最近はビッグ3の話題が多いが、これほどまで状況が悪化する少し前、2008年11月にゼネラルモーターズ・アジア・パシフィック・ジャパン(以下GM)が都内で「テクノロジーセッション」を開催。日本初披露の燃料電池車「シボレー・エクイノックス」とハイブリッド車「シボレー・タホ・ハイブリッド」、「サターン・オーラ・ハイブリッド」とスズキの「SX4-FCV」を持ち込んだ。今回はサターンのオーラ・ハイブリッドとスズキのSX4-FCVの試乗インプレッションをお届けする。

サターン オーラ・ハイブリッド

オーラ・ハイブリッドはクラウンとほぼ同サイズだが、前後が絞り込まれたデザインのためか小さく見える

リヤスタイルもいたって普通。特別個性的な部分がないためどこの国のクルマかわからない

読者の中にはサターンという名前を聞いて、懐かしいと思う方も多いだろう。日本車キラーとして登場したサターンは、1990年代に日本にも上陸を果たした。「礼を尽くす会社、礼を尽くすクルマ」というユニークなコピーとともに、日本の自動車業界にそれなりのインパクトを与えた。樹脂製の外装パネルを採用するなど斬新なクルマ作りだったが、日本市場には受け入れられずサターンブランドは撤退してしまった。ちなみに当時日本に輸入され売れ残ったクルマは、沖縄でレンタカーとして余生を送った。数年前、沖縄旅行に行った人はきっとサターンのレンタカーに乗った人が多いはずだ。

サターンは日本では失敗したものの、本国アメリカでは生き続けている。そのラインナップ中でも注目なのがオーラ・ハイブリッド。ハイブリッドと言ってもプリウスやインサイトのようにモーター駆動で走るわけではなく、アイドリングストップをするというのが機能のメイン。以前トヨタのクラウンにマイルドハイブリッドの設定があったが、それによく似ている。オルタネーター(発電機)をエンジン始動用のモーターとしても使い、アイドリングストップから素早くエンジンをかけるというものだ。

これだけの機能でハイブリッド? と思う方も多いだろうが、日本では高度なメカと制御を行うプリウスなどが一般的になったため、ハイブリッド=モーター走行と思いがちだが海外は事情が違う。例えば最近メルセデス・ベンツ日本が発売したスマートのマイナーチェンジモデルは、スマートmhd(マイクロ・ハイブリッド・ドライブ)と呼んでいる。これもアイドリングストップがメイン機能だが、ハイブリッドを名乗る。じつはドイツの自動車工業会ではアイドリングストップや回生を行うクルマも、ハイブリッドと呼んでいいことになっている。オーラはアイドリングストップもするし、回生も行うからそういう意味では立派なハイブリッドカーなのだ。

オーラ・ハイブリッドのメカは2.4Lエコテックエンジンがベース。これにモーター/ジェネレーターを装備して停車時にアイドリングストップ。ブレーキペダルを離すとオルタネーターをエンジン始動用のモーターとして使ってエンジンをかけるわけだ。オーラ・ハイブリッドは単純なアイドリングストップだけでなく回生ブレーキの機能も持っているのが特徴。そのため1kWのニッケル水素バッテリーも装備していて、減速時は早くからフューエルカットを行いながら発電をすることでブレーキを補助している。ハイブリッド用のバッテリーを搭載したことで、電池容量が高い時にはオルタネーターを働かせないためフリクションが少なくなり、通常の走行時でも既存のガソリン車より燃費を稼げるという。

ドライバーズシートに座るとオーラ・ハイブリッドは、かなり小さいクルマのように感じる。ボディサイズはトヨタのクラウンとほぼ同じなのだが、室内がそれほど広くないためそう感じるのかもしれない。操作系もいたって普通だ。ガソリン車と変わらないイグニッションキーを差し込んで回せばエンジンが始動する。違うのは正面のスピードメーター内にグリーンの文字で「HYBRID」と書かれていることくらい。

4速ATのセレクトレバーをDレンジに入れて動かすのもまったく普通のクルマと同じだ。メインの通りに出てアクセルを大きく踏み込んでも、2.4Lクラスらしい普通の加速感。モーターアシストをしないのだから当然だが、ミドルクラスのサルーンの動力性能しか持っていない。期待が大きかった分だけ、あまりの普通さで拍子抜けしてしまった。

オーラ・ハイブリッドのハイライトは減速時から停止までだ。信号で停止するときエンジン音に注意して聞いていたが、減速時にはエンジンは停止しない。プリウスのような動力分割機構を持たないため、エンジンを切り離して停止することはできない。そのため減速時はフューエルカットで燃費を稼いでいる。しかし、これは現在のインジェクション車なら普通にやっていることで珍しくはない。停止すると約1秒後にストンとエンジンが止まった。停止時のショックが少ないためエンジンが停止したことをそれほど意識させない。遮音性があまりよくなく、車内にエンジン音が聞こえてくるため、エンジン音に注意しているとはっきりと停止したことがわかる。

プリウスなどはほとんどの場合、ロードノイズが大きい減速時にエンジンを停止してしまうため、いつエンジンが止まったのかわからない。モニターを見なければ停止を確認できないほど静粛性に優れたプリウスとは大きく違うところだ。プリウスに乗りなれた人には、オーラ・ハイブリッドのアイドリングストップがもの足りなく感じるはずだ。

