私が近年気になっていること、それは移住。旅先で色々な方々と出会ってお話を聞くうちに、「私もいつかは……」と思うようになってきました。

今回は、約5年前に長野県松本市に移住し、「こだま食堂」という飲食店を営む児玉陽子さんに、移住や生き方に関するお話を伺ってきました。

  • 店主の児玉陽子さん

旅を通して見つけた、理想の生き方

現在は長野県松本市で暮らす児玉さんですが、出身は大分県大分市。当初は、イギリスでの留学の経験を活かして、英会話の仕事をしていました。

そんな児玉さんの価値観を変えたのは、25歳の時にワーキングホリデーで訪れたニュージーランド。そこで、今でいうサステナブルな暮らしをしているご家族と出会ったことがきっかけです。セルフビルドの家に、家庭菜園。好きなところに、好きな家を建てて暮らしを営む人々に出会い、「こんな暮らしもいいな」と思うようになったといいます。

帰国後は旅行会社に就職しましたが、30歳で再びワーキングホリデーに。オーストラリアで、1年ほど暮らしました。

オーストラリアを行き先に選んだ理由は、パーマカルチャーの発祥の地と言われているから。パーマカルチャーとは、持続可能な暮らし方を取り入れることで社会の在り方を変えていこうとする取り組みです。そんなパーマカルチャーを実践しているという「クリスタル・ウォーターズ」というエコビレッジを訪れた児玉さんは、その光景に感動したのだそう。

例えば家づくりは、1年間をかけてどこから日が昇り落ちていくのかなど土地を観察することから始めます。太陽の光や熱を最大限利用できるように設計し、ゆくゆくは自然にかえるもの(朽ちていく素材)を用いて建てていくのだとか。炊事や洗濯に関しても、排水が畑に流れるようにしたり、水を汚さずに自然にかえす工夫をしていたりと、循環を意識した生活を肌で感じることができました。

また現在につながる「食」の大切さもここで学んだという児玉さん。農薬や化学肥料を用いて食材を作るのではなく、自然を活かした農法が循環する社会において重要なのだと感じたそうです。

食と関わりながら国内を転々とした日々

その後、日本でもパーマカルチャーを実践している場所があると聞き、長野県安曇野市を訪れた児玉さん。途中、静岡県のカレー屋さんで働く期間もありましたが、安曇野では石窯パンとピザを作る仕事を3年間担当しました。

その後は、長野県上田市にある天然酵母で有名なパン屋さんに就職。カフェの運営を任され、パンに合うメニューの開発などにも携わり、後にこだま食堂の定番メニューとなるスパイスカレーもこちらのお店で提供していました。この頃から、自分のお店を持ちたいと思うように。再び安曇野市に戻り、物件探しの日々が始まりました。

やっと見つけた理想の居場所「こだま食堂」の誕生

すぐにでもお店を始めたいと思っていましたが、なかなか理想の物件と巡りあえなかった児玉さん。3年がたってようやく、ピンとくる物件が見つかりました。松本市にある、築40年の昭和の民家です。

  • 素敵な民家

  • 近くにはりんご畑も

畑があり、近所に住宅が少なく、朝日が眺められ、友人たちが近くに住んでいる……そして何よりのどかな田園風景が臨める見晴らしの良さが決め手となりました。

  • のどかな田園風景

地元の職人や設計士を中心に友人も参加して、民家を半年間かけてリノベーションに取り組みました。そして完成したのが、いま児玉さんが営んでいる「こだま食堂」です。

  • こだま食堂の誕生です

2017年11月にオープンして以来、たくさんの方がお店を訪れています。1年目はスパイスカレーのみの提供でしたが、2年目からは念願だった石窯ピザの提供も始まりました。

  • こちらがピザ窯小屋

  • 良い感じに焼き上がっています

  • 最終の仕上げ

  • ピザができたよ~

現在、メインメニューを5~10月は石窯ピザ、11月~4月スパイスカレーとしています。のどかな景色を眺めながら、おいしい食事を楽しむことができます。

  • 私もいただきましたが、幸せな時間でした~!

児玉さんが移住してみて、感じたこと

児玉さんに移住してどうだったかということを率直にお聞きしたところ、即答で「よかった」と話されていました。移住する上で気になるものの一つとしてあげられるのは、人間関係。松本市や安曇野市は移住者が多いという特色があるためか、よそから来る人々にも寛大で、児玉さん自身も疎外感を抱くことがなかったそうです。

集落の人々との関係も良好で、ご近所さんから野菜のお裾分けをいただくことも。もちろん児玉さんのお人柄もあると思いますが、移住者の住みやすさ・暮らしやすさが感じられるエピソードですね。

反対に大変なことは、冬が寒いのと"雪かき"とのこと…それを除くと「特にない」と話されていました。

移住する上で最も大切なことは人間関係。実際に住んでみないとわからないことも多いので難しい部分ではありますが、ここに住まわせていただくという感覚と、地域の方と信頼関係を築く努力をすることが大切だと話されていました。

  • 地域の方にも応援されるお店となりました

移住して、お店も開いてと聞くと、大変そうなイメージがありますが、当のご本人は「暮らしの延長線上に、お店があるだけだよ」とケロッとされていたのが印象的でした。

今後の夢として、フェアトレードの商品や環境にやさしい生活雑貨をメインにした新たなお店を持ちたいと話されていた児玉さん。今後のご活躍が楽しみですね。

  • 店内には素敵な商品がいっぱい

  • 雑古紙100%で作られているトイレットペーパー

自分の人生を楽しんでいる児玉さんの姿を見て「私にもいつか"ここだ!"という場所が見つかるのだろうか」と思いをはせてしまった今回の取材。そんな日が来るといいなと心の中で願いながら、当分は多拠点生活を楽しんでみようと思います。

南谷有美(なんや・ゆみ)

カメラマン/ライター
2018年4月に認可外保育園の園長を退いてから、各地を巡る旅人に。リモートで仕事をしながら、好きな場所で好きなことをして生活しています。