大阪と奈良の県境に位置する、信貴山。今から約1,400年前に聖徳太子によって開山された、日本最初の毘沙門天の霊山です。今回は、そんな歴史ある信貴山の宿坊を舞台に、2020年12月、ワーケーションをしてきました。いつもと一味違った、旅の記録。是非お楽しみください。
今回滞在させていただいた「宿坊」とは
信貴山には、千住院・成福院・玉蔵院の3つの宿坊があります。今回はその中の一つ、「玉蔵院」という宿坊でワーケーションをさせて頂きました。
宿坊と呼ばれる場所に泊まった経験はなかったので「どんな場所だろう」と少しドキドキしながら訪れました。なんとなく、過酷な場所だという勝手なイメージを持っていたので、そのギャップにびっくり! ホスピタリティ溢れるサービスに、心が癒されました。
お気づきの方もいるかもしれませんが、部屋にはこたつがありました。このこたつが、私の仕事机。個室なので周りの人の目が気になることもなく、集中して仕事に取り組むことができました。
また、今回の旅は食事も付いているプランで、朝・夕と精進料理を楽しみました。精進料理と聞いていたので足りないことを想像し、こっそり夜食等も持っていきましたが……。意外としっかり量があったため、心もお腹も満たされました。
朝食は7時半・夕食は18時と決まっていたおかげで、滞在期間中は朝型の生活スタイルとなりました。朝の時間を上手に使えるようになったことで、自由に使える時間が大幅に増えました。環境を整えることの大切さを改めて感じました。
仕事の合間に! 選べる修行体験
宿坊での暮らしについてご紹介しましたが、それをより色濃く、リアルに体感できる「修行体験」というコンテンツが存在します。日帰りコースと1泊2日コースがあり、私は1泊2日コースの修行体験に参加しました。
礼拝を108回繰り返す「百八礼」、万物の始まりである阿を呼吸で感じる「阿息観」を行い、「般若心経」と食事作法を実践の中で学びました。初日から盛りだくさんの内容でしたが、修行に励むことで心が落ち着き、自分自身の心と向き合うきっかけとなりました。 修行体験の朝は早く、5時半には「護摩祈祷」が始まります。
護摩祈祷とは、火を使う御祈祷の仕方です。願いを書いた護摩木を火の中に入れ、仏様に祈りを捧げます。
護摩祈祷が終わると、場所を信貴山本堂に移ります。「大般若祈祷」が行われ、ご本尊毘沙門天様に祈願しました。厳かな雰囲気の中で行われる祈祷は、私の心にも響くものがありました。
祈祷後は、「戒壇巡り」と「諸堂参拝」。信貴山の歴史を感じながら、参拝させて頂きました。
朝食の後は、「作務」。境内の掃除を行いました。私は拭き掃除を行ったのですが、汚れが落ちてきれいになる度に何とも言えない達成感と喜びを感じました。
最終行程は、「般若心経の写経・読経」。心を無にして、黙々と言葉を綴りました。
修行体験を通して、たくさんの気づきを得ました。
忙しい日々を過ごしていると、自分自身を置いてきぼりにしてしまうことが多々あります。立ち止まって一呼吸するということが、時には必要です。修行を体験するだけではなく、自分自身を見つめ直す時間としても使うことができました。
御朱印帳作りにバンジーも? 充実したアクティビティ
宿坊についてご紹介してきましたが、信貴山周辺には他にも楽しいアクティビティが多数存在します。まずは、信貴山観光協会が提供しているアクティビティをご紹介します。
信貴山トレッキング
信貴山の歴史に詳しいボランティアガイドとともに、本堂を含めた境内の主な名所を巡りました。
説明を聞きながら巡ることで、より深い学びとなります。トレッキングと記載されていますが、山道を登っていくということはないので、軽装で参加できるということも魅力です。
