人気が盛り上がりつつあるSUV - 07年はSUVの当たり年だった
07年は東京モーターショー開催年とあって、年後半からは新車ラッシュが続いた。中でも目立っていたのはSUVとスポーツカー。スポーツカーはすでに登場を約束、または予告していたものが多かったからそれほど驚かないが、SUVが続々と投入されたのには少々驚いた。07年に登場した国産ブランドSUVをあげるとホンダのクロスロードが2月に登場。日産デュアリス(現在はイギリス製の輸入車だが08年からは国産化)が5月、同エクストレイルが8月、トヨタのヴァンガードも8月に登場している。9月にはトヨタの高級車ランドクルーザーがモデルチェンジ(200系)された。輸入車もSUVが多く投入されたが、手ごろな価格帯のモデルではダッチ・キャリバーやナイトロ、ジープ・パトリオットが投入され日本市場でもSUV人気が盛り上がりつつある。ミニバンに飽きたユーザー層が次に狙うのがスペースユーティリテイに優れ、着座位置の高さから衝突安全性にも優れるSUVが人気になると自動車メーカーは予想しているわけだ。最近元気がない国内市場を活性化する狙いもあって各メーカーは、このジャンルのクルマに熱い期待を寄せているのだ。
ミニバンのラフェスタなどが使うCプラットフォームをベースに開発された。エクステリアデザインはキープコンセプトだが細かい部分はよく考えられている |
リヤコンビネーションランプのデザインが大きく変えられたため、新型はフロントよりリヤから見たほうが新しいクルマに見える |
ルーフレールに組み込まれたドライビングランプはエクステリアの特徴にもなっていて実用的だが、旧型も同様の装備を持っていたため新鮮味は薄い |
Dピラーのデザインは特徴的だ。リヤコンビネーションランプと曲線を合わせたデザインで、リヤまわりのデザインに塊感を持たせるのに成功している |
もともとSUVは北米市場で確立されたジャンルだ。Sはスポーツ、Uはユーティリテイ、Vはビークルの意味で、荷物も積める広い空間を持ち、どこにでも行け、スポーティモデルのようなハンドリングを持つクルマというもので、きちんとした定義はない。それまでクロスカントリー4WD(クロカン4WD)と呼ばれていた走破性を重視したモデルは舗装路でのハンドリングがよくなかったため、北米のハイウェイを気持ちよく飛ばせるクルマとしてSUVの人気が高まった。北米では未舗装路を走ることも多く、キャンピングトレーラーやボートなどをけん引するためクロカン4WD並みのタフさも要求される。こうした北米モデルをそのまま日本市場に投入している例もあるが、日本で人気が高いのはミニバンからの移行も考えた7人という多人数乗りができるモデルや走りを重視したモデル。ホンダのクロスロードはミニバンのストリームのプラットフォームを使ったSUVで、コンパクトなボディだが7人乗りできるのが特徴。走り重視のモデルはマツダのCX-7。スタイルも今までのSUVとは違いクーペを意識したデザインで独自性が高いモデルだ。
リヤコンビランプに近づいてみるとわかるが、かなり立体的なデザインになっている。高い位置に取り付けられているため後方からの被視認性が高い |
エクストレイルがもっとも似合うのはこうした自然の中だ。試乗会は静岡県伊豆のモビリティパークで行われた |
搭載エンジンは2Lと2.5Lの2種類があるが、キャンピングトレーラーをけん引するなどのヘビーな使い方をしなければ2Lで十分だ |
インテリアの質感は200万円クラスとして考えると十分。操作系に大きな不満はなく、ドライビングポジションも取りやすい |
一見あまり変わらないように見えるが、完成度が高いエクストレイル
前述のように07年に登場したモデルは数多いが、その中でも高く評価したいのが日産のエクストレイル。初代エクストレイルは、社長に就任したばかりのカルロス・ゴーン氏(現取締役共同会長兼社長)が指揮をとって発表したクルマだ。すでにクルマ自体の開発は終わっていたため、初代エクストレイルにゴーン氏の意見は多く反映されていないが、発表と宣伝は斬新なゴーン流だった。遊ぶための"ギア"として使える200万円台のSUVということを明確に強調。発表会場には各スポーツやアウトドアのジャンルで活躍する人を集め、クルマの使い方を実際に会場で提案。さらにこれらのスポーツ雑誌などの媒体とのコラボで、エクストレイルが"使える"クルマであることをアピールした。これがウケて日本市場ではエクストレイルが、SUVのジャンルで常にトップセールスを展開。三菱のアウトランダーの登場でトップを譲ることもあったが、初代はモデルチェンジ直前まで高い人気を集めていた。
