とある金曜日、印刷所から携帯に電話がかかってきた。「印刷立ち会い、火曜日に決まりましたから。とにかく、谷在家まで来て下さい」。「やざいけ? 」思わず聞き返してしまったが、谷在家とは3月30日に開業した「日暮里・舎人ライナー」(東京都交通局)の駅である。
ゴムタイヤで走る、日暮里・舎人ライナー
実は、すでに日暮里・舎人ライナーには乗車済みだ。東京・荒川区の日暮里駅と、足立区の見沼代親水公園駅を結ぶこの交通機関は、電車がゴムタイヤで専用の軌道を走るというもの。「ゴムタイヤで走るのに電車!? 」とお思いの方もいらっしゃるかもしれないが、鉄道事業法による案内軌条式鉄道にあたるため、立派な「鉄道」機関である。一般の電車のように、パンタグラフを通じて架線から給電するのではなく、側面にある案内軌条より給電して走る。この方式のメリットとしては、鉄路(鉄レール)を用いないため、車両の小型化・軽量化およびコストダウンが図れること。また、ゴムタイヤを採用しているため、騒音・振動が小さいことや、鉄路に比べて傾斜に強いことがあげられる。
ただし、個人的には2本の鉄路を走るのではないこの線にはあまり興味をそそられないというのが正直な心境だ。やはり、電車のカッコウしているのなら、線路がないと萌えないんだよっ(笑)。「じゃあ、トロリーバスやレールバスはどうなのよっ! 」と突っ込みが入るかもしれないが、それはそれでいいんだよ。「バスなのにめずらしいじゃん」ってね。と、鉄ちゃんの趣味・趣向は微妙なところがあるのだ。
無人の電車からかぶりつき
さて、当日。12時過ぎに山手線で日暮里駅に到着し、日暮里・舎人ライナーの乗り場に急ぐ。あまりにも、覚えにくい線名だったので、「ライナー」「ライナー」とつぶやきながら歩いていたら、京成線の乗り場に行きそうになった(実話)。京成線には「スカイライナー」があるからだ。うーん、まぎらわしい。絶対間違えるぞ、外国人は。
無事に改札口を通過して、ホームに入る。ホームの線路側には、ホームドアが設けられている。また、この日暮里・舎人ライナーは無人のシステム。そのため、先頭車両はかぶりつきで景色が楽しめるようになっている。電車は日暮里駅周辺をのぞき、ほぼ尾久橋通りの上に設けられた高架専用道路を走っていく。さすがにゴムタイヤ、振動も少ないし、音もうるさくない。
景色の見どころは、熊野前駅 - 足立小台駅 - 扇大橋駅の間。隅田川と荒川を連続して渡っていく様が気持ちいい。橋は想像以上に急勾配。こういうところが摩擦係数が高いゴムタイヤを採用した新交通システムの強みであろう。日暮里駅を出て谷在家駅までおおよそ14分の旅。距離にして約7km弱、運賃は270円である。駅を出て尾久橋通りに降りると、印刷所の担当がいた。この周辺は中小さまざまな工場が点在している。印刷工場までは、タクシーで7~8分の距離だった。
猫もパトカーもいっぱいだ!
ところで、読者の皆さんの中には「『猫街』ってタイトルなのに、なぜ猫の話が出ないのだ」と思っている方もいらっしゃるだろう。猫街の由来については第4回のコラムを参照してほしいが、そもそも猫街であって猫のコラムではない。しかし、街を歩くと猫に出会う。しかもタイトルの説明をしたにもかかわらず、担当女性編集者にも「猫成分が少ないんだよ、ったくよー」とにらまれる(絶対この人、男を尻に敷くタイプだよね)。そこで、猫の話もちょっとだけ書いてみる。
夕方、印刷工場から出た私は、またタクシーに乗り、谷在家駅から日暮里・舎人ライナーを利用。帰りは熊野前駅で下車。ここは、都電との乗り換え駅でもある。遅い昼食をとろうとうろうろしていると、猫がいた。誘われるようについていくと、あら、猫が一匹、二匹、三匹……。車の下にも猫がいる。しばらく立ち止まってボーッと眺めていた。猫の街がそこにあったのだ。
なにやら別世界に飛んでいってしまいそうな雰囲気であったが、「これは、いかんっ」と思って近くの公園へ。蛇口をひねって顔を洗い、さっぱり。昼食をとるため、都電で町屋駅に向かった。町屋駅に着いてポケットをさぐると、500円玉が出てきた。中華料理屋に入ろうと思ったが、ふと店の入り口横を見ると、上海焼きそばのパックが並んでいる。ちょうど500円。店で食べるより100円安いではないか。財布の軽さに救われない思いをしながら、ベンチで焼きそばを食べている私であった。
後日談をひとつ。ある夜、日暮里・舎人ライナーを撮ろうと荒川土手からカメラを構えていると、パトカーがどんどんやってくる。1台、2台、3台、あらら5台も! 「不審者か、オレは……」。ブルブルガクガクと震えていると、河原のキャンプファイヤーを消しに来ていたのだった。「猫にもパトカーにも好かれるオレって、いったい? 」。しかしまだまだ彷徨いの旅は続くのであった。