昨年末のVWとスズキの包括提携には驚いた。GMとの"離婚"が成立したばかりで、次の再婚相手を探すのはまだまだ先の話と思っていたからだ。この提携を実現させたのは、自動車業界で有名な存在のスズキの会長兼社長の鈴木修氏。会長と社長を兼務するようになったときに開かれたパーティーで、鈴木氏は兼務することになった理由をこう説明した。「今までもオイルショックなどで会社が危機的な状況になることはあった。それから時間がたち現在の経営陣の中には、当時の危機的な状況を経験したことがある人間がいなくなった。現在の世界的不況に立ち向かうには、過去に危機を体験したことがある自分が舵取りをするのが適切」
その結果は早くも現れた。2009年の世界販売台数がVWグループとスズキの合計で、世界トップになることが確実になった。まだGMなどの正確な台数は発表されていない(2010年1月25日時点)が、北米市場の大幅な落ち込みを見るとVWグループとスズキのトップは確実。それはトヨタ自動車を抜いて世界トップのトップに躍り出たことになるのだ。トヨタにとって目の上のたんこぶであるスズキが、VWグループと提携したことでトヨタをあっさりと抜き去ってしまった。時代の流れではあるが、中国や旧東欧に強いVWとインド市場で大きなシェアを持つスズキは、今後も販売台数の高い伸び率が期待できる市場を押さえている。VWとスズキはこの提携で2018年には世界販売1000万台を実現しようとしているが、世界の成長市場を押さえている両社なら実現可能かもしれない。
こうした優れた経営手腕を発揮する鈴木修氏の"伝説"がはじまったのは、1978年に社長に就任してからだ。社長就任の翌年に"全国統一価格47万円"の衝撃プライスで初代アルトを発売。CMの軽快なリズムに合わせて連呼された「ヨンジュウナナマンエン!」というフレーズを記憶している人は多いだろう。このアルトは低価格路線で大成功を収めた。軽自動車のプレゼンスを一気に高めたのがアルトだったといっても過言ではない。このときからトヨタは、スズキの存在に眉をひそめるようになったのだ。
このアルトの登場後、軽ボンネットバン市場は一気に拡大し、軽自動車が市民の足として親しまれるようになったのは初代の功績だ。あれから30年以上が経過して、アルトはなんと海外でも販売されるグローバルカーに成長した。もちろん海外販売のモデルは国内仕様の軽自動車とは違うプラットフォームを採用するが、アルトの車名は海外でも知られる存在となった。昨年末に発表された7代目となる新型アルトは、ワゴンRから採用された新プラットフォームを採用。コンセプトは「省資源・低燃費で気軽に使え、世代を超えて愛される軽自動車」。実は初代のコンセプトも「クルマ本来の機能、省資源、省エネルギーに対応」というよく似たものだった。新型アルトは誕生から30年以上を経過した節目で、原点回帰を目指したわけだ。
コンセプトの低燃費は、エコカー減税への全グレード対応で実現している。CVTを使うXとG、FF・5速MTのFとEグレードは75%減税の対象。4速ATのG、F、Eと4WD・5速MTのF、Eグレートは50%減税となっている。アルトをエコカー減税に全車対応させることができたのは、この基準に合わせて開発ができるタイミングだったからだ。現在売れているクルマはエコカー減税対象車種が中心ということを考えると、このアルトの全車対応は大きなアドバンテージになるはずだ。
じつは30年以上前の初代アルトも税制面を利用してヒットしているのだ。軽ボンネットバンは商用車のため維持費が安く、大ヒットしたのだ。平成という時代になっても、エコカー減税という優遇税制で売れ行きが左右されるというわけ。新型アルトの燃費の向上のポイントはエンジンのVVT化などもあるが、ミッションの改良も大きい。2009年9月にパレットSWが採用した副変速機構付きのCVTを新型アルトにも採用している。さらに従来のトルコン式ATも4速化されて燃費が改善している。先代は3速ATと5速MTだけの設定だったから、その進化はかなり大きいといえるだろう。副変速機構付きCVTを採用するFFのXグレードは、10・15モード燃費24.5km/Lを実現している。ハイブリッドカーに迫る燃費達成しているわけだ。
7代目となった新型アルトは、さすがに初代のような40万円台の衝撃プライスを実現することはできなかった。現在は当時と装備も車体寸法も違っているため、こうしたプライスを実現するのは難しい。それでも新型アルトは低価格を実現したといっていいだろう。バン(商用車)は67万4250円、乗用も73万2900円で買えるグレードを用意している。
