前回は一般保証・セーフティネット保証・危機関連保証の使い分けと他の融資商品との組み合わせ方について私見を述べました。今回は融資を受けた後の社内情報整理について解説いたします。融資を受けるまでの資料作成に関する情報発信は多いですが、融資を受けた後に何をするのか、ノウハウをシェアしている専門家はまだまだ少ないように見受けられます。基本的には、資料が散逸しないように保管することと、将来を見通すための資料を作成することの2つがポイントです。我流ではございますが筆者の作業内容を紹介します。
資料の保管方法そのものについては、アナログでもデジタルでも構わないと思っています。担当者が作業をしやすくて安心できる方法を選択すれば良いでしょう。意識するべき点は、金融機関側が企業から提出された資料を全てファイリングして、担当者が交代・異動してもしっかり引き継いでいることです。後々の金融機関とのコミュニケーションにおいて、議論の前提を資料レベルでも合わせるために、印鑑証明・納税証明書・履歴事項全部証明書といった公的証明書のコピーを含め資料を束ねています。
筆者が経営者や財務担当者から融資の相談を受ける場面では、銀行取引約定書や金銭消費貸借契約書は手元にあるものの、返済予定表や信用保証決定の通知書がなかなか出てこないケースもありますので、データで受け取らない紙の資料は特に注意が必要です。資料がまとまってさえいれば、融資交渉の際にどのような心境だったのか後から思い出すための手掛かりになります。雑感を記したメモを添えることももちろん有効ですし、とにかくファイリングすることがコツです。
将来を見通すための資料として作成することをお薦めしているのは「統合版返済予定表」と「借入金一覧」の2つです。融資契約が1件だけの場合は金融機関から送付された返済予定表だけで事足りる場面も多いですが、融資契約が複数ある場合は契約条件を相互比較したり元金返済と利息支払のスケジュールや金額を正確に把握したりするために、資料を自ら作成しなければいけません。返済予定表のフォーマットは金融機関毎に少しずつ異なりますし、特に西暦・和暦が混在しているので、直感的に状況を理解できるように情報を整理する必要があります。
統合版返済予定表を作成するとき、縦軸方向に融資契約を並べ、横軸方向に年月を並べて、月毎に元金返済・支払利息・支払額合計・融資残高の数値を入力して合計値を求めるスタイルを筆者は好んでいます。経理面では融資を短期借入金・1年以内返済長期借入金・長期借入金に分解する助けになります。企業全体の融資に関する資金の出入り(キャッシュフロー)を把握することが可能になるので、将来の貸借対照表の姿をイメージしやすいです。統合版返済予定表は資金繰り表や予算を作成するための基礎資料になります。
借入金一覧は、社外とのコミュニケーションの観点では融資申込や融資実行後のモニタリングの際に金融機関へ提出する資料になりますし、社内においては次回以降の融資の改善点を検討するためのベースになります。縦軸方向に融資契約を並べ、横軸方向に金融機関名・融資実行日・金額・金利・融資期間・担保・保証・返済方法といった項目を並べて表にします。他の情報は必要性に応じてアレンジすれば良いですし、筆者も据置期間・利子補給・保証の料率区分といった情報を追加しています。
経営者や財務担当者には、次回の融資で金額を大きくしたい、金利を下げたい、期間を長くしたい、保証や担保を外したい等、様々な想いがあるはずです。期間を長くすれば金利が上がる傾向がありますし、保証を外す際も金利が上がる可能性が高いです。今後優先する融資の契約条件がどれなのか、譲る条件があるとしたら許容範囲がどこまでなのか、借入金一覧は考えを整理するときの手掛かりになります。統合版返済予定表と組み合わせて信用保証協会の枠はいくら空いているのか把握しつつ、次回も既存の取引先金融機関に相談するのか新規取引先を開拓するのか、プロパー融資に挑むのか否か、固定金利にするのか変動金利にするのか、長期にするか短期にするか、様々な判断をしていきます。定性的な情報も定量的な情報も俯瞰できる環境を整える作業のうちのひとつが、借入金一覧を作ることなのです。
自社向けの統合版支払予定表や借入金一覧のフォーマットについて考えるのが面倒である、バージョン管理が煩わしくなりそうで心配だという担当者には、専用のソフトウェアがお薦めです。例えば株式会社アイディーエスが提供しているCOURAGEUX(クラージュユーエックス)は、入力支援機能や会計システム連動機能が充実していて便利です。
融資を受けた後の社内情報整理に関する説明は以上です。次回はベンチャーキャピタルの投資検討と金融機関の融資審査との視点の差異について検討します。
→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら