露天鉱にうごめく上游
今回、蒸気機関車を見に行く「ジャライノール炭坑」は、中国内モンゴル自治区に属し、ロシアとの国境である満州里に近く、約30km南に位置する。おおざっぱに言うと、このあたりは、西に行けばロシアとの国境、西南に行けばモンゴルとの国境にあたる場所である。あのノモンハン事件の舞台とも近い。とはいえ、おおよそ二百数十kmといったところだが。
ジャライノール炭坑の鉄道とその歴史については、雑誌『レイル』65号に掲載されている蔵重信隆氏の記事が詳しい。なんでもジャライノール(扎賚諾爾)は、近郊にあるダライ(達賚諾爾)湖に由来し、20世紀初頭、東清鉄道の駅をつくる際に、地名を聞き間違えてジャライノールという名前になったとのことである。
私がジャライノールに行きたかったのは、露天鉱に今もなお蒸気機関車がうようよしているという情報をインターネットで入手したからだ。インターネットで調べると、少なくなったとはいえ、4月現在、上游(シャンヨウ)型という蒸気機関車が、20~30台稼働しているという。ただし情報が錯綜しており、この夏には蒸気機関車は廃止になる予定で、6月ぐらいにはもうなくなるのではないのか、とも噂されていた。
「中国鉄」と一緒に行動する
ジャライノール西駅を降りた私は、いわゆる"中国鉄"(ちゅうごくてつ: 中国の鉄道をテリトリーにしている日本の人々)と合流した。日本にいると、中国の鉄道、それも蒸気機関車を追いかけるというのは敷居が高いような気がしていた。年齢層も高く、レトロ趣味なのかな、とも思っていた。なにしろ、日本からだと情報が少ないから。
ところが、どうやらそれは誤解だったらしい。パワフルな方々が多いのは確かだが、同行した方々は、とても礼儀正しく、若い。丸一日、行動をともにしたが、とても気持ちがいい旅だった。鉄道ファンはそれぞれテリトリーがあって、細分化されている傾向にある。しかし、食わず嫌いはもったいない。新しい楽しみが増える喜びを感じた日であった。
さて、ジャライノール炭坑とその周辺を、チャーターした車であちこち被写体を求めて動き回った。お昼には鉄ちゃん御用達のしゃぶしゃぶ屋に入り、羊肉で腹ごしらえ。おまけに、上游の重連まで見られるという幸運に巡りあった。
中国蒸気はもはや風前の灯だといわれる。4、5年前に中国に行っていればよかったと思った。しかし、このジャライノール以外にもまだまだ中国蒸気は残っている。そして、今年いっぱいでなくなる蒸気も多そうだ。興味を抱かれた方は、早めに中国に行くことをおすすめする。そして、中国の鉄道を得意とする旅行社に手配をしてもらい、ガイドに同行してもらうほうがいいだろう。