トヨタ自動車が大胆な刷新を図った新型「カローラ」の滑り出しが好調だ。9月17日の発売から1カ月間の受注台数は、「カローラ」(セダン)と「カローラ ツーリング」(ワゴン)の合計で約1万9,000台。同時に、一部改良を受けたハッチバックの「カローラ スポーツ」も3,000台を受注しており、シリーズ全体では約2万2,000台に達した。この結果、2019年10月の月間登録台数では、日産自動車「ノート」やトヨタ「プリウス」といったランキング上位の常連を押しのけ、晴れて1位を記録。カローラのイメチェンは、ユーザーから好意的に受け止められているようだ。
その新型カローラシリーズとは、どんなクルマなのか。開発者たちに話を聞いた。
新型「カローラ」は日本にジャストなクルマ?
初代カローラの誕生は1966年と古い。日本人のカーライフに深く関わってきた大衆車だ。それだけに、スタンダードモデルとして今なお、、多くのユーザーに愛用されている。その一方で、近年ではユーザーの高齢化も課題となっていた。
そこでトヨタは、最新世代のカローラでユーザー、そしてモデルの若返りを掲げ全面刷新を図り、このクルマを生まれ変わらせた。ラインアップはセダンの「カローラ」、ワゴンの「ツーリング」、そして、2018年6月に発売となったハッチバックの「スポーツ」の3タイプを設定している。パワートレインは、セダンとツーリングが1.8Lエンジン(CVT)、1.2Lターボ(6MT)、1.8Lハイブリッドの3タイプ。スポーツが1.2Lターボ(6MT&CVT)と1.8Lハイブリッドの2タイプで、シリーズの全てがガソリン車となる。全モデルが3ナンバー車となったことも大きなトピックだ。
世界150以上の国や地域で販売されるカローラだけに、これまでは販売地域に合わせた開発が行われ、同じカローラでも仕様が異なっていた。例えば先代モデルには、大きく分けて、基本構造の異なる3タイプのカローラが存在していた。
しかし新型は、TNGA開発による新プラットフォームを採用し、シリーズで基本構造を共有することになった。3ナンバー化もその影響のひとつといえる。これまで、日本の代表的な大衆車として5ナンバーの扱いやすいサイズを維持するなど、日本にジャストな存在を目指してきたカローラ。世界共通仕様となった新型では、どのように日本のニーズに対応しているのだろうか。
新型も日本専用にカスタマイズ!
トヨタはカローラの世界共通化を決断したのだが、実は、しっかりと日本専用のカスタマイズも施している。象徴的なのが、そのボディサイズだ。セダンの場合は全長4,495mm、全幅1,735mm、全高1,435mmだが、海外仕様と比べ全長で135mm、全幅で45mm小型化しているのだ。開発者によれば、「国内の道路事情に加え、既存ユーザーに違和感なく乗り継いでもらうためには、海外仕様だと少し大きい。そこで、専用仕様とした」という。
この小型化を可能としたのが、「カローラ スポーツ」用のホイールベースだ。新プラットフォームには、基本設計こそ同じだが、ホイールベースが異なる2種類が存在する。日本仕様のカローラは全て、海外のセダン・ツーリング用に比べ、60mmコンパクトなカローラ スポーツ用のプラットフォームを採用している。確かにホイールベースが海外仕様より短いとはいえ、先代モデルと比較すれば40mm長い。肝心な走りについていえば、スポーティーさや運転しやすさなど、走りを重視した味付けである点は、世界共通のようだ。
フォルクスワーゲン「ゴルフ」がライバル!?
近年、走りの良さや乗り心地についても力を入れて開発しているトヨタだが、新型カローラではフォルクスワーゲン「ゴルフ」をベンチマークにしているという。ゴルフといえば、世界の大衆車が手本とする欧州の定番モデルだ。日本だとカローラよりもずっと高価なイメージだが、海外、特に欧州では、装備や仕様により、直接的なライバル関係にある。
先代の欧州向けカローラでは、残念ながらゴルフに劣る部分があったと認めるトヨタの開発者だが、新型は、乗り心地や操縦安定性などの面でゴルフと遜色ないレベルに仕上がっているとの認識を示す。走りの進化を支えているのが新プラットフォームだ。その一例として、ボディのねじり剛性は先代比で約60%向上。これにより、ゴルフとの真っ向勝負も可能となったのだ。
カローラシリーズ内でのキャラクター分けとしては、ハッチバックの「スポーツ」が最もスポーティーで、それに次ぐのがワゴンの「ツーリング」であり、セダンは最も乗り心地の良い設定にしてあるという。
新しいものを積極的に取り入れるのも伝統
新型カローラは、トヨタ初のディスプレイオーディオを全車で標準装備している。スマートフォンとの連携を強め、標準搭載の「スマートデバイスリンク」(SDL)により、種類こそ限定されるが「LINEカーナビ」などのアプリを車載モニターで利用することができる。もちろん、オプションで「Apple CarPlay」や「Android Auto」に対応できたり、カーナビユニットを増設できたりする発展性も備える。車載通信機も標準搭載しており、5年間はコネクテッド機能を無料で利用できる。
いまだに多くのトヨタ車がオーディオ機能さえオプションとしている中、大衆車のカローラが初めてディスプレイオーディオを標準装備とすることに疑問を感じたが、この背景には、新しい装備や今後の広がりが見込まれる機能を積極的に取り入れることで、普及の足掛かりとしてきたカローラの伝統がある。ディスプレイオーディオの標準化は今後、トヨタ車の中で急速に広まりそうだ。
カッコよさ重視!
