前回に引き続き、まちづくりのお話。今回は、愛知県津島市にある、ちょっと変わった駄菓子屋さんのお話です。
名鉄津島駅から徒歩7分。昔の長屋を改装して作られた、趣のある空間にたどり着きます。ここ一帯はルミエールセンターと呼ばれ、駄菓子屋さんの他にもさまざまなお店があります。
リラクゼーション、ヨガ、カラーセラピー、ピアノセラピー、アロマ、ハーブティ、ネイルなど、さまざまなワークショップが開催されています。
そこから直線上に歩いて行った先には、何とホールも!
現在は新型コロナウィルス蔓延に伴い自粛をされていますが、マルシェやライブなどをする場としても活用されていました。
子どもや大人、さまざまな年代の方が集まる素敵な空間となっていました。
駄菓子屋 すーさんに潜入!
そんなルミエールセンター内にある、駄菓子屋すーさん。
靴を脱いで、早速中に入ってみました。
まず見えてきたのは、駄菓子屋さん(当たり前ですね笑)。懐かしのお菓子から、初めて目にするお菓子まで、さまざまな種類の駄菓子が並んでいました。
子どもたちが計算しやすいようにと、価格も10円単位で設定されています。訪れた子どもたちはみんなキラキラした瞳で、駄菓子を見つめていました。
驚いたことに、お会計をするのも子どもたちの役割です。
お会計を任せるって、なかなかできないことですよね。強い信頼関係の上で成り立っているのだということを感じました。
また、売り物の駄菓子とは別に、無料で食べられるお菓子も存在します。
無料で食べられるお菓子を置いているのは、家庭の事情でお金がなく、みんなと遊びたくてもここに来ることができないという子どもを作りたくないという思いから。すーさんの人柄が感じられるエピソードですね。
駄菓子屋エリアの奥の部屋に行ってみると、そこにはたくさんの水槽が…! 爬虫類をはじめ、さまざまな生き物が飼育されていました。
元々は行き場を無くした爬虫類の保護をしたところから飼育が始まったのだそうです。ちなみにすーさん自身も初めは爬虫類が得意ではなかったようですが…今では我が子のようにかわいがっています。笑
私自身は今まで爬虫類と触れ合う機会がなかったので「大丈夫かな?」と少し心配していましたが、難なく抱っこをすることができました(かわいかったです!)。
このように、爬虫類がいるちょっと変わった駄菓子屋さんとして名が知られることとなりましたが、最近は少し事情が変わってきたようです。
子どもたちがお店を訪れる、さまざまな理由
私が取材に訪れたのは、とある日曜日の午後。訪れた子どもたちに、「お店に来た理由」を聞いてみました。
一人目にお話を聞いたのは、中学2年生のゆきちゃん。お店を知ったきっかけはinstagramで、初めはお母さんと一緒に訪れました。元々爬虫類が好きだったゆきちゃんにとって、このお店はとても興味深かったようで「ここは、天国かと思った」と話していました。
現在は週1で通っており、ここでは主に爬虫類の勉強をして過ごしています。ゆきちゃん自身もフトアゴヒゲトカゲを飼育していて、自分のペットをすーさんに見てもらったり、他の爬虫類と触れ合ったりして楽しんでいるそうです。
友達と来る日もあれば一人で来る日もあり、ゆきちゃんにとってここの店は居心地の良い場所の一つとなっているのだとか。
二組目は、18歳のさなちゃんと17歳のらんちゃん。らんちゃんが爬虫類好きで、知人から津島に爬虫類を飼育しているお店があるということを聞いたことがきっかけで訪れました。最初は爬虫類に触れ合って遊んでいましたが、途中からなぜか人生相談に……。すーさんの話に感動し、そこから月に何度か訪れるようになったのだそうです。
色々な相談をしてきたという二人ですが、今までで一番心に残ったすーさんの話は何かということを聞いてみると、「人間の軸」という言葉が出てきました。
学校や職業ではなく「どういう人間でいたいのか」ということが、人にとって一番大切なこと……その当時、進学や就職など将来のことで悩んでいた二人にとって、その言葉は心に響くもので、自分自身の想いに問いかけるきっかけになったのだそう。
さなちゃんはアパレル業界への就職を決意し、らんちゃんは通信制の高校に通いながらバイトをし、最終的には美容関係の仕事に就きたいと思うようになりました。「自分の容姿に自信がない人に少しでも自信を与える人になりたい、それが私の軸です」と生き生きと話すらんちゃんの姿に、私も感動してしまいました。
爬虫類から人生相談まで、幅広いニーズに対応している駄菓子屋すーさん。今日もさまざまな思いを抱えた子どもたちが、お店を訪れています。
子どもたちの居場所の一つに
子どもたちにとってかけがえのない場所になっている、駄菓子屋すーさん。「これからも子どもたちを見守る人になっていきたい」と話されていました。
「どんな存在で、どんな生き方で、どんな人間で生きていたいのか」それを自身に問い続けてきたすーさんだからこそ、子どもたちは心を開き、話に耳を傾けるのだと感じました。
学校でも家庭でもない、第三の場所。それが、子どもたちにとってどんなに救いになることか、私自身もよく知っています。そんな子どもたちの居場所作りという大切な役割を担っている、すーさんの駄菓子屋さん。今後の活動も、応援しています。
南谷有美(なんや・ゆみ)
カメラマン/ライター
2018年4月に認可外保育園の園長を退いてから、各地を巡る旅人に。リモートで仕事をしながら、好きな場所で好きなことをして生活しています。