前回はコンプライアンスチェックについて解説いたしました。今回は融資可能額の推定方法について私見を述べます。融資を受けられる金額を予想する方法について様々な意見が存在しますが、大別すると4つの流派が存在すると考えています。純資産派・売上高派・利益派・キャッシュフロー派です。中小企業では損益計算書が未整備のケース(例:税務を優先し原価計算が不十分)が大半で、キャッシュフローを分析するには労力を要するため、筆者は簡易的に残り3つの指標を見ています。
純資産派は自己資金を重視します。住宅ローンの世界でよく聞く格言「頭金として3割用意する」をイメージすると分かりやすいです。購入金額の7割を借りることになるので、自己資金とローンの金額の比は3:7です。簡略化すれば自己資金の2倍借りられると言い換えることができ、特に創業融資の場面で同じような光景を見かけます。業歴が長くなれば利益剰余金も含めて検討します。厳密には業歴や業界に倍率が左右されるのですが、純資産の2倍がひとつの目安だと考えています。大きな事業投資をして業績がJカーブを描くことを想定しているときに向いている考え方です。
売上高派は資金の回転を重視します。俗に「月商の数倍、借りることができる」と言われますが、よくある運転資金の計算式「運転資金=売掛金+棚卸資産(在庫)-買掛金」に結局は帰着します。売上高に季節性が存在する場合、どのように情報を捌くのかが財務担当者の腕の見せ所なのですが、筆者は敢えて月毎の変動を無視して年で均しています。月商の3倍借りられると仮定して、年商÷4を目安としています。事業規模に則した短期資金向きの計算方法だと思います。
利益派は返済能力を重視します。利益と返済年数の積を求めて、融資可能額を計算します。
利益について売上総利益を基準に考える人は流石に稀ですが、粒度を細かくすれば更に営業利益派・経常利益派・EBITDA派・当期純利益派に分かれます。返済年数も3年・5年・10年…と様々な意見があります。筆者は堅実性を重視しつつ、スモールビジネスの融資の現場で5年返済から7年返済の事例をよく見ることを加味して、当期純利益5年分を目安にしています。長期資金向きの計算方法です。
借入余力は推計した融資可能額と実際の融資残高との差です。上記3パターンの方法で融資可能額を試算すると異なる値が出てきますが、幅として捉えることで融資の難易度を判定することが可能になります。債務超過や赤字のケースで推計値に負数が現れることもありますが、ゼロに置き換えて補正してもよいです。融資難易度の判定は、デットの総額を計算して3種類の方法で推計した融資可能額と比較し、決めています。計算式は下記の通りです。
デット総額=短期借入金+長期借入金+社債(註:その他借入金・役員借入金等の勘定科目が存在すれば、適宜加算します)
デット総額≦3種類の融資可能額全て の場合、難易度「易」
3種類のうち最も小さい融資可能額<デット総額≦2番目に小さい融資可能額 の場合、難易度「やや難」
3種類のうち2番目に小さい融資可能額<デット総額≦最も大きい融資可能額 の場合、難易度「難」
3種類の融資可能額全て<デット総額 の場合、難易度「非常に難」
融資可能金額をどのように計算するのか、複数の指標を使用するときはどのように組み合わせるのか、そのアプローチに財務担当者の個性が現れます。筆者の個性は「全業種共通」で考えて、キャッシュフローは「無視」して、純資産の「2倍」、月商の「3倍」、当期純利益の「5倍」を基準として捉え、3要素間の「重み付けなし」で融資の難易度を判定するところです。なお、3種類の推計値を加工して平均を取ったり中央値を求めたりはしません。あくまでも幅として捉えることに拘っています。突き詰めると財務担当者毎にレシピが異なるはずで、融資の奥深さを物語っております。
融資可能額の推定方法に関する説明は以上です。次回は転貸資金の融資について取り上げます。
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