やはりカローラといえば、セダンのイメージが強い。しかし、日本のセダン市場が冷え込んでいるのも事実だ。そこで新型は、冷え込む市場の中で、実用的なセダンを作るよりもカッコいいセダンを目指すことで、新しい顧客に関心を持って欲しいという思いを込めて開発したという。
その中で大きく変化したのが、ドライバーのシートポジションだ。従来型のように車内の容積を優先するのではなく、ドライバー優先とすることで、運転が楽しめるドライバーズカーへと発展させたのだ。このため、従来よりもドライバーの位置は後方に下がり、後席スペースに影響が出ている。実際、後席ドアが小さくなり、乗降性は先代に劣る。ただ、この選択は、後席の乗車機会が減り、前席だけの利用が増えた日本のセダン事情も反映している。もちろんトヨタは、後席の乗降性については十分に検証しており、問題ないとしている。カッコいいクルマを目指したのはワゴンも同様で、ツーリングは従来型の実用的なバンスタイルではなく、スタイリッシュにまとまった外観をまとっている。
伝統の実用性を犠牲にしてまでカローラがイメチェンを図るのは、若いユーザーを取り込むためだ。特に、カローラのイメージを牽引してきたセダンを大きく刷新することで、若いユーザーにアピールしたいというのがトヨタの考えである。40代以上の人にとってカローラ、特にセダンは、大衆車というイメージが強い。一方、20~30代のユーザーは、カローラに対する認知度が低いだけでなく、セダンが古臭いという固定概念も持っていない。そこを逆手にとったというわけだ。
時代がミニバンからSUVへとシフトしていく今、少数派のセダンを新しい存在としてアピールするトヨタ。ただ、カローラの開発者は、「幅広い人にカローラを使ってほしいという思いに変化はない。ただ、一緒に歩んできた年配の顧客を優先し、視界や乗降性の良さを重視したクルマ作りをしてきたが、若い人にも関心を持ってもらえるように、少し軌道修正した。そこが、大きく変わったと思ってもらえる理由だろう」とし、イメチェンを図りながらも、カローラの伝統をしっかりと守り続けている点を強調していた。
イメージを刷新するスポーティーかつ上質な乗り心地
実際、試乗してみた新型カローラは、従来の大人しいイメージを払しょくしてくれる元気な走りと快適な乗り心地を両立していた。「スポーティーセダン」や「スポーティーワゴン」と呼んでいいと思うほどだ。エンジンも1.8Lを基本としただけあって、パワフルになった。キャラクター分けの通り、セダンが最も乗り心地が良かった。もちろん、ただ足を柔らかくしただけだと、走行中の乗員の揺さぶりが大きくなるが、そんなこともなく、快適だった。もっとも、スポーツやツーリングも、単に固い足回りにしてあるわけではない。快適性とのバランスもしっかりと取っている。
確かに新型カローラは、世界共通化により、ボディがサイズアップしている。しかし、セダンとツーリングの日本仕様は、海外仕様よりもしっかりとシェイプアップされている。そして何より、フォルクスワーゲンのゴルフとも競える実力を獲得できていることを歓迎したい。ただ、サイズや実用性を重視するというカローラユーザーも存在する。そこでトヨタは、従来型セダンの「アクシオ」と従来型ワゴンの「フィールダー」も、グレードを絞り併売することにしている。そのあたりも抜かりはないのだ。
基本性能が上がったカローラは、スポーツモデル「GR」シリーズの登場も期待できる。かつてカローラには、「GT」などのスポーツモデルが必ずといっていいほど設定されてきた。その伝統の復活も期待していいだろう。その実現は、若者よりも往年のカローラユーザーを歓喜させるかもしれない。