前回は融資可能額の推定方法について紹介いたしました。今回は転貸資金の融資について解説いたします。
転貸資金を平易な言葉で表現すると、又貸しをするための資金になります。親会社が金融機関から融資を受けた資金を子会社へ貸した場合、転貸資金に該当します。同様に、取引先への貸付も代表取締役個人への貸付も転貸資金です。一般的な運転資金として融資を受けて又貸ししたとき、金銭消費貸借契約書上で掲げられた資金使途に違反して、借り手は期限の利益を喪失します。期限の利益を喪失すれば、返済期日を待たずに金融機関側から一括返済を求められることになります。
裏を返せば、融資の資金使途が転貸資金だと説明した場合に借りることは可能ですが、転貸資金を資金使途とする融資は非常に難易度が高く、ごく一部の例外を除いて政府系金融機関からの融資と信用保証協会付き融資では取り扱っておりません。転貸資金の融資を実現するためにはプロパー融資を受けることができる信用力とともに、純資産の厚さが要求されます。純資産の厚さが事業規模と表裏一体だとするならば、貸金業における法令の定義がひとつの目安を提供しています。本連載の第25回で述べた通り、貸金業者が社債を発行するためには特定金融会社として登録することが条件となり、資本金または出資の額が10億円必要です。いわゆる中小企業では転貸資金の融資交渉が困難で、上場企業とは言わないまでも中堅企業レベルの業容が要求されます。
転貸資金が許容される例外的な融資商品について列挙します。2024年12月時点では、日本政策金融公庫の「海外展開・事業再編資金」を利用することで海外企業に対する転貸資金を含む設備資金および運転資金を借りることが可能です。単純に海外進出するだけでは利用できないため、「取引先の海外進出に伴い、海外展開する」「原材料の供給事情により、海外進出する」「労働力不足により、海外進出する」「国内市場の縮小により、海外市場の開拓・確保に依らないと成長が見込めないため海外展開する」という条件を満たすか否か、申込時に確認しましょう。
東京都産業労働局が公表している「令和6年度東京都中小企業制度融資要項【12月2日改訂版】」を参照すると、「組合向け」の制度融資は転貸資金を用途として利用できることが分かります。商工中金Webサイトの「融資の対象となる方」のページにも、組合を通じて転貸資金を融資する旨の記載があります。組合の具体例としてイメージしやすいのは建設業です。国土交通省が創設した制度融資「地域建設業経営強化融資制度」も存在します。
融資について積極的に発信している株式会社Arriba代表取締役の谷本一将氏の意見を伺うと、「グループ企業間の転貸を前提とした融資の審査は煩雑になりがちで、審査の結果はグループ企業が合併したケースと大差ない」「企業グループの規模が小さければ、親会社の信用力で有利な条件の融資の契約が締結できたとしても金額的なインパクトは僅かで、企業グループの内外で発生する事務作業の負担を考慮すればメリットは薄い」とのことです。
転貸資金の融資に関する説明は以上です。次回はセール&リースバックについて取り上げます。
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