最初に試乗したのは、やはり注目の副変速機構付きのCVTを搭載したXグレード。このクルマは75%減税の対象車だ。発進時の滑らかさやNAエンジンでも力不足を感じさせないのは、無段変速でかつ変速幅が大きいCVTの効果。アクセルを踏み込んで周りの流れをリードするような加速でも、1人乗車ならそれほどノイズが高まらずに軽快にスヒードをのせていく。アルトのような乗用軽では4人でのフル乗車というケースは少ないだろうが、このエンジンとCVTの組み合わせなら4人乗車でも加速性能に不満はないだろう。
アルトの少しだけ気になる点は、少し加速時ノイズが大きい気がすることだ。同じプラットフォームを採用するワゴンRやパレットSWと比べての話だが、コストをかけることができるパレットSWなどは遮音材がしっかりしているせいかアルトより静かに感じる。さらにSWと同じ最新の副変速機構付きのCVTにも気になる点がある。副変速は50~60km/h程度で低速から高速に切り替わるが、アルトはこの変速作動音が室内に聞こえてくるのだ。もちろんそれほど大げさな音ではなく、オーディオを聞かずに乗っていると気が付くレベルで、今まで聞いたことがない「クーゥ」という音が聞こえる。同じミッションを採用しているSWでまったく聞こえなかったことを考えると、アルトは遮音・吸音材に違いがあるのかもしれない。もっとも価格差を考えるとそれも納得だが、少し気になるのだ。
前述のようにアルトの新プラットフォームはワゴンRやSW、ラパンなどと共通。その効果で乗り心地も向上している。比較的柔らかなサスセッティングのため、路面からのショックをよく吸収してくれる。荒れた路面を走っても乗員に不快な、突き上げるようなショックを伝えないのだ。この辺はロングホイールベース化されたことも効果を表しているようだ。ロング化でリヤシートの足下も若干だが広くなったため、4人乗車でのドライブも快適さが向上している。ただし、うねった路面ではやや上下動の収まりが気になることもあった。ダンパーの減衰力を伸び側と縮み側の両方を強化すれば対処できそうだが、そうなるとせっかくのソフトな乗り心地が犠牲になってしまうだろう。アルトは日常の足として使うことが多いクルマだけに、サスセッティングは現在のソフトのままでいいだろう。
お薦めグレードは、じつはCVTではなく4速AT。こちらは残念ながらエコカー減税は50%減税対象車になるが、4速ATもスムーズな変速で走りがいいのだ。CVTのようにスルスルと加速でき、静粛性もCVTに迫る性能を見せている。車両価格と総合的な性能を考えるとCVTより安いこの4速ATがアルトの買いだ。減税幅は小さくなるが、それを車両価格で十分にカバーできる。
リヤコンビランプのデザインはスイフトによく似ている。ちなみに海外向けのアルトとデザインとの共通点も多いが、デザインチームは別だ |
丸いヘッドライトと丸型のグリルデザインは女性ユーザーに支持されるだろう |
正面から見ると丸いヘッドライトだが、上から見るとこのような楕円形をしている |
何ともかわいらしいフェイスだが、ちょっと爬虫類系の顔にも見える |
デザインは丸に徹底している。ドアミラーはもちろん、そこに組み込まれたターンランプまで丸型 |
インパネも印象がソフトな丸基調。センター部のデザインもうまく丸でまとめている |
スズキは専用オーディオをよく使うが、標準でハンズフリーに対応しているのがいい |
新型アルトには小物を置くのに便利なインパネトレイが付けられた。先代にはこのような収納スペースがなかった |
シフトは代替えユーザーに配慮して使い慣れたフロアタイプを採用。CVT車はDとLレンジのほかにグリップ部の根元にSレンジボタンを備える |
後席用のカップホルダーも装備 |
上級グレードはヘッドレストを装備するが、あいかわらずヘッドレストを装備しないグレードもある。ABSとリヤヘッドレストは全車標準化するべきだ |
分割可倒式リヤシートは上級グレードのみで、ほかは一体可倒 |
ソフトで座り心地がいいシートだ。ロングドライブでの乗り心地は確かめていないが、足として使うならこのソフトさも問題ない |
ロングホイールベース化で足下が広くなった。シートはバックレスト長がもう少し長くなればさらに快適だ |
センタートンネルの高さが低いため左右に移動しやすい。サイドシルの高さも低いため、ハイヒールのかかとが引っ掛かることもないはずだ |