メーターは極めてシンプルだが視認性はいい。センターの丸型液晶ディスプレイには燃料計や水温計、シフトポジションなどが表示される |
新型エクストレイルは収納箇所が多いため使い勝手がいい。インパネセンターにはフタ付きの大きな収納があるため携帯電話などを入れるのに便利だ |
日産の"ドル箱"に成長しただけにエクストレイルのモデルチェンジは難しかったはずだ。これは日産に限らずヒットしたクルマの次モデルでは、開発スタッフがその方向性に大いに悩む。多くの場合キープコンセプトで、それまでの人気を新型でも持続させるという作戦を取るわけだ。新型エクストレイルもガチガチのキープコンセプト。エクステリアデザインはちょっと見ただけでは旧型と区別ができないほど。だが、よく見ると細かい点は旧型をブラッシュアップして、うまくデザインされているのだ。イメージカラーが旧型と同じレッドという点やルーフレールにドライビングランプを組み込んだ特徴など、旧型と似ているためイメージ面では少し損をしているが、乗り心地や走破性、ハンドリングは旧型を大きく上回っている。
運転席の右側にはドリンクホルダーを用意。視線移動が少ない高い位置に置き、ステアリングからも近いため使い勝手がいいだけではなく安全性も高い |
先代のマイナーチェンジで採用したポップアップステアリングは、スキーなど車内で着替えるときにとても便利。もちろんこの状態では走れないように安全対策がされている |
シートは高級感のある本革のように見えるが実はは合皮。シートメイン部はダイビングスーツと同様の防水性を持ちながら透湿性も持つセルクロス。セルクロスは住江織物の登録商標 |
プラットフォームの変更で後席足下の余裕が増え、快適性は大幅に高まった。シートバックはリクライニングもでき、ロングドライブも楽 |
新型エクストレイルの特徴はプラットフォーム変更によるサイズアップ。ほかのクルマのようにムダに大きくするのではなく、扱いやすさを変えないように全幅はほぼキープで全長を長くしている。これによりニールームは24mmも拡大。さらにシル地上高を前席で28mm、後席で14mmも下げているためSUVで問題になりがちな乗降性を改善している。さらに延長したリヤオーバーハングとリヤサスペンションの改良によって、ラゲッジスペースは96Lもアップ。2LクラスのコンパクトSUVとしては大きなラゲッジスペースを確保できた。キャンプ道具などはもちろん、MTBもそのまま搭載できる優れた積載性は、エクストレイルのタフギアというコンセプトを具現化したものだ。
新型最大の特徴は電子制御4WDシステムのオールモード4×4-iの採用とサスペンションの煮詰めだ。オールモード4×4-iはあらゆる場面で4WDを感じさせない自然なハンドリングが特徴。FRベースで積極的にトルク配分をするタイプはアンダーステアが少なくスポーツ走行もこなせたが、エクストレイルは横置きFFベースの4WD。だが新型はステアリングの操舵量をモニターする舵角センサーや旋回状態を判断するヨーレートセンサー、Gセンサーからの情報をフィードバックさせ、細かく前後タイヤにトルク配分を行っている。このシステムによってドライバーが意図する動きを実現できたのだ。
200万円クラスのSUVとして珍しくリヤ専用のエアコン吹き出し口がある。開発陣によると欧州では日本よりも高額車になるのでこうした装備を盛り込むことができたのだという |
オプションだがこのガラスサンルーフは大開口タイプ。ガラスが開閉しないグラスルーフではなく、スライドとチルトが行える。紫外線を100%遮断するUVカット機能付きでサンシェードも装備 |
試乗時はドライの舗装路面からヘビーウェットの厳しいコンディション、オフロードコースの滑りやすい路面までも一度に楽しめる天気だったが、エクストレイルはどのコンディションでも高い操縦性を見せた。驚いたのはワインディングでの走行だ。SUVは車高が高いためワインディングでのハイペース走行は苦手。ところがエクストレイルはスポーティカー並みのペースで走れてしまうのだ。2LエンジンのMR20DEはCVTC(連続可変バルブタイミングコントロール)採用で低回転から大トルクを発生するタイプだが、コントロールを変更したエクストロニックCVTとのマッチングがよく約1.5tに達する車重を感じさせない。さすがにエンジンは137馬力のスペックのため上り坂ではスポーティカー並みとはいかないが、下りはよくできたサスペンションとステアリング、パワートレーンのおかげでSUVとは思えない操縦性なのだ。本格的なオフロードも走れる最低地上高を持つモデルのなかではトップクラスのハンドリングを持っている。さらにワインディングでの乗り心地もいい。実はこうしたハンドリングと乗り心地を実現できたのは、デュアリスがあったからだ。
