排気ガスを発生させるクルマは、大気汚染という観点から見ると悪者にされがちだが、トヨタ自動車が12月に発売予定の新型「MIRAI」(ミライ)は、走れば走るほど空気が綺麗になるとの触れ込みだ。いったい、どんな機能を搭載しているのだろうか。
吸い込んだ空気を綺麗にして吐き出す
ミライは水素を燃料として走行する燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)だ。初代の発売は2014年末で、今回の新型が2代目となる。
水素は水を電気分解するなどの方法で取り出せる。その水素をガソリンを給油する要領でタンクに充填しておけば、FCVを走らせることができる。仕組みとしては、水素と酸素を反応させることで発電し、作った電気でモーターを回して走る感じだ。酸素と水素の反応で発生するのは水だけで、CO2は生み出さない。その原理については、下の式をご覧いただきたい。
「H2+1/2O2→H2O」(Oはアルファベットのオーです)
というわけで、トヨタのミライは、発電のために空気を吸い込みながら走る乗り物だ。その空気を、吸い込んだ時よりも綺麗にして排出するための「空気清浄機能」を、新型ミライは搭載している。
具体的には、車両の前後に装着する「フィルター」で空気清浄を行う。装着するのはケミカルフィルターとダストフィルターの2種類。「ケミカル」で有害な化学物質を除去し、「ダスト」でほこりとPM2.5レベルの細かい粒子を吸着する。
ミライに乗る人は、自分がどれだけ空気を綺麗にしたかを「エアピュリフィケーションゲージ」というメーターで確認できる。12.3インチのセンターディスプレイに表示されるメーターで、グラフィックはこんな感じだ。
0から5まである目盛りは、走行1分間あたりで清浄化できる空気の量を表す。針はアクセルの開度で変動し、強く踏めば数値は上がる。例えば、目盛りが1を差した状態であれば、1分間の走行で1,000Lの空気を綺麗にできる、という指標である。
クルマの後ろを追走するランナーは、これまでに綺麗にした空気が累積でどのくらいになったかを示す。ランナー1人は、1日に人間1人が吸う空気の量を表している。走れば走るほどランナーは増えていき、10人溜まると繰り上がるという仕組みだ。
新型ミライの試乗会で話を聞いたトヨタの説明員によると、燃料電池は空気を用いて発電するため、その効率を落とさないためにもきれいな空気を取り入れる必要があったそうなのだが、環境に貢献したいとの思いもあり、空気清浄機能を取り付けたのだという。普通のクルマだと、排気ガスが気になってアクセルを思い通りに踏み込めないというドライバーもいるそうだが、「ミライについては、たくさん踏むと燃費こそ落ちますが、そのぶん空気が綺麗になるので、遠慮なく踏んでいただければ」とのことだ。
電気自動車(EV)は走行中にCO2などを排出しない「ゼロエミッション」(エミッション=排出)が特徴だが、新型ミライはゼロを通り越し、「マイナスエミッション」を実現するクルマだ。まずは日、米、欧で発売するとのことだが、大気汚染のニュースを目にすることが多い中国でも、将来的には新型ミライを発売する予定だという。