それ以前にクルマとしての基本も今一歩。まずステアリングを握って走り出すとボディ剛性感が足りないのだ。路面の凹凸を通過する際のハンドルに伝わるあいまいさは、時代を感じさせる。かつての日本車もボディ剛性が重視される前はこんな感じのクルマが多かった。ちょっと懐かしい感じだ。それに全体的に室内騒音が大きい。日本車ならもう少し小さなプレミオ/アリオンのセダンクラスでも、もっと高い静粛性を持っている。

インパネのデザインも一般的過ぎておもしろみに欠ける。ATも4速のままだ

真ん中のスピードメーターをよく見てほしい。グリーンの文字でHYBRIDと書かれていることで、このオーラが他のグレードと違うことがわかる

エコテックエンジンは164HPを発揮する。ハイブリッドと言ってもアイドリングストップがメインのため、市街地で使えば燃費を伸ばせる。逆に停車しない高速巡行や停止することが少ない郊外路ではメリットが少ない

海外ではアイドリングストップと回生を行うだけでもハイブリッドと呼ぶ

こうして見ると最先端のハイブリッドカーのように見えるが、それほどハイテクなメカは搭載していない

奥に見えるのがモータージェネレーター。発電とエンジン始動の2役をこなす

プリウスなどと同じく、リヤシート裏のトランクにニッケル水素バッテリーが搭載されている。そのためトランクスルーができなくなっている

オーラ・ハイブリッドで東京・お台場を走ったが、クルマそのものの魅力が今一歩だった

スズキ SX4-FCV

次に試乗したのはスズキのSX4-FCV。なぜGMとの資本関係がなくなったスズキが、このテクノロジーセッションに呼ばれているのか不思議に思う方もいるだろう。GMはこの危機で所有していたスズキの株も売却したが、1981年の業務提携から続く関係は株の売却のようにあっさりとは終わらない。スズキは小型車の開発を任されていたし、最先端のFCVの分野ではGMから心臓部であるフューエルセルを供給されていた。そのためFCVは、今でもGM製のフューエルセルが使用されている。今回試乗車として用意されたのはそうした事情があるからだ。

スズキの燃料電池車は、世界戦略車であるSX4をベースにしている。これはヨーロッパでのイメージ向上も考えてのことだろう

最低地上高がかなり低くなっているようだ。このパイプは燃料電池の反応で作られた水蒸気や水を排出するためのもの。燃料電池内の水を排出するときには結構大きな音がする

一般道での試乗のため、さすがに運転はさせてもらえなったが同乗試乗するチャンスを得た。助手席に乗り込むと停車中にもかかわらずわずかながらノイズがある。燃料電池車は電気で動くため停車時は無音と思っている人も多いが、じつはフューエルセルに空気を送るポンプが稼働していることが多く、その音が聞こえることが多い。SX4-FCVも同様でエアーポンプの音とインバーターからと思われる高周波音が聞こえてきた。だが、ガソリン車と比べると圧倒的に静かで、これらの音はオーディオを聞いていればまったくわからないレベルのものだ。

走り出すとロードノイズが高まり、エアーポンプの音はまったくかき消されてしまう。モーターの駆動音やインバーターからの音がわずかに聞こえる程度で、やはり極めて静かな走行音だ。車内から撮ったビデオをよく聞いてほしいが、信号待ちしているバイクの排気音が、信号が青になりスタートしてもしばらくは聞こえている。通常のクルマならばスタート同時に騒音が徐々に高まり、こうした周りの騒音は気にならなくなる。燃料電池車を含め、EVなどモーター駆動で走るクルマは、自車が静かなため逆に車外の騒音がよく聞こえるようになってしまうのだ。

加速は力強い。キャパシタや700気圧の高圧水素タンクを搭載しているため重心が低くなっているようで、ガソリン車のSX4より安定感があるように感じられる。車重はやや重そうだが、それが重厚な乗り心地に結びついているようでフラットライドな感じだ。燃料電池の出力は80Kwだからこのクラスとしては平均的なスペック。モーターも68kWだから燃料電池の出力に見合ったものといえる。最高速度は150km/hにとどめられているが、航続距離は10・15モードで250kmというからもう少し距離を伸ばしたい。もっともこれは搭載する水素タンクの容量に左右されるので、SX4より搭載スペースが大きいクルマならば航続距離をもっと稼げることになる。

SX4-FCVのユニークな点は、バッテリーではなくキャパシタを使っていること。これは回生ブレーキによって発電された電気を蓄えておくためで、バッテリーに比べると充放電の効率が高い。だが、最近の燃料電池車を見ているとリチウムイオンバッテリーを使うクルマが増えている。ホンダも以前はキャパシタを使っていたが、FCXクラリティではリチウムイオン電池を搭載してきた。

スズキも将来のことを考えるとFCVの研究を練り直す時期に来ていると言っていいだろう。バッテリーはもちろん、心臓部であるフューエルセルをGMに依存したままでいいことはない。窮地に立たされているGMは、こうした最先端の研究に投資する余裕はないからだ。フューエルセルの研究が遅れれば、スズキにとって将来のカードを失うことにもなりかねない。スズキの台所事情も苦しいだろうが、こうした先行投資を惜しまずにFCVの開発を続けてほしい。

ボンネットフードを開けるとシステムを見ることができる。スズキの横にGMと書かれていることに注目。写真奥右側の黒いものがエアーポンプ

ラゲッジルームは高圧水素タンクに占領されて、荷物を積むスペースがほとんどない。パッケージングを見直すか、他のクルマをベースにしないとSX4ではスペースがきつい