私が参加した日は偶然、「大根だき会」という催しが行われており、境内は多くの方で賑わっていました。大根だき会とは信貴山大本山千手院で行われるもので、来年の健康を祈願して護摩木を焚き上げ、今年1年感謝と来年の祈りを込めて大根を頂くという催しです。
次に、奈良斑鳩ツーリズム Waikaruが提供しているアクティビティをご紹介します。
バギー/トゥクトゥク体験
バギーとトゥクトゥクの運転ができるというアクティビティです。おもちゃのような乗り物ですが、実際に公道を走るので、運転免許証が必須となります(トゥクトゥクは乗車体験コースもあります)。
私は、バギー体験のアクティビティに参加しました。ブレーキやアクセル、ギアなどの説明を受けた後、いよいよ実践。バギーに乗りながら、お寺を巡ります。
周囲からはもちろん注目の的となりましたが、それが徐々に心地よくなってきます。ガイドのお兄さんの話も面白く、楽しい体験となりました。
御朱印帳作り
恵心僧都が平安時代末期に創建した歴史ある寺で、御朱印帳作りが体験できるアクティビティです。
色とりどりの和紙の中から表紙となる和紙を選び、台紙に貼り付けます。簡単な作業なので、年齢問わず体験することが可能です。
御朱印帳作りが終わった後は、本堂に移動して、木魚を打ちながら御念仏を唱えました。僧侶からの法話も拝聴することができ、有意義な時間を過ごすことができました。
最後にご紹介するのは、バンジージャンプ。BUNGY JAPANが運営するもので、今回は信貴山観光協会の計らいで体験させて頂きました。
バンジージャンプ
登録有形文化財にも指定されている開運橋を舞台に行われる、バンジージャンプのアクティビティです。せっかくの機会だということで、私も挑戦しました。
説明を受け、体に器具を装着し、いざジャンプ台へ。お兄さんに「落ち着いていますね~」と言われましたが、内心はドキドキ。足のつま先が半分出た状態で、カウントダウンをされました(ここが一番の恐怖ポイントです)。
それから、自分のタイミングで空にダイブします。落ちている時はそれほど怖くありませんでしたが、落ちた後に空を舞う時間が長く、「早く助けて」と心の中で叫んでいました。
上に上がると、「いいジャンプだったよ」と声を掛けられました。どうやら空中で一回転したようです。腕につけていたGoProの映像にも、空がきれいに映っていました(映像でお見せできないことが残念です)。自分の中の思い込みを一つ越える、貴重な体験となりました。
信貴山でワーケーションをしてみたら
厳粛な生活をイメージして訪れましたが、普段の生活とそれほど変わらず快適に過ごすことができました。
ただ宿坊ということで、他の宿泊施設とは異なる面もあります。最小限のアメニティ類や決められた入浴時間、ホテルなどのサービスと比べてしまうと「何か違う…」と思ってしまう可能性があります。宿坊ということを念頭においておくと、この生活をより楽しむことができるのではないかと思いました。
今回、ワークスペースは自身の部屋となりました。コワーキングスペースのような多くの人が出入りする場所も魅力的ですが、時世も考えるとこのような個の空間で仕事をできるというのは安心だと感じました。また、部屋にこたつがあったことがありがたく、仕事にも集中して取り組むことができました。
修行体験からバンジーと、幅広いアクティビティが体験できる点も魅力です。ご案内してくださった方々が皆さん楽しそうで。私も体験を楽しむことができました。
玉蔵院の野澤管長が法話の中でもおっしゃっていましたが、人にとって環境はとても大切です。静かで、自然豊かで、心が落ち着く所に身を置くことにより、心が変わってきます。働く場所として信貴山、そして宿坊という選択肢も有りなのではないかと感じました。
南谷有美(なんや・ゆみ)
カメラマン/ライター
2018年4月に認可外保育園の園長を退いてから、各地を巡る旅人に。リモートで仕事をしながら、好きな場所で好きなことをして生活しています。