスペンションや大径タイヤとのマッチングが抜群。コンセプトは「スマート&コンパクトクルーザー」だというが、そうした感じよりも新しいミドルサイズアーバンSUVという雰囲気だ。全高や最低地上高がエクストレイルよりも低く抑えられ、前後のデザインも絞り込まれているためスマートに見える。だから圧迫感がなく女性ユーザーにも似合うSUVだ。それでいてバンパー下のプロテクターやフェンダーモールなどはブラックに塗られているから、SUVらしいテイストも十分残されている。見方によってハッチバック車のようにも見えるし、SUVにも見えるというところが、じつにうまくクロスオーバーしているのだ。当初デュアリスに続いてエクストレイルもモデルチェンジすると聞いて、正直この同じセグメントのクルマがどのように住み分けするのかわからなかったが、実車に乗ってみるとデュアリスは乗用車に振った味付けで、ミニバンを卒業した世代や脱セダンの団塊の世代を狙っていることがわかる。エクストレイルとカブル部分はあるが、クルマのキャラクターは差別化できている。
エクストレイルとは兄弟車だが微妙に違う乗り心地
エンジンは直4・2LのMR20DEのみで、エクストレイルのような2.5Lはないが動力性能は2Lで十分。これは組み合わされるミッションに秘密がある。日産は積極的にベルト式の無段変速CVTを採用しているが、このミッションが幅広い変速比を持っているためエンジン性能をうまく引き出しているのだ。もちろんエンジンのトルク特性もCVTに合わせてチューニングされているため、低回転域からトルクを発生させ、その回転域を使ってCVTがスピードを乗せていくという感じなのだ。加速感はスムーズ。低速域でアクセルを微妙にコントロールしても、CVTが妙にギクシャクするようなことはない。
エンジンは2Lの直4ガソリンのみ。当然だがヨーロッパではディーゼルも用意されている。兄弟車であるエクストレイルは08年秋にはクリーンディーゼルを日本に投入予定 |
ヨーロッパで生産されていることを実感するのは、こうしたヨーロッパブランドのバッテリーを装備している点だ。日本では珍しいフィアムのバッテリーだが、08年から日本で生産するとこうしたブランドのバッテリーは見られなくなるだろう |
FF(2WD)に乗って市街地からワインディングまで走ったが、タイヤがよく動き乗り心地がいいのだ。日産のセダンを含めてミドルクラスまでの中ではもっとも乗り心地がいいといっても過言ではない。大きなギャップを越えてもタイヤの当たりが柔らかく、スムーズにサスペンションがストロークする。補修を繰り返した路面で入力ショックが連続するようなところでもタイヤの重さを感じさせず、大径タイヤにもかかわらずタイヤが"ブルン"と震えるような感じも伝わってこない。さらにワインディングを攻めるような走りをしても、デュアリスのノーズはステアリング操作に対して忠実に動く。握ったステアリングには必要な路面の感じを伝えてくる感じは、ヨーロッパ車で開発されたクルマであることがわかる瞬間だ。ステアリングを切り込んでからのボディコントロールは自然で、ロールはゆっくりと進み、限界付近でも急に操縦性が変わることがない。とても安心して扱いやすいクルマといえる。
エクストレイルの大型サンルーフと違い、こちらは固定式のグラスルーフ。開放感があり、スタイリッシュだ。ガラスは紫外線を100%遮断するUVカット機能付きで、もちろん電動サンシェードも装備 |
フロントシートに内蔵されているアクティブヘッドレストは安全性を高めてくれるいい装備だが、どうもデュアリスのものは設定が悪い。シートバックに荷重がかかっただけでヘッドレストが動いて、頭髪に接触するのは気になる |
高く評価できるデュアリスのFFだが、これが日産得意のオールモード4×4となるとちょっと雰囲気が変わってくる。まず乗り心地だ。FFではすばらしい乗り心地を披露していたが、4WDは足がばたつき気味のため乗り心地がもう一歩。とくに荒れた路面ではリヤからの突き上げ感が大きくなるようでフラット感を欠く。SUVとしてデュアリスをとらえるとやはり4WDを選びたくなるが、洗練されているのはFFのほう。積雪地のユーザーやオフロードを走る機会が多い人は4WDを選ぶしかないが、お薦めはFFだ。
気になるもう一点はシートの座り心地。日産車は以前からむち打ち防止のためにアクティブヘッドレストを採用していて、デュアリスにももちろん採用されている。この機構は追突された衝撃で体がシートに沈み込むと、シーソーのようにヘッドレストが前に出て頭を支えるというもの。ところがデュアリスは普通の加速でも荷重がシートバックにかかるとヘッドレストが動いてしまう。加速のたびに髪の毛にヘッドレストが接触することがあり気になる。この辺は国産化で自然に改良されるかもしれないが、体格によって感じ方が違うので、購入前の試乗時にチェックしてもらいたいポイントだ。
それとオールモード4×4も気になる点がある。デュアリスはオンロードだけの試乗だったため、積雪路などを走っていないから決定的な差はわからないが、エクストレイルに搭載されている進化型のオールモード4×4-iでないのが残念。エクストレイルに試乗した感じから判断すると、低ミュー路での操縦性には大きな差があると思う。08年には国産化されるので、そのとき同時にオールモード4×4-iに進化してもらいたいものだ。
丸山 誠(まるやま まこと)
自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員