電光掲示板で、ヴォルシュティン駅行きの列車を確認。8時25分発と表示されているのを見て、ひと安心。発車30分前にホームに行くと、2等客車が2両停まっている。8時10分すぎ、遠くから汽笛の音が聞こえてくる。黒い蒸気機関車はバック運転でホームに入ってくる。いやいや、日本から遠く離れたポーランドまで来て、これでSLに乗るという使命を果たせるぞ、と思うとホッとした。

動画
バック運転で蒸気機関車が入ってきた

蒸気機関車の運転士も商売、商売

バック運転してきた蒸気機関車は、客車を連結し、運転台から運転士が降りてきて、点検を始める。すると、ニコニコしながら運転士が、写真を撮っている私のほうへと近づいてくる。「え! なに!? 写真撮るのがまずいの? 」と思いながら見構えると、「日本人か? 」って聞いてくる。「そうだ」と答えると、「お金あるか? 」って聞いてきた。わけがわからないので、黙っていると、「150ズロチあれば、ヴォルシュティン駅まで運転台に乗せてってやる」みたいなことを、カタコトの英語をつなげて言う。乗りたいのはやまやまなんだが、手持ちのズロチが少ない。そこで、「いや、ズロチそんなに持っていないから」と断ると、「本当か? 駅に両替所あるから、そこで両替してこい」っていたって強気の運転士。

運転席まで上がるはしごは、すべりそうで怖い

……両替所行ったら列車に乗り遅れるじゃないか、と呆れて「ユーロならば持っているんだ」と婉曲に断ろうとすると、「ユーロでも、OKだ。ええと……」とユーロに換算しはじめた。「うん、80、いや60ユーロでいい」と言ってくる(あとで気がついたんだが、はじめより値上げしている)。

「いやいや、ユーロは50ユーロしかないんだよ」とこれまた断ると、「もったいないな、お前。人生で運転席に乗ること2度とないだろう、いい経験になると思うぜ」と、痛快なセールストークを始める。「じゃあ、仕方がないな」と、「50ユーロ+10米ドルでどうだ」と言ったら、「う~ん20米ドル」って微妙な駆け引き。結局「50ユーロ+20米ドル」という最初より高い金額で交渉成立(当は、150ズロチはあったのだが、払うと手持ちのズロチが20ズロチほど。ポーランドで何かあっても手持ちのユーロと米ドルが少ないので、下手すると出国できない。教訓「海外旅行の際はちょっと多めに両替しておきましょう」)。

1949年~1953年まで製造されたOl49

ヴォルシュティン駅行きの2等車。コンパートメント方式ではなく、向かい合わせの席が並ぶ。ドアはレバーを回して開ける

いざ、出発。でもその前にまた商売。

その運転士、「客車に俺の友だちがいて、こいつもヴォルシュティン駅まで乗っていくんだ。そいつにお前のスーツケース預かってもらえ」と手回しがいい。2両目の客車に行って、その運転士の紹介でスーツケースを預ける。で、目の高さまである高いはしごを4段上って運転席に入る。

キャブ内。木造にはびっくり

運転士2人と私。どうやら、もう2人入ってくるとのこと。実は、この区間、SL体験運転で有名な区間で、テストに合格したファンが2人やって来るとのこと。でも、その前に、またさっきの運転士が箱から取り出したのが、ポーランド国鉄の鷲のエンブレム。蒸気機関車についているエンブレムね。え、見せてくれるのか、と思ったら、「200ズロチでどうだ」。と持ちかけてきた。「あんたね、そいつは国鉄の財産じゃないのか? 」と思ったら、「ズロチじゃなければ、ユーロでもいいぞ、100ユーロでどうだ? 」って聞いてくる。さっき、ユーロもうないって言ったじゃないかと思いながら黙っていると、ちょっと状態の悪いエンブレムを取り出し、「こいつならどうだ? 150ズロチでいいぞ」と商売を始める。「いやいや、だめだ、お金ない」と答えると、「なんで買わないんだ」とスネ始める。「う~ん、買いたいけど、重たいから」とジェスチャーアを交えて言うと、「あ、重たいからね、うん、それならしょうがないか」と2枚のエンブレムを箱にしまう。なんか、あっけない。

2人のアマチュアの運転士見習いが入ってきた。2人とも60歳ぐらいか。でも、元気な鉄ちゃんだ。2とも野球帽をかぶっているのは偶然なのか。

ふと、運転台の上を見ると、木造だ! 屋根には通気孔のようなものがあいており、雨が降れば運転台も濡れるようだ。ようやく、蒸気機関車はヴォルシュティン駅まで出発する。しかし、この揺れはひどい。ガタガタと震度4ぐらい揺れている。果たして、無事に着くのだろうか。