決まった住所を持たず、日本中を旅しながら生活しているカメラマンの南谷有美(なんや・ゆみ)さん。訪れた地域では人々とどのように交流し、どんな仕事をしてきたのか。それぞれの地域の魅力についても綴っていただきます。
今回は福井県福井市にあるちょっと変わった農家民宿「いただき繕 福井越廼(こしの)」をご紹介します。「いただき繕」とは、先人の智慧を実践し、心身を繕い・守る現代に向けた食養論を指しており、この考え方を体現した宿として山田黙鐔(もくだん)・善杜(ぜんと)さんが運営されています。
価値と価値の交換で成り立つ農家民宿
天日干し・無農薬雑穀を輸入して商品にする製造業や、農家民宿の事業を展開しているこちらのお宿では、ちょっと変わったシステムを取り入れています。
訪れた人は、まず得意なこと・やりたいことを聞かれます。そして、「料理」と答えたら「料理」を。「農業に興味がある」と答えたら「農作業」を。「古民家再生に興味がある」と答えたら「古民家再生プロジェクト支援を」といったように、自分の得意なことをします。
その代わり、宿代と食事代は無料になります。「価値と価値の交換」によって、宿が運営されているのです。
ちなみに私に与えられた役割は「子どもと遊ぶ」でした。保育士として積み上げてきたこれまでの保育経験を生かすことができました。
モモちゃんの1日
例として、今回が4度目の滞在というベテラン滞在者、スウェーデン人・愛称"モモちゃん"の1日を覗いてみましょう。
農業に興味があるというモモちゃん。朝食後は、午前中の作業として、イノシシ除けの柵を作ります。3時間ほど作業をしたら、次は昼食作り。実は料理も得意だそうで、絶品のパスタを作ってくれました。
この日は、モモちゃんが生活を送っているおうちのホストファミリーが遊びに来るということで、午後はお休み。みんなで昼食をとり、その後は子どもたちと遊ぶなどして過ごしていました。
この日は農作業と料理でしたが、他にも掃除、運転手、イベントの手伝いなど、さまざまな仕事を行っているそうです。楽しみながら滞在できるところが、この宿のいいところ、と言っていました。
オーガニックな村を作りたい
山田さんご夫妻に今後のビジョンをお聞きしたところ、「小さな村を作りたい」とおっしゃっていました。民宿、カフェ、パン屋、衣服屋、醤油・味噌加工場など、素材やオーガニックにこだわったものだけを提供する、唯一無二のコミュニティを作ることが目標だそうです。
現在新たな古民家を続々と手に入れ、リノベーションの真っ最中。一緒にコミュニティを運営してくれる仲間も募集中だそうです。人里離れた古民家で行われている、丁寧な暮らし。是非一度、訪れてみてはいかがでしょうか。
南谷有美(なんや・ゆみ)
カメラマン/ライター
2018年4月に認可外保育園の園長を退いてから、各地を巡る旅人に。リモートで仕事をしながら、好きな場所で好きなことをして生活しています。