日産自動車が12月23日に発売する新型「ノート」はパワートレインが「e-POWER」のみとなる。ライバルのトヨタ自動車「ヤリス」やホンダ「フィット」はハイブリッド(HV)とガソリンエンジン車をそろえるが、なぜ日産はe-POWERに一本化したのか。開発責任者に聞いてみた。
得意分野に最適化したクルマ作り
e-POEWRは日産独自のハイブリッドシステムだ。ガソリンエンジンで発電し、その電力でモーターを回して走行するという仕組みなので、ガソリンを給油するところは普通のクルマと変わらないのだが、電気自動車(EV)のような走りを味わえるのが特徴となっている。e-POWERを2016年に初採用したのは現行型「ノート」で、その後はミニバンの「セレナ」、SUVの「キックス」と搭載モデルが拡大していった。
日産が得意の電動化技術で新型ノートを魅力的なクルマにしたいのは分かる。今度のe-POWERはインバーター、モーター、バッテリーといった構成部品のほとんどを刷新した「第2世代」で、その性能と制御がレベルアップしていることも間違いない。ただ、e-POWER(つまりはHV)のみの新型ノートの価格は202.95万円~218.68万円となっていて、ガソリンエンジンを搭載するエントリーモデルをラインアップするヤリスやフィットと比べると、最低価格が高い印象となる。これでは、競合との戦いにおいて不利なのではないだろうか。
なぜe-POWERに一本化したのか。これまでの取材で日産からは、「(ゼロエミッション社会を目指し、いち早く電動化に集中していきたいと考える日産の)象徴」(星野朝子副社長)、「現行型ノートでは販売の約7割がe-POWERだった」(日産の広報)、「HVとガソリンの2つとも作り続けるとなると、どうしてもコストがかかる」(広報)などの話を聞いた。このうちのどれが真実に近いのか。新型ノートの事前試乗会で日産 第1製品開発部 チーフビークルエンジニアの渡邊明規雄さんにお会いできたので聞いてみると、「どれも多分、本当ですね(笑)」との反応。詳しくは以下の通りだ。
「まず、事実として、現行型ノートの販売は約7割がe-POWERです。これは競合モデルも同じで、日本では、圧倒的にHVが選ばれているという事情があります。では、残りの3割は捨てたのかと聞かれると、ここにはいろいろな議論がありましたので、答えは1つではありません。ただ、(競合モデルと)HVのゾーンでベストな戦いをしようとすると、どうしても、クルマの作りとして、こっち側(廉価なガソリンエンジン搭載モデル)は厳しくなってしまいます。逆に、ガソリンをベストに作ると、HVをベストで作れなくなってしまうんです」
つまり、同じクルマでHVもガソリンも100点で作るのは難しいし、その分のコストもかかる。HVを100点で作ってガソリンを80点で作るという方法では、ガソリンの方が競合モデルとの厳しい戦いを強いられてしまうし、逆もまたしかりということのようだ。なので日産としては、「主戦場(つまりはHV市場)で、ベストなソリューションを出して戦いますという結論を出した」(渡邊さん)のだという。
現行型ノートではe-POWERが7割ということだが、残りの3割は法人向けであったり、レンタカーに展開する車両であったりすることが多いそう。こういった車両は非常に厳しい価格競争にさらされることになるし、無理に安く売れば収益構造もつらくなってくる。それであればいっそのこと、新型ノートは得意とするe-POWERのみのラインアップにして、e-POWERに最適化したクルマとして作って、競合と勝負しよう。そんな風に日産は考えたようだ。
あとは第2世代e-POWERがどんな評価を受けるかの問題だが、実際に乗った印象としては静かだったし、ワンペダル感覚の走行はスムーズで好印象だった。ちょっと性能を見ておくと、フロントモーターの性能は最高出力116馬力(85kW、現行型から5kWアップ)、最大トルク280Nm(同26Nmアップ)、燃費(WLTCモード)は最も良好な「F」グレードで29.5km/Lとなっている。デザインや価格を含めて総合的に考えれば、結構いい感じに仕上がっているのではないかというのが率直な感想だ。