前回は特定社債保証制度の適債基準について考察いたしました。今回は、筆者が2023年に読んだドキュメントの中から財務担当者向けの参考文献を紹介いたします。新刊以外も含まれております。
リスケの出口が見つかる! 資金繰りと銀行交渉のすべて
2013年1月発行。
版元のWebサイトには掲載されていないので国会図書館のリンクを引用しておりますが、同友館の企業経営に関する書籍は良著が多い印象を持っております。本書では実務で使う用語についてきちんと解説が添えられていますし、事業計画を作成する際のセルフチェックの手順も具体的で理解しやすいです。中小企業政策の主眼が資金繰り支援から事業再生支援へと軸足が移るなか、とても参考になる本です。
税理士必携 顧問先の銀行融資支援スキル 実装ハンドブック
2023年12月発行。
融資に関する論点が丁寧に構造化されており、事典のように使えます。数字を示した方が分かりやすい箇所はしっかり数字が紹介されていて、ストーリーが具体的なので、融資交渉の現場の機微が伝わってきます。タイトルに税理士必携と書かれていますが、専門家だけでなく企業の若手財務担当者のような初学者にもお薦めです。
わかりやすい プロジェクトファイナンスによる資金調達
2021年6月発行。
はしがきに記載がある通り「プロジェクトファイナンスによる資金調達のノウハウをコンパクトに解説した本」です。スポンサー&SPC側とレンダー側の双方の視点を紹介しているので、プロジェクト組成時の交渉の概要についてイメージしやすくなっています。資金の借り手の立場について書かれていることが非常に重要で、金融機関からの質問を事前に想像できますし、回答方針を作成するためのガイドブックとして利用できます。
発電プロジェクトの契約実務〔第2版〕
私自身は、プロジェクトファイナンスの契約書にどのようなコベナンツ(財務制限条項)が付くのか知るために購入しました。リスクを洗い出して対応策を考え、合意事項として契約書にまとめていくプロセスは、事業予算を立案する作業と表裏一体だと感じました。法務のジャンルの書籍ですが、財務担当者が費用項目を検討するときの抜け漏れを防ぐために有用です。
シンプル解説 オルタナティブ/サステナブルローン
2022年12月発行。2014年刊行の「シンプル解説オルタナティブローン」の改訂版です。 様々なデットファイナンスのスキームについて、スキーム構成者・リスクの所在・契約条件(期間、金利等)・締結する契約書の種類に関する情報をまとめて、特徴を分かりやすく説明している概説書です。各分野の専門的な内容について知りたいとき、本書に掲載されているキーワードを手掛かりに調べると、作業が捗ります。
ゼロゼロ世代の悩みを解決! 融資の基本と対応Q&A ~押さえておきたいゼロゼロ融資先への提案ノウハウ
バンクビジネス NO.1053 2023年6月号増刊。金融機関側から見たときの融資の審査と手続きの教科書です。2023年の私の記事は保証に焦点を当てて執筆しておりますが、現場での経験を基にして書いているので、未経験の事例はどうしても抜けてしまいます。網羅して解説するための視点を補っていただきました。第14回「信用保証協会の保証」と第15回「保証の最新動向」の補足説明(用語解説)として引用・転載します。
金融機関において融資にかかる保証契約(実務的には保証書を差し入れ)は、大きく分けて以下の3つに分けられます。
【1】法人保証:企業等の法人が関連会社・取引先・個人の債務保証を行う
【2】個人保証:個人が個人の借入や企業の借入に対し保証を行う
【3】機関保証:信用保証協会などが保証を行う
第5版 貸出稟議書の作り方と見方
2011年11月発行。
10年以上前の書籍ですが、貸出稟議書のフォーマットを知ることができる点が、企業の財務担当者からみて嬉しいポイントです。金融機関側からヒアリングを受ける内容を事前に予測した上で、資料の準備をすることができます。貸借対照表・損益計算書の勘定科目毎にチェックポイントが記載されている表も、活用範囲が広いです。
融資契約の法的性質と金融機関の融資義務についての一考察
東京大学法学政治学研究科専修コース(現在は廃止)の研究年報に掲載されている、2005年3月に発表された論文です。融資交渉過程におけるポイントを融資交渉開始・条件領域到達・融資合意・契約締結・融資実行の5段階に分けて、各フェーズにおける金融機関と借主のそれぞれの法的責任について検討しています。私は今まで融資交渉開始と条件領域到達をほぼ同一視していたので、分けて考える点が新鮮でした。
なお、契約の条件領域(ゾーン)の概念は、「言葉では表しにくいが、仮に最も単純化して表現すると、借主の信用状態からある程度の基本的条件は、x 軸を融資金額、y 軸を金利、z 軸を担保とする 3 次関数上において、球体(正確には「塊」)で存在する。この球体内のある1点が合意点である。ただ基本的な条件といっても実際は当事者により様々な条件が存在し、低次元の関数で表現することは不可能であるから、あくまでも一般概念として提示したまでである。」と説明されています。
参考文献の紹介は以上です。本年もデットファイナンスに関する記事をお読みいただきありがとうございました。次回は年明けに、一般保証・セーフティネット保証・危機関連保証の使い分けと他の融資商品との組み合わせ方について説明いたします。
→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら