前回は当座貸越について解説いたしました。今回はコンプライアンスチェックについて取り上げます。本連載の第23回でも触れましたが、株主・役職員・取引先に反社会的勢力や反市場勢力が含まれる場合、融資を受けることができません。継続的な融資を検討しているなら、IPOを目指していない場合においてもコンプライアンスチェックを実施することが望ましいです。コンプライアンスチェックの手段と範囲の定め方について情報を整理します。

コンプライアンスチェックの手段として、インターネットで公開されている記事を検索する、新聞社が提供しているデータベースで検索する、暴追センター(暴力追放運動推進センター)へ問い合わせをするといった方法が挙げられることが一般的です。経験が浅い財務担当者の心情として、本当に記事検索だけでよいのか不安になったり、いきなり暴追センターへ問い合わせするのは敷居が高いと感じたりすると思います。判断に迷う最大の原因は調査の予算に関する情報収集不足ですので、費用感を把握しましょう。

インターネット記事の検索は通信環境と人件費以外の追加費用は不要です。2024年時点で、新聞社のデータベースの月額利用料は4桁後半、民間企業が提供している独自作成の反社チェック用データベースの月額利用料はミニマムで5桁前半、暴追センターの年会費は1口5万円で口数は自由、調査員が実際に動く信用調査会社や興信所のサービスは1件の調査につき5桁から6桁は最低でも必要というイメージです。民間企業が独自作成する反社チェック用データベースは、シンプルにソフトウェアが収集したデータのみを提供するタイプや、調査員がソフトウェア収集した情報を補完するタイムなど、カバーしている範囲にバリエーションが存在しますので、利用者側のニーズに合ったサービスを選定することが肝要です。

仮に1顧客のコンプライアンスチェックで5万円が必要だとした場合、客単価100万円の商品・サービスを提供している企業にとっては費用負担が重く、予算が許容する範囲を超えているのではないでしょうか。客単価1億円の商品・サービスのケースでは、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に記載されている趣旨に沿うためにもしっかりとした調査が求められるはずです。費用が賄える範囲内で最大限の努力をすることがコンプライアンスチェックを実施していく上での基本スタンスになります。

コンプライアンスチェックの内容と範囲について考えるとき、予算以外に重要な検討事項があります。犯罪収益移転防止法(犯収法)の特定事業者に該当する場合、法律に基づく義務があるので注意が必要です。特定事業者は「金融機関等」「ファイナンスリース事業者」「クレジットカード事業者」「カジノ事業者」「宅地建物取引業者」「宝石・貴金属等取扱事業者」「郵便物受取サービス事業者、電話受付代行業者、電話転送サービス事業者」「弁護士又は弁護士法人」「司法書士又は司法書士法人」「行政書士又は行政書士法人」「公認会計士又は監査法人」「税理士又は税理士法人」と紹介されることが多いです。詳細は犯罪収益移転防止法第2条第2項に定められており、2024年時点では49種類指定されていて所管行政庁もそれぞれ異なります。詳しく知りたい方は警察庁Webサイト「犯罪収益移転防止法の解説、パブリックコメント」をご覧ください。

なお、融資申込の際に実質的支配者を確認する書類を金融機関へ提出しますが、当該書類は犯罪収益移転防止法施行規則第十一条(実質的支配者の確認方法等)に基づいて作成されています。

コンプライアンスチェックに関する説明は以上です。次回は融資可能額の推定方法について私見を述べます。

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