前回は2021年の資金調達環境について創業時のファイナンスをテーマに解説いたしました。今回は融資に積極的な金融機関の選び方について説明します。

融資商品の選択肢が多く、融資件数の実績が多い金融機関をリストアップすることで、融資に積極的な金融機関に出会う確率を高めることができます。融資商品の選択肢を増やすには、利用可能な制度融資のプラン数を最大化する方法と、多彩な融資商品を提供している金融機関を探す方法があります。金融機関毎の融資件数の実績値は、中小企業庁が公表しています。創業融資を例に、効率的に調べるための手順を4つのステップに分けて紹介いたします。

手順【1】本店が登記されている、もしくは、店舗を出店する予定の市区町村のWebサイトを検索し、制度融資を取り扱っている金融機関をリストアップする。

手順【2】中小企業庁のWebサイトを検索し、創業融資に積極的な金融機関をリストアップする。

手順【3】制度融資を取り扱っている金融機関のリストと創業融資に積極的な金融機関のリストを突合し、融資を申し込む金融機関を抽出して優先順位を決める。

手順【4】融資を申し込む候補としてピックアップした金融機関のWebサイトを、③で決めた優先順位に従って確認する。

手順【1】は、利用可能な制度融資のプラン数を最大化するための作業です。利子補給や信用保証料減免等の助成付きの融資である制度融資には大きく分けて3パターンあり、国が運営するもの、都道府県が運営するもの、市区町村が運営するものがあります。3層構造となっている制度を全て利用できるようにすれば、融資の選択肢数を最大化することができます。市区町村の制度融資は、口座開設している金融機関の支店が取扱金融機関として登録されていないと利用できません。故に、市区町村のWebサイトの調査から着手すると作業効率が高いです。

市区町村の制度融資の方が都道府県の制度融資よりも条件が有利なケースが過去に存在しました。新型コロナ対応融資においても、国の制度は3年間無利子のプランでしたが、東京都文京区では8年間無利子のプランが提供されていました。長い目で見たときに損をしないためにも、市区町村の制度融資の取扱金融機関の中から取引先を選ぶことをお薦めします。

[東京都文京区の例]中小企業向け融資あっせんのご案内」のページから「取扱金融機関」のページへと辿れば、金融機関名と支店名が記載されたリストを参照することができます。

手順【2】は、融資件数の実績が多い金融機関をリストアップするための作業です。有名な金融機関の融資件数が多いとは限りません。地域毎に、実績豊富な地方銀行・信用金庫・信用組合が存在します。客観的な尺度を用いて判断するために、中小企業庁のWebサイトの「保証実績の公表(信用保証協会別の金融機関別、信用保証協会別、金融機関別)」に掲載されている統計情報から、最新(ここでは令和3年度版)の「信用保証協会別の金融機関別保証実績」を入手します。

信用保証協会別という言葉は都道府県別と読み替えて構いません。当該pdfファイルの、融資を申し込む企業が本店所在地として登記している都道府県のページを参照します。但し、川崎市信用保証協会と横浜市信用保証協会が存在する神奈川県と、岐阜市信用保証協会が存在する岐阜県は例外となります。神奈川県の企業は本店が川崎市か横浜市にある場合に、岐阜県の企業は本店が岐阜市にある場合に、県と市と両方の信用保証協会の情報をチェックします。

東京都の情報は14ページ・15ページに記載されており、表中を「保証承諾」→「件数」→「うち、100%保証件数」→「うち、創業」の順に辿れば、金融機関毎の創業融資の件数を確認することができます。件数が多いほど、融資に積極的だと捉えることが可能です。

なお、デットファイナンスに詳しい関係者の間で話題になった株式会社INQ若林哲平氏の記事「【創業融資】に積極的な金融機関はどこ?創業融資ランキングやってみた」は、同カテゴリーの統計資料「金融機関別の保証実績」の数値をもとに集計されています。日本全国版の数字となっているので、併せて読んでいただければ、融資の実行状況についてより立体的に理解していただけると思います。

手順【3】は、数ある金融機関の中から融資を申し込む先を設定し、優先順位をつける作業です。融資を実行している金融機関は銀行・信用金庫・信用組合に範囲を限定してもおよそ400あるため、手順【1】で調べた制度融資の取扱金融機関のリストに手順【2】で調べた金融機関毎の融資の実績件数を付記して比較し、候補を絞ります。

手順【4】は、多彩な融資商品を提供している金融機関を探すための作業です。金融機関毎に独自の融資商品が用意されているケースがあり、最近では脱炭素への取り組みをサポートするプラン、特定の業界を対象としたプラン、急なニーズに対応するプラン(最短で翌日回答)もあるようです。手順【3】で選んだ金融機関のWebサイトにアクセスして自社にマッチする融資商品の有無を調べ、最終的にアポイントを取る順番を確定させます。

今回の記事では創業融資が得意な金融機関を探すために「信用保証協会別の金融機関別保証実績」の「うち、創業」の欄を確認しましたが、小規模事業に対する融資が得意な金融機関を探すためには「うち、小口」の欄を、売上高がある前提での赤字環境下での融資が得意な金融機関を探すためには「うち、セーフティネット等」の欄を、それぞれ参照します。

融資に積極的な金融機関の選び方の紹介は以上です。次回は、融資のコストを比較する方法について考えます。

→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら