国家公務員の20代の自己都合退職は6年前の4倍
国の報告によると、自己都合理由で退職した20代の国家公務員総合職は2019年度には87人。6年前の21人から年々増加し、4倍を超えたとのこと(2020年11月、内閣人事局まとめ)。
また、国家公務員採用試験の総合職の申込者数は、ピーク時1996年度の4万5,254人に対し、2021年度は前年度比14.5%減の1万4310人と5年連続の減少で、記録が残る1985年度以降で最も少なくなっている。この状況は、当時の河野太郎・国家公務員制度担当大臣が、2020年11月に自身のブログに「危機に直面する霞が関」と題して公表し、話題を呼んだ。
公表内容をさらに見ると、30歳未満の国家公務員で「すでに辞める準備中」「一年以内に辞めたい」「三年程度のうちに辞めたい」のいずれかが、男性15%、女性10%。退職をしたい理由は、「もっと自己成長できる魅力的な仕事につきたいから」が男性49%、女性44%。「長時間労働等で仕事と家庭の両立が難しいから」が男性34%、女性47%。「収入が少ないから」が男性40%、女性28%。「今後キャリアアップできる展望がないから」が男性33%、女性23%となっている。
国家公務員総合職といえば、東大卒などの高学歴者が目指す超エリート職で、国の未来を背負って立つ羨望の職業だったはず。それが、優秀な若手世代から見放されつつあるのだ。国家公務員の退職希望理由が、自己成長やキャリアアップの展望がないとする現状は驚きであると同時に、国家的な危機と感じざるを得ない。
銀行を退職する若者の本音
実はこうした若者の意識変化は、民間企業でも起こっている。例えば、高待遇で安定した就職先の代名詞でもあった銀行でも、近年、若手行員の早期離職が目立っているのだ。
その理由を管理職層に尋ねると、「最近の若手はストレス耐性が弱すぎる。上司にちょっと叱られるとすぐ辞めてしまう」「給料を貰う立場なのに、きちんと組織人の義務を果たさず困る」といった嘆きの声が聴かれる。
私の営む会社では多数の銀行でも人材育成支援をしているため、真因を探るため若手転職者にインタビューを行った。すると、その実像は大きく違っていたのだ。生の声をいくつか紹介しよう。
「資金繰りに苦しむ企業に融資できず、金余りで困ってもいない企業に無理やり融資をお願い営業する毎日。自分は何のために働いているのかわからなくなった」
「地元に貢献したくて地方銀行に就職した。なのに、クレジットや投資信託など、大好きな祖父母に必要のない商品を売り込みばかりさせられる状況に嫌気がさした」
「金融サービスの枠を越えて顧客のために働きたくなり、コンサルティング会社に転職を決めた。人事からの引き留めは『30代でも支店長に昇進できる人事制度を検討中だから、もう少し我慢しろ』。顧客支援より行内出世しか眼中にない体質に、さらにがっかり」
いかがだろうか。私は、若手行員の考え方のほうが健全で、古い常識で管理しようとする組織側が、有望な人材に見限られているように思えてならない。組織の経営理念は何か。仕事の真の目的とは何なのか。なぜ、それが現場のマネジメントに徹底されていないのか。強い危機感を覚えるばかりだ。
面従腹背を強いる上意下達の日本型組織はもう持たない
私は、長らく企業や団体の人材育成に関わるなかで、経営層や管理職の意識や実態に触れてきた。また並行して大学教育にも携わり、これから社会に出る学生たちにも接し続けている。さらに、若手社会人となった教え子たちの相談にも乗っている。そこで感じるのは、現代の若者が持つ社会や他者への貢献意識に、組織側が追いつけていない現実だ。
今の管理職層の人たちは、組織や上司への不満や違和感があっても、面従腹背で何とか乗り切ってきたかもしれない。ただ、それは事業や商品・サービスが顧客の問題を解決し、組織として社会に貢献出来ていることが前提だ。コロナ禍もあり、時代は大きく変わってきている。もはや優秀な若者たちに一方的な組織の論理を強いることは本人のためにならず、組織のためにもならないのだ。
組織の存在目的は、収益でも組織存続でもなく、社会貢献だ。収益は、顧客に支持され、社会に貢献してはじめて生み出せるもの。これを軽視した日本型組織の上意下達のマネジメントは、もう持ちこたえられない。若者の公務員・大企業離れは、日本型組織の行き詰まりへの強い警鐘ではないだろうか。
では、どう考えるべきか。これまで日本型組織は、若者を順応させようとしてきた。しかし、これからは若者の問題意識や力を上手く活かすことで、組織や上司の側が自身の古い殻を破り、より善い未来への変革につなげていくべきではないだろうか。
もちろん、社会人経験が少ないことでの思考や行動が未熟な面はあるだろう。そこは上司や先輩がフォローし育てていこう。ベテランの経験値と若者の先見性の相乗効果が、社会に漂う閉塞感をも打ち破る鍵となるはずだ。