前回は転貸資金の融資について解説いたしました。今回はセール・アンド・リースバックについて取り上げます。セール・アンド・リースバックは不動産・動産の売却とリースを組み合わせて現金を得る手法です。資産の所有権を手放して現金を獲得し、リース料を支払って使用権を維持するかたちになります。先にキャッシュインフローがあり、後から分割したキャッシュアウトフローが発生するため、資金の動きだけに着目すれば設備購入資金の融資を受けて分割返済していくケースと類似しています。

セール・アンド・リースバックを活用するためには、まずリースについて理解する必要があります。『リース法務ハンドブック』の説明を引用すると、リースは「借手が指定したリース物件を、貸手が購入または取得した上で、その占有使用権を一定の対価を得て一定期間に渡って借手に付与する契約」です。「民法においても、リース契約という契約類型は明文上定められておらず、最高裁判例上もリース契約について一般的な定義を定めたものはない」状況である一方、法人税法上リース取引の定義が存在し、リース取引に関する会計基準も存在します。2027年4月1日以降に開始される事業年度から新リース会計基準が適用開始になることもあり、リースは経理担当者が注目しているトピックですが、入出金の期間ギャップを埋めるための手段としてのリースは財務担当者の間であまり話題に上らない印象を受けています。

リースと設備資金の融資の使い分けについては、ふたつポイントがあると考えます。ひとつは商慣習で、リース申込の際に決算書3期分の提出を求められることから、創業後3年経過しなければリース取引ができないです。例外は融資を受けている金融機関のリース子会社を利用するケースで、金融グループとして一度与信審査が済んでいればリース取引をすることが可能となります。もうひとつはリース会社の購買力で、PCや社用車といった動産の調達はボリュームディスカウントが効くため、中小企業が融資を受けて購入する場合と比較してリースの方が支払総額が低くなることがあり得ます。創業後の経過年数と使用する動産によって、判断が異なると言えるでしょう。

話をセール・アンド・リースバックに戻します。報道でよく見るパターンは企業の自社ビルのセール・アンド・リースバックですが、機械装置の事例も多いです。私見ですが、実験機器を購入するスタートアップや工作機械を購入するものづくり企業は資金繰り改善の選択肢のひとつとして検討してよいと思います。助成金で購入したため用途が制限されている資産や申込時点で既に担保が設定されている資産のセール・アンド・リースバックはできないですし、融資で購入した設備のセール・アンド・リースバックはステークホルダーとの関係性が悪化しないように慎重を期す必要性がありますが、売却と異なり資産の継続使用が可能である点が借手のメリットです。貸手の観点では、同一のリース物件について複数の異なる貸手がリースをする多重リースの危険性がある取引形態であり、不動産のように登記制度がない場合には所有者を見極めることが難しくなることから、詐欺的行為を防ぐことが課題になっています。

toC向けにノートパソコン・カメラ・ブランドアイテムといった動産をセール・アンド・リースバックするサービスcashariを展開しているガレージバンク株式会社代表取締役の山本義仁氏によれば「事業法人のセール・アンド・リースバックは、乗用車の金額帯から検討の範疇に入ってくる」とのことです。ミニマムで7桁の金額が動くときに、セール・アンド・リースバックはビジネスとして検討の俎上に乗ると理解しています。

セール・アンド・リースバックに関する説明は以上です。次回は「2024年版財務担当者へお薦めする参考文献」と題して筆者が今年に読んだ資料を紹介し、今シーズンの連載を締め括ります。

→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら