決まった住所を持たず、日本中を旅しながら生活しているカメラマンの南谷有美(なんや・ゆみ)さん。訪れた地域では人々とどのように交流し、どんな仕事をしてきたのか。それぞれの地域の魅力についても綴っていただきます。
今回は、若い移住者が増えていると話題の、奈良県南東部に位置する川上村についてご紹介します。
都市から地方から人々が集まる村
今回ご紹介する川上村は、知る人ぞ知る静かな場所。緑と水源の豊かな、美しい村です。実は私も、川上村の存在を初めから知っていたわけではありません。私がこの村を知ったきっかけは、旅人求人サイトです。
旅をしながら仕事をしようと保育園の園長をやめ、宮古島に初めて訪れた際、不意に「旅人 求人」と検索したところ、こちらのサイトがヒットしました。それ以来、旅先で仕事を見つけたり、次の行き先を決めるヒントにしたりと、お世話になっています。
そんなSAGOJOさんのサイトで見つけたのが、奈良県川上村のPRの仕事。その仕事をしてからというもの、川上村という場所に心ひかれた私は、半年の月日を経て再びこの地を訪れました。
川上村の魅力の一つは、豊かな自然です。吉野川の源流に位置する川上村は、1996年、全国に向けてある宣言をしました。
「500年もの昔からつづく杉・桧の人工林や、原生の森を守り、そこから生まれる水の恵みを下流に届け続けること。自然と共に生きる豊かな暮らしを育み、伝えること」。
これを「川上宣言」とし、この宣言をもとに村づくりが進められています。
また、住宅の補助金や、移住を考えている若者に向けたシェアハウスの提供、仕事と住まいをワンセットで紹介する「川上ing作戦」の実施など、移住施策にも力を入れていて、平成26年度以降、17世帯49人が移住を決定(平成30年8月時点)。
さらに、地域おこし協力隊の活躍が目覚ましい場所としても知られており、さまざまな才能を持った人が村を盛り上げようと国内外から集まってきています。
家や車を村が用意してくれるなど、村全体でバックアップする姿勢があることなどから、任期後もOBとして地域に残ってお仕事される方が多いそうです。
地域おこし協力隊OBの新鋭クリエイター
そんな地域おこし協力隊のOBで、一際光を放っている方がいるとの情報をいただき、お話を伺ってきました。木工作家の平井健太さん。2016年に地域おこし協力隊として川上村を訪れ、現在は木工作家として活動をされています。
大学で建築を学び、建設会社に就職した平井さんは、「自分で設計し、自分で手を動かして作りたい」という思いが芽生え、2010年に会社を退職。飛騨高山で木工技術を習得した後、アイルランドにある「joseph walsh studio」で3年間働きながら学び、2016年、川上村にやってきました。
2017年に「studio Jig」を設立し、家具を中心に創作を続けてきた平井さん。ウッドデザイン賞2017 優秀賞(林野庁長官賞)など数々の賞を獲得し、近年では何とLEXUSのショールームにも作品が展示されるなど、活躍華々しい新進気鋭のクリエイターとして注目されています。
軽く軟らかい吉野杉を独自の技術で家具材に
平井さんが作る家具には、川上村の吉野杉が使われています。針葉樹である吉野杉は、軽く軟らかいという木材の特性から、家具には不向きとされてきました。
そこで平井さんは、薄い単板を何枚も重ね、積層し圧着する技術により強度を補填する「Free form Lamination」という技術を採用。これは、平井さんがアイルランドで習得した技術で、杉材の持つ温かみを残しつつ、家具としての強度を実現した家具づくりを可能にしました。
幾重にも重ねた木材を、変幻自在にデザインする平井さんの家具に、吉野杉の特性が合致。唯一無二の作品を次々と作りだしていらっしゃいます。
吉野杉とともに世界へ
平井さんに今後のビジョンをお伺いしたところ「自身の強みをいかして、いろいろなことに挑戦していきたい」とおっしゃっていました。海外への進出も考えているのだとか、ますます目が離せませんね。
自らが吉野杉の広告塔となり、活動されている平井さん。得意なことで地方を盛り上げることができるのは、とても素敵だなと感じました。
平井さんの今後のさらなる活躍にも注目しながら、私もまた川上村を訪れ、その取り組みや村の良さを伝えていきたいと思います。
南谷有美(なんや・ゆみ)
カメラマン/ライター
2018年4月に認可外保育園の園長を退いてから、各地を巡る旅人に。リモートで仕事をしながら、好きな場所で好きなことをして生活しています。