ほとんどの自動車メーカーが今、ユーザーの若返りを図りたいと試行錯誤を繰り返している。中でも、トヨタ自動車の「カローラ」という車種において、その願いは切実だ。トヨタが「TNGA」を用いて開発した新型「カローラ」は、若年層にアピールできるのだろうか。
平均年齢70代!? 「カローラ」の苦悩
「プラス100ccの余裕」をキャッチコピーとして1966年にデビューしたトヨタ自動車の初代「カローラ」。その半年前に販売が始まったライバルの日産自動車「サニー」(初代、1,000cc)よりも「プラス100cc」大きなエンジンと豪華装備が評判となり、たちまちベストセラーカーの座へと上り詰めた。サニーも黙っておらず、次期モデルでは1,200ccエンジンを搭載して「隣のクルマが小さく見えます」とやり返したが、すぐ後に登場した2代目カローラは、1.4リッターや1.6リッターのエンジンを搭載していた。
こうした対決の図式は、当時のメーカーとユーザーの双方が持つ上昇志向の現れだった。それは同時に、マイカー所有者が一気に増加した時代でもあった。カローラとサニーの初代が火花を散らしたこの年は、「大衆車元年」と呼ばれる。
それから半世紀。サニーが2006年に販売を終了した一方で、カローラの生産は続き、現在では世界150カ国の国と地域で、販売累計台数4,750万台を超えるロングセラーカーとなっている。
セダンとワゴン、それぞれの印象は
今回試乗したのは、12代目となる最新の「カローラ」(セダン)と「カローラ ツーリング」(ワゴン)だ。新型カローラの発表会では、ユーザーの平均年齢がセダンは70歳代、ワゴンは60歳代という“衝撃”の事実に会場がどよめいたが、今回の新型はプラットフォームに「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を採用し、ユーザーの若返りという自動車業界最大の課題に果敢に挑戦するモデルになったという。新型カローラに試乗して、その出来栄えを確かめてみた。
最初に乗ったのは、ワゴンタイプの「カローラ ツーリング HYBRID W×B」。ホワイトパールクリスタルシャインのボディに、グレーメタリックの大径17インチアルミホイールと215/45タイヤを装着したモデルだ。サイドから見たエクステリアは最低地上高が低く見え、伸びやかでスポーティーな印象。リアハッチを開けると床面が低く、リアシートを倒すと上下左右に凹凸のない広大なスペースが出現するので、アウトドアやスポーツ、ロングドライブなど、さまざまなシチュエーションに対応できそうだ。
搭載する「THSⅡハイブリッドシステム」は、いつものようにモーターによる静かな走り出しを見せてくれた。通常の速度域で使用している限り、とても滑らかで快適な走りを味わえる。1.5リッターから1.8リッターに排気量が増えたエンジンのおかげで、パワーをエンジンに受け渡す際の落ち込み感が少なく、高速度域での加速感も改善されている。また、ハイトの低いタイヤを履いているにも関わらず、路面のショックを上半身(特に頭)に伝えてこないので、長時間乗っても疲れは少なそうだ。荒れた路面で後方からザーッというロードノイズが侵入してくる(音量レベル自体は低い)のは、ワゴンボディのため仕方のないところかもしれない。
さらに良かったのが、次に乗ったセダンの「HYBRID W×B」だった。1.8リッターのTHSⅡによる走行感覚は「ツーリング」と同様だが、セダンボディのため、室内とトランクスペースが分かれていて、ロードノイズの侵入がより少ないのだ。スパークリング・ブラックパールクリスタルシャインのボディとダークカラーの17インチアルミホイールを組み合わせたエクステリアも、TNGAにより、空気抵抗の少なそうな引き締まったスタイルに仕上がっていて、今までの「カローラ」のイメージを振り払うようなアグレッシブさがある。
セダンは1.8リッターガソリンエンジン搭載車にも試乗したが、こちらは1つのパワートレインによるシンプルな走り味が楽しめて、価格を抑えたいユーザー向けとして十分な性能を発揮してくれる。
新型カローラが発表された当時は、ボディサイズが「3ナンバー」となったことがニュースになっていたが、国内向けとして日本専用ボディを開発しているところなど、さすがはトヨタのメイン車種だ。全長4,495mm、全幅1,745mmというサイズは、日本の狭い道路や駐車場でも取り回しに気を使わずに済む。唯一の気になるポイントは、グローバルモデルより縮小したホイールベースのせいで、後席足元のスペースが少し狭い点ぐらいか。出入りの際にシューズのつま先をぶつけた傷が、ドア下部の取り付け部分に多く見受けられた。
この日はさらに、新・旧の「カローラ スポーツ」にも試乗できた。新型では、新色のエモーショナルレッドⅡのボディにブラックルーフを組み合わせたツートーン仕様が新登場。車名の通り、スポーティーさが相当にアップした印象を受ける。さらに、サスペンションをセダン、ツーリング同様に改善していて、硬さを感じる旧モデルよりも上質な乗り味がはっきりと体感できた。
試乗を終えて、カローラの開発を担当した上田泰史チーフエンジニアに話を聞くことができた。
「カローラは登場から50年以上が経ちましたが、『良品廉価』と『時代のニーズに合わせた変化』という初代の志をずっと守ってきました。だからこそ、世界でも日本でも多くのユーザーに長く愛されてきました。そんなカローラという名前のクルマを開発するには、“意地”しかありませんでした」
長い歴史と多くのユーザーを背負うカローラというクルマの開発には、相当なプレッシャーがあったことが想像できる言葉だ。
「国内モデルに日本専用ボディを導入したのも、そうした理由からでした。コストはかかるものの、ユーザーに喜ばれるものを徹底的にやっていく。豊田社長からも、『とことんやれ』と認めてもらいました」
試乗してみた感想として、新型カローラは「プリウス」や「アクア」、「C-HR」など、若いユーザーに向けたラインアップを取りそろえるトヨタ車の中に、きちんとはまり込んでいくことができそうな印象を受けた。カローラでカーライフを始め、いつかは「クラウン」にたどり着いた後、またカローラに戻ってくる。新型カローラは、そんなイメージを湧かせてくれるクルマだった。