リヤシートを倒してフルフラットにすればベッドにもなるように設計されている。奥行きは1742mmあるため大人でも寝ることができる |
リヤシートから外したヘッドレストをこのようにセットすれば、枕になるように設計されている。ベッドマットを敷けば快適に車中泊ができる |
外したヘッドレストをしまうところがなくて困ることがあるが、シートクッションのところに挿せるようにしている。もちろん収納だけならば上から挿し、枕にするなら下から挿す。うまいアイデアだ |
ラゲッジスペースは高さも確保(開口部高884mm、荷室高1012mm)されているため、ここで着替えることも可能。もちろんボードには人が乗っても大丈夫だ |
イギリスで開発されたデュアリスとのいい関係
デュアリスはイギリスで開発され、現地で生産させているグローバルモデル。ヨーロッパ市場ではキャシュカイの名前で大ヒットしている日産のヨーロッパ市場戦略モデルだ。開発はイギリスで行われ、走行性能、操縦性に徹底的にこだわり、一般道の実車走行テストも徹底的に行った。エクストレイルは国内での開発だが、プラットフォームをはじめエンジンやパワートレーン、サスペンションを共用する兄弟モデル。デュアリスの開発で得たノウハウをエクストレイルにも活かしたため、すばらしいハンドリングと乗り心地が実現できたわけだ。ヨーロッパをメインとするデュアリス(キャシュカイ)の存在がなかったら、エクストレイルがここまで完成度を高めることはできなかったはず。ヨーロッパでクルマを開発するという意味が、改めて大きいということを実感させる。
ベルトの巻き取り機構をアンカー部だけでなく腰部にも設け、乗員の拘束を高めるダブルプリテンショナーを採用。もちろん衝突時に胸部に過度の荷重を掛けない2ステージロードリミッターも採用している |
新型エクストレイルから採用された新型シートベルト。シートベルトの布の織り方を工夫することで服との摩擦抵抗を減らして、胸を圧迫するような感じを低減 |
オフロードの走りもトップクラスだ。4WDにありがちなステアリングを切っても曲がりづらいというアンダーステアをオールモード4×4-iでカバー。さらに滑りやすい10%以上の急勾配の坂を下るときに、ブレーキやアクセルを踏まなくても自動的にスピードを約7km/hにコントロールしてドライバーがステアリング操作に専念できるヒルディセントコントロールも装備。これは最近の本格的クロカン4WDに多く装備されているものだが、エクストレイルも走破性能を重視していることをアピールする装備だといえる。日常生活ではまず体験しないシチュエーションだが、極限に近い走行も可能というのは大きな付加価値だと思う。唯一新型になって残念だと思うのは、先代まで用意されていた純正ヒッチがなくなったこと。キャンピングトレーラーなどをけん引するヒッチを国産車で用意しているのはかなり少ない。それだけに余計に残念だ。ちなみに欧州仕様のエクストレイルのけん引能力はブレーキ付きトレーラーで2000kg、なしで600kg。国内仕様もメカは同一なので、新型も十分なトーイング能力がある。欧州仕様用純正ヒッチメンバーを取り寄せれば、日本仕様にも装着できるという。クロスメンバー内に取り付け時の補強として入れるカラーも付属しているから、車体剛性の面でも負担は少ないはずだ。
エクストレイルの総合性能は高く、200万円台の本格的SUVの中ではコストパフォーマンスが高い。7人乗りがないのが残念だが、2Lクラスではもっともお薦めできる1台だ。
急坂でブレーキペダルを踏まないという動作は慣れないと難しいため、こうした安全なコースで体験しておけば、いざというときにクルマの性能を十分に引き出せる |
このようなオフロードはもちろん、舗装路でも高い操縦性を見せるのが新型エクストレイル。全方位で高い性能を実現している |
丸山 誠(まるやま まこと)
自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員