水素を燃料とし、電気で走るトヨタ自動車の燃料電池自動車(FCV)「ミライ」(MIRAI)がフルモデルチェンジした。目の前に現れたのは、先代とは全く異なるキャラクターの新型車。見るからに“高級”セダンといったカタチだが、肝心の走りはどうなのか。富士スピードウェイで試乗した。
高級セダンと呼ぶにふさわしい?
新型ミライの生い立ちについては「特集」として見てきた通り。「トヨタが作る未来のクルマ? 新型ミライとは」と題し、解説した。先代のFFミッドサイズからの“キャラ変”に隠されたヒドゥンストーリーには驚かされることばかりである。
では、そんな新型ミライを実際に走らせるとどうなのか。今回はその視点で話を進めよう。
ステアリングを握ったのは2台で、グレードでいうと「Z」と「G エグゼクティブパッケージ」だ。それらを富士スピードウェイのショートサーキットで走らせた。発売前の未登録車両ということでのクローズド試乗だが、わざわざサーキットに持ち込んだのはスポーティーな走りを目指した開発陣の意図によるところかもしれない。
この2つのグレードは、基本的に装備違いと考えていい。なんたってミライのパワートレーンは1種類なのだから、詮索は不要だ。目につく違いはタイヤサイズの大きさ。前者が245/45R20、後者が235/55R19を標準装備する。17インチはもとより、18インチも用意されていない。
ここには面白いストーリーが隠されている。というのも、なるべく大きなホイールでなるべく大きな外径のタイヤがミライには必要だったのだ。理由は、水素タンクをできるだけ低く積むため。そのスペースを確保するのに、ホイールセンターから地面までの距離を稼ぐ必要があったのである。よって、19インチにダウンサイズしたタイヤは扁平率を45から55に変えていて、50にはしていない。もし50にしたなら、245/45R20よりも外径が小さくなってしまうからだ。
そして、それは結果的に高級路線を目指すミライにマッチすることになる。世界的に高級セダンは「スポーティー」がトレンドとなっているが、それには大径のロープロファイルタイヤが必須となる。いやはや、おもしろいほどさまざまな項目が高級セダンというひとつのベクトルに向かっている。
では走った印象だが、一言でいうならとにかく速い。スタート、中間加速、フルブレーキングからの速度回復と、全ての場面でモーターの力がグイッとクルマを前へ押し出す。トルクの立ち上がりは瞬間的で、容赦がない。もちろん、パーシャルなアクセル操作にはきちんと対応するのだが、今回はサーキットということもあり、それを強く感じた。特に、ドライブモードを「スポーツ」にすると極端にそうなる。この辺の動作は、大排気量ガソリンターボに近いだろう。そのおかげで走行中、2トン近い車両重量をネガティブに感じることはなかった。
ただ、個人的には、「スポーツ」モードがこれだけ攻撃的なのであれば、「ノーマル」モードはもっと緩やかなトルク曲線としてあってもいい気がする。確かに、アクセルに対しての踏みしろはあるのだが、踏みしろよりトルク曲線で味付けすると、さらに高級車らしくなるのではないだろうか。
次にコーナリングだが、ここではステアリング操作に対し、キレイに反応して回ってくれるのがいい。ボディ剛性が高いことはもちろん、お金のかかった前後マルチリンクというサスペンションが慣性モーメントをうまくいなしてくれているようだ。ただ、今回はウェット路面だったので、電子デバイスも早めに効く傾向が強かった。旋回中、アンダーステアを予想して内側のタイヤにブレーキをかけるなどの操作が自動で行われていた。
乗り心地については、実はちょっと硬いのではないかと思う。ショートサーキットでは20インチのスタビリティを楽しんだが、一般道ではどうなのか疑問は残った。フロントシートはいいとして、リアシートは一般道でリアルに体験してみないとなんともいえない。
音にも触れておこう。当然、電気自動車(EV)のように静かに走るミライなのだが、「スポーツ」モードでは、人工のスポーティーなサウンドをキャビンに響かせる機能が使える。ただ、これはなくてもいいと思う。スイッチをオフにすれば切ることもできるが、少し子供っぽい。BMW「i8」にもこれと同じようにサウンドを脚色する装備があるが、あまり話題になっていないところからすると、マーケットの反応も薄いのかと。あくまでもギミックと割り切って、もっといろいろな音が選べるくらいのユーモアがあれば別だが、高級セダンに必要なのかどうかは考えどころだ。
なんて感じのファーストインプレッションだが、このクルマの良さはやはり、一般道で分かるだろう。特に、ロングドライブに連れ出せば、水素燃料の使い勝手とともに検証できるはずだ。東京から神戸くらいまでは往復したい。いや、神戸まで行ったら淡路島、徳島まで渡りたいところである。それはともかく、個人的にはスタイリングからしてかなり気に入った。次回のテストドライブが待ち遠しい限りである。