終焉に近づく中国の蒸気機関車
ポーランドで蒸気機関車に乗って、ますます蒸気機関車熱が高まった。そこで、手軽に海外の蒸気機関車が乗れるところはないかしら、と検索してみると、中国でまだ現役の蒸気機関車が活躍しているということがわかってきた。たしか、昨年の北京オリンピック前に現役の蒸気機関車はなくなるのではなかったっけと首をかしげたが、どうやら地方鉄道や専用線では、まだ蒸気機関車がほそぼそと動いているらしい。
その中で、中国の東北地方、ロシアとの国境に近いジャライノール(扎賚諾爾)の大規模な露天鉱には、今も多くの蒸気機関車がうごめいているという。ところが、そのジャライノールの蒸気機関車も、今年の夏で終焉を迎えるとのこと。そこで5月の連休に、ジャライノールへ旅立つことにした。
さて、ジャライノールに行くにはどうしたらいいのだろうか。ネットで調べると、ハルビンから寝台列車で14時間半ぐらいかけていくということがわかった。しかし、5月の連休は中国でも連休があり、鉄道は大混雑するため、多くの旅行会社では鉄道の切符予約をしていないらしい。いつも優柔不断なわたし。悩んでいる間に、安い飛行機の予約はどんどん埋まっていく。
そこで、「とりあえず、ハルビン行きの飛行機を押さえてしまえ」と予約状況を見てみると、リーズナブルな成田→仁川(韓国)→ハルビンはすでにない。成田→上海→ハルビンは、ゴールデンウイークということで結構高い。そこで、新潟→ハルビンを押さえることにした。
蒸気機関車を見に行くといっても専用線。まして、露天鉱。1人で行くのはちょっと危険かも……。そこで、旅行社といろいろやり取りをしたところ、中国にあるとある日系の旅行会社の人が同行してくれることになった。
ハルビン駅は人、人、人!
新潟空港からハルビン空港に着いた私は旅行会社の人と合流し、車でハルビン駅へと急ぐ。初夏の夕方の日差しの影は長い。中国の鉄道では、まずはX線で荷物検査。そのあと、待合室に入らなければならない。私が乗るのは硬臥。二等寝台である。硬臥や硬座(二等)の待合室は、連休ということで大混雑。空いているベンチを見つけて座ると、目の前の女性は、皮付き豆を食べながら、その皮を床に堂々と投げ捨てている。1m横に掃除のおばちゃんが箒でゴミを集めているのに、である。
そして私の隣には、今やめずらしい人民服と人民帽をかぶった初老の男が背負っていた麻袋をドスンと隣の席に置きながら、腰をおろす。駅の待合室には若いカップルが多い。東北地方の中心都市であるハルビンに連休中に遊びに来て、今日の夜行で帰る人が多いのかもしれない。
さあ、改札。待合室から改札を出てホームに向かう。ところが、「遠慮していたら、列車に乗れない! 」のである。人民の海。海。海。旅行会社の人から、幾たびも置いていかれる。たくましさあふれる中国の「人民」たちには、かなわないのである。ああ。勉強になった。
中国の寝台列車は、大きくわけて二等寝台の硬臥と一等寝台の軟臥がある。硬臥は日本でいう開放式B寝台を想像してほしい。ただし、ベッドは三段。そして、ベッドにはカーテンがない。だが、この間乗ったロシアの寝台列車より上・中・下段の高さがあるように感じるので楽だ。それにしても、この列車は暑い。どうも冷房なしの列車のようだ。
一路平安! 満州里に向けて列車は走る
硬臥はほぼ満員である。私は下段。下段は、上段や中段の乗客が寝る前まで座ってもいい慣習になっている。列車に入ったとき、ハタチぐらいの女子が座っていた。プラットホームには、見送りの彼氏。17時48分。定刻通り、手を振り合って別れを惜しむ若い人たちの光景の中、満州里行きの寝台列車はハルビン駅を発車した。
駅を出てしばらくすると、列車は松花江(しょうかこう)をわたっていく。写真を撮ろうとカメラを構えたところ、親切な中国人が窓際の折りたたみ席を譲ってくれた。窓を開けるとすずしい風が入ってくる。暑い車内も少しは涼しくなるのだ。列車には食堂車があるが、どうやらすでに満杯らしい。そこで、車内販売のおばちゃんから買ったアイスキャンディーで空腹をしのぎつつ、旅行会社の人に弁当を買ってきてもらう。1時間も走ると、あたりは真っ暗になる。乗客もそそくさと自分のベットに横になり、静かになる。通路のあかりも落ち、車内は本当に真っ暗になる。そして、通路を歩くのは見回りの人。早起きして疲れた私は、睡魔に襲われていつのまにか寝てしまった。
高緯度の朝は早い。目が覚めるとすでに明るい。窓から外を見ると、地平線が見える。すでに内モンゴル自治区に入っており、ときおり牛や羊の群れを見る。食堂車へ旅行会社の人と一緒に行き、朝食を頼む。アルミのお盆に置かれたセットメニューが出てきた。粟なのかヒエなのか、雑穀の粥とゆで卵2個、マントウ、そしてザーサイ。ここで栄養をつけなくちゃ、とゆで卵2個を平らげる。食堂車の中は乗務員だらけ。中国では車両ごとに乗務員がいるので、賄い飯は食堂車である。
そうこうしているうちに、ジャライノールに近づいた。わたしたちが降りるのはジャライノール西駅。窓から外を見ると、なんと、DL+SLの重連。そう、すでに蒸気機関車の終焉は刻一刻と近づいていうのだ。さあ、蒸気機関車の終焉に間に合うのか?