前回はセール・アンド・リースバックについて説明いたしました。今回は、筆者が2024年に読んだドキュメントの中から財務担当者向けの参考文献を紹介いたします。新刊以外も含まれております。
事業計画の極意―仮説と検証で描く成長ストーリー
2024年12月発行。本書に記載されている手順に則って売上計画・費用計画を作成すれば、自ずと金融機関へ提出できるレベルの収支計画が出来上がります。エクイティ/デットに関係なく、IRに携わるビジネスパーソンのヒントとなるコミュニケーションのコツが大量に紹介されているので、事典としても使えます。
三井大坂両替店 銀行業の先駆け、その技術と挑戦
2024年2月発行。屋敷を担保にして融資を受ける習慣が江戸時代には存在したと説明されており、企業が融資を受けるためには不動産を担保に入れる必要があると今もなお信じられている理由を垣間見ることができました。(統計に拠れば現代の融資は無担保が大半を占めます。)三井住友銀行の金融技術は歴史の重みに裏付けされたものだと気付きました。
銀行監督の歴史 日本の銀行業とプルーデンス
2024年5月発行。大蔵省銀行局の人員が限られている中で、金融システムの安定化を図るために銀行の合併を推奨・推進してきた歴史が描かれています。100年前の日本には2,000を超える銀行が存在し、毎年2桁の銀行が破綻していたことに驚きました。中学・高校の日本史の授業では昭和恐慌というキーワードを知ったのみで私自身深掘りをしなかったのですが、あらためて実情を知り、現在の法規制やガイドラインが形成されたプロセスをイメージすることができました。
社債市場の未来
2024年9月発行。今まで間接金融を中心にデットファイナンスの情報収集をしてきたのでそれほど数を熟してきた訳ではないのですが、私が読んできた中で歴代No.1の、実務家が執筆した公募社債に関する書籍です。数字や具体例が豊富に紹介されていてお薦めです。社債型種類株や東京プロボンド市場といった最新の話題も取り扱っています。
取引仕振り改善と融資条件の決め方
1982年2月発行。金融機関の法人営業担当者向けの教科書で、交渉の主導権の握り具合(いわゆるメイン行か否か)を考慮しつつ取引先企業の業容に合わせて適切な提案をするための方法論が説かれています。第3章第4節は「金利の是正交渉」というタイトルで、オイルショック時の公定歩合の変動が融資金利へ与えた影響について解説されており、政策金利が上昇したことが話題となった2024年にピッタリの内容です。
デットIR入門 -企業の戦略財務と情報開示-
2007年4月発行。時代背景として、大企業を中心にデットの多様化が模索され、シンジケートローン市場の裾野が急速に広がり社債市場の拡大も企図された時期に出版された書籍です。エクイティIRとデットIRを対比する形式で議論が進行するので内容が理解しやすいです。
リース法務ハンドブック
2020年11月発行。リース契約の内容・許認可(リース事業そのものの許認可は不要ですが、資本構成や取り扱うリース物件によっては許認可・登録・届出が求められます)・ガイドラインといった取引ルール全体を把握することができる書籍です。リースは企業が経営資源を入手するために広く普及している資金繰り策ですが、スタートアップ界隈では注目を集めることが少なく不思議に思っています。
週刊金融財政事情 2024年7月2日号(3548号) 特集「農業分野で輝く銀行」
農業融資に関するキーワードが豊富に紹介されており、アグリテック・スタートアップがデットファイナンスを検討する際にヒントを得ることができます。情報が出てくる機会が少ない農協以外のプレイヤーについても取り上げられているので、一読の価値があります。
参考文献の紹介は以上です。今シーズンもデットファイナンスに関する最新情報の提供と過去の記事に対する補足説明を中心に、17回に渡って連載させていただきました。例年通り暫くお休みをいただきますが、2025年も引き続き執筆し続けたいと思っております。お読みいただきありがとうございました。
→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら