不満を溜めながら継続雇用で働く60代

最近、私が営む会社への講演・研修依頼のなかで、「自社の40代後半から50代ミドル社員を対象に、今後の前向きな働き方や、モチベーション向上を促してほしい」との要望が増えている。拙著『50歳からの逆転キャリア戦略』『50歳からの幸せな独立戦略』『50歳からの人生が変わる痛快!「学び」戦略』(共にPHP研究所)三部作への期待と受け止めているが、改正・高年齢者雇用安定法の施行(2021年4月)で、企業に対し社員の65歳までの雇用確保義務に加え、70歳までの就業確保が努力義務化された影響が大きいだろう。

HR総研(ProFuture株式会社)の調査によると、現在、約4割の企業が役職定年制を導入しており、大企業では約6割に上るとのこと。65歳までの雇用確保については、7割の企業が60歳等定年後の継続雇用制度で対応。その約9割が「雇用形態の変更」や「給与の変更」を行っている。また、60歳以上の社員雇用の課題については、5割以上の企業が「高齢者のモチベーションの維持」を挙げ最多となっている(「多様な働き方の実施状況に関するアンケート」2020年4月)。

私たちが支援する企業の実態も同様だ。50代の役職定年で職位を失い、かつての後輩が上司となり、「長年滅私奉公で尽くしてきた会社から、仕事人生終盤にこの仕打ちか⁉」と愛憎相半ばで憤る例。60歳で契約社員に切り替わり、給与は大幅減額、仕事の目標も失い、すっかり意気消沈している例など……。シニアの不満と不安は高まる一方に感じられる。

役割を捻出し研修も実施する企業

では、この状況を経営者や人事など企業側はどうとらえているのだろうか。

多くの企業が社員の雇用を60歳定年まで守り、年功序列で処遇できるよう人事制度の設計・運用に努めてきた。それが、法改正で65歳まで、さらに70歳までと伸長されつつある。厳しい経営環境で給与原資も限られるなか、若手の採用や育成、生活保障、ポストの確保など組織の新陳代謝と世代交代とのジレンマに悩むようになってきたわけだ。

したがって高年齢社員の雇用確保延長は、正直なところ重荷。なんとかやりくりをして当初約束の年齢以上に雇用保障をしているのに、当事者からの不満の声は頭痛のタネ…。少なからぬ経営者や人事が、こうした思いでいるのが実状。また、各企業は法律の変遷の度に人事制度の継ぎはぎを余儀なくされ、一貫性が取り難いのも事実だ。

そこで、一定年齢で一律に処遇変更するのではなく、マネジメント力に長けた人には管理職を継続してもらう。専門技能に長けた人には、エキスパートとして特定分野で活躍してもらう。また、人材育成に定評があれば、教育担当やアドバイザーとして後輩指導を任せるなど、シニア社員の役割捻出を図る動きが出てきている。

50代社員に対する研修も、これまでは定年後の人生設計を考えてもらう内容だったものが、引き続き活躍するためのキャリアを考えるものに変わってきている。カウンセリングなども併用し、モチベーションを高めるための施策も増えつつあり、各企業が暗中模索の移行期にあるといえるだろう。

互いのために、仕事の価値の見直しと評価をシビアに

では、この状況をどう打開していけばよいのだろうか。

第一に、企業の経営・人事側に向けた提案。そもそも50代半ばや60歳で、いきなり役職を奪い役割転換を迫る人事は拙速に過ぎる。もっと早いタイミングからキャリア自律を促し、市場価値を意識できる環境を整えて、社員一人ひとりが40〜50代までにプロフェッショナルとして会社と対等な関係で仕事ができるように育てることだ。

これまでの日本企業に多かった年功序列賃金の下では、20〜30代の若い時の給与を低く抑えてきたぶんが、40〜50代で上乗せ支給され、さらには60歳定年時には退職金までついてきて、40年ほどかけてご和算になる設計だった。つまり、40〜50代になると、労働市場において自身の時価より高い給与額を支給されていたわけだ。

結果、自分の今の働きがどれだけの価値を生み出しているのかがわかりにくい構造だったともいえる。労使一体の終身雇用が成り立つ時代なら問題はなかったが、定年後も働く現代には機能しづらくなっている。育成期間を経て一人前になってからは、常にシビアな市場価値を感じながら働けるような人事の仕組みに改革すべきだろう。

第二に、働くミドル・シニア当事者側に向けた提案。本人たちには辛いことだが、現時点の自分の仕事の価値と評価はどれだけか、シビアに見定めることが必要だ。試しに転職サイトに登録し、どれだけの求人があるか、待遇はどの程度かなど、時価評価を知るのもよいだろう。

結果、給与減どころか転職先さえ見つからない厳しい現実に直面する人も多いはずだ。現実を直視できれば、いまの会社でたとえ給与は下がっても、社会に貢献できる役割がある幸せを実感できるだろう。

企業とシニア社員の双方に、仕事の価値の見直しと適切な評価・改善が求められている。