待望の新型がデビューした日産自動車のコンパクトカー「ノート」。全面刷新のノートで日産は、トヨタ自動車「ヤリス」やホンダ「フィット」らの登場で活気づく小型車市場に改めて参戦する。武器とするのは独自のハイブリッド(HV)システム「e-POWER」だ。今回のフルモデルチェンジで、ノートの心臓部はどう進化したのか。

  • 日産の新型「ノート」

    フルモデルチェンジした日産の新型「ノート」。心臓部の「e-POWER」は大幅な進化を遂げている

「e-POWER」の構造とは

新型ノートは、従来型ではガソリンエンジンとe-POWERの2本立てだったパワートレインを自慢の「第2世代e-POWER」に一本化した。新しいe-POWERに見るべき点はたくさんあるが、その説明に入る前に、まずは第1世代e-POWERを振り返っておきたい。

日産は電気自動車(EV)「リーフ」の知見や技術を活用し、ハイブリッドカーの心臓部としてe-POWERを開発した。e-POWER搭載モデルの第1弾となったのは、先代のノートだった。その人気と活躍は皆さんもご存じの通り。e-POWER導入後の先代ノートは、2018年に日本で最も売れた登録車となった。

  • 日産の2代目「ノート」

    日産が初代「ノート」を発売したのは2005年で、今度の新型は3代目となる。写真の2代目「ノート」は2012年に登場。2016年にはe-POWER搭載車が追加となった

e-POWERを構成するものは、大きく分けて3つある。走行のための電気モーター、発電用のエンジン、充電および給電のためのリチウムイオン電池だ。電気の力で走るが、充電機能はガソリンエンジンが担うので、分類はハイブリッドカーとなる。ただ、エンジンは発電のみに従事し、走りは完全にモーターが担うので、走行感覚はEVに近い。「充電不要の(ただし、ガソリンの給油は必要な)EV」といった感じのクルマなのだ。

新型ノートでもe-POWERの基本的な構成は変わらないが、日産は第2世代の開発にあたり、さらなる効率化と走りの進化に重点を置いたという。

  • 日産の新型「ノート」

    新型「ノート」のボンネットを開けると、第2世代の「e-POWER」が姿を現した

何が変わったのか

ここからは、具体的な改良ポイントを見ていきたい。

まず、パワーユニットはより小さく、そして軽くなった。第1世代のモーターは、リーフからの応用品であったためオーバースペックでサイズも大きかったのだが、第2世代ではモーターをe-POWERに最適な性能とサイズにするため、設計を刷新。モーターと一体化されたインバーターは、40%の小型化と33%の軽量化を実現している。

モーターは小型化したものの、e-POWERの力はむしろ増している。トルクは第1世代に比べ10%以上も向上。発電用のエンジンは、排気量(1.2L)とエンジン形式こそ前型と同様だが、改良を加えることで出力と燃費を向上した。

  • 日産の新型「ノート」

    モーターのスペックは最高出力が7psアップの116ps、最大トルクが26Nmアップの280Nmに向上

最適化と軽量化の効果により、e-POWERの重量は12キロも軽くなっている。こうした努力はコスト面のスリム化にもつながっているようだ。リチウムイオン電池については、e-POWERの効率が高くなったことを踏まえて従来型と同じものを採用した。走行性能では第1世代を超えることができているので、コストアップを抑えるべくキャリーオーバーを選択したのだろう。

  • 日産の新型「ノート」

    「e-POWER」の進化により新型「ノート」では燃費効率が向上。エントリーグレード「F」をJC08モードで比較すると、従来型比+4.2km/Lの38.2km/Lに伸びている。その他のグレードでも、0.8km/Lアップの34.8km/Lと着実に燃費が良くなった。実走行に近いとされるWLTCモードでも、「F」は29.5km/L、その他のグレードは28.4km/Lと良好な数値だ

もちろん、数字には表れない魅力にも磨きがかかっている。

e-POWERは、エンジンの存在感をできるだけ消すことでEV感覚を強めるシステムだが、第2世代は初代に比べ、エンジンの作動頻度(エンジンのかかる回数)が少なく仕上がっているという。その秘密は、第1世代e-POWER搭載車の第3弾となったSUV「キックス」から導入した新たな制御を、さらに進化させたことにある。

具体的には、発電のためにエンジンを回す場面を適切に選ぶ制御に磨きをかけた。低速域ではできる限り発電を行わず、走行音でエンジンの作動音が分かりにくくなる中速域(時速50キロ)以上で集中的にエンジンを回す制御となっているのだ。

もともと、e-POWERでは、発電効率の高いエンジン回転数(低め)を使っていたのだが、やはり、エンジン再始動時の音や振動はドライバーに伝わり、その存在を意識させてしまう。そこで、日産は第1世代e-POWERの運転データを研究し、バッテリーの電気でカバーできるシーンを見極め、こまめな充電をやめたわけだ。

新型ノートはエンジンの存在感を低下させるため、頭も使っている。路面の状況をタイヤの振動で判断し、ロードノイズが大きくなる(エンジン音が打ち消される)場面では積極的に発電する一方、路面がきれいで静かに走れそうな道路では発電を抑制するという仕組みとしているのだ。もちろん、車両側では遮音材を最適化したり、厚めのフロントガラスを採用したりするなどして、エンジンルームからの音の侵入を抑える対策も行っている。

  • 日産の新型「ノート」

    新型「ノート」はタイヤで路面状況を把握し、発電すべきかどうかタイミングを見極めている

これらの工夫により、エンジンの働く量は基本的に変わらなくても、新型ノートでは、その頑張りが従来型よりも目立たなくなっている。逆に加速時は、従来型と異なり、よりエンジンを高回転まで回すようにし、加速とエンジン音を協調させることで、伸びやかな加速感を得られるように配慮した。メリハリを利かせることで、エンジンの存在をあえて感じさせる場面でも、違和感が少なくなるようにとの工夫だ。

e-POWERのポイントは、絶妙なバランスを狙うことで、現実的な価格を実現していることにある。発電時間を減らしたいならバッテリーを大きくするのが近道だが、それではコストアップと重量増につながってしまう。日産はe-POWERを必要十分な性能に抑えることで、価格の抑制を図った。

それでいて、性能としては、コンパクトカーとは思えない力強さと静粛性を獲得しているのがe-POWERの特徴でもある。日常の走行シーンはもちろん、峠道を元気に走るなど、電力をどんどん使うバッテリーには厳しい場面でも、必要十分な性能が得られるギリギリのところを狙っているのだ。

  • 日産の新型「ノート」

    絶妙なバランスの上に成り立つ第2世代「e-POWER」は、新型「ノート」の大きな魅力だ

システムはスリム化したが、制御や性能の進化により走りの気持ちよさは増していると開発者が自信を見せる第2世代e-POWER。その進化に最も大きな衝撃を受けるのは、現行のe-POWERユーザーなのではないだろうか。ガソリンエンジン搭載車が廃止となったのでノートのエントリー価格は上昇しているが、その分の満足度は十分にあるというから楽しみだ。