お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。

今回のお悩み

「自分のやりたいことや夢が見つかりません。でもこのままボーっと人生をおえてしまうのはイヤなんです」(20代/会社員/男性)


はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。

ジョイマンは世間の皆様から「一発屋」と言って頂くことが多いです。一発屋。大きめの花火を1発打ち上げた、ということになるのでしょうか。

  • 高木さん、夢はどこにありますか?

    絵:高木晋哉

打ち上げ花火という意味で言えば、かの有名な墨田川花火大会で打ち上げられる花火の数は約2万発。利根川大花火大会は約2万3,000発。諏訪湖祭湖上花火大会は約4万発です。僕も日本人の端くれとして、子どものころから何度も花火大会に足を運んできました。

夏の夜空を彩る沢山の打ち上げ花火。熱く湿った空気を震わせる花火の音。人々の笑顔を照らし出す色とりどりの光。しかし今、目を閉じて思い返してみれば、心に残っているのは一番大きかった1発の花火だけなんです。

僕はこう思います。僕たちの人生が花火大会ならば、誰かの心に残る大輪の1発を打ち上げられたらそれで上出来なんじゃないかと。人生たかだか7、80年。人間、その短い時間の中で何か1つのことをやり遂げられたらそれで幸せなのではないか。僕はそう思うんです。

そしてその「何か」は何でもいいのだと思います。1つで良いんです。周りは皆こうしているからとか、こうしないと変な目で見られるからとかはいったん忘れてみて、その中で何か心にひっかかったものを1つ人生の芯に据えてみるのも良いと思います。

食べることでも、遊ぶことでも、寝ることだって、どんなことでも突き詰めれば夢の道しるべになることがあるような気がします。

やりたいことや夢が見つけられないというのは、僕も10代のころに漠然と思っていました。自分は何でもできるような気がするのに、何もできていない。すでに周りは夢や目標に向けて進んでいこうとしている。

僕は20歳になった時に、今まで自分で決めてきたようで実は何も決めていなかった道筋や、自分の力で得たようで実はそうではなかったものを、いったん全てないことにしました。そしてお笑い芸人になりました。貧弱な支流を作り過ぎてどれが本流なのか分からない状態だったのが、あえて支流をせき止めてみたことで自分の人生の本流が分かりやすくなったような気がします。

今はその流れの中で激流に流されてみたり、深く潜ってみたり、時には流れに逆らいながら泳いでみたりしています。本流の中にいるからこそ、その道中に何があっても楽しめるのだと思います。

今の時代は、僕が10代のころよりもさらに情報過多な時代だと思います。社会はまるで脅迫とも言えるような手段で、手を変え品を変え僕たちの人生の時間を食い潰そうとしてきます。

何となく手が届きそうに見える、ぼんやり輝く選択肢が周りに多過ぎるせいで、逆に自分で何かを選ぶことが難しい。選ぶことはカロリーを使う作業です。

確かに何も選ばなくても生きてはいけるかもしれません。でも何かをちゃんと選ばずに生きていく人生には、贅肉がどんどんついてくる。そういう人生の贅肉を落としていった先に見えてくる何かが、あなたの夢のかけらのようなものなんじゃないかなと思います。

シンプルで良い。何か1つをやり遂げられればいいんです。たかが人間が何発も花火を打ち上げようなんておこがましい。人は人生において、一発屋であるのが最も健康で自然な姿だと、僕は思うんです。

筆者プロフィール: 高木晋哉

お笑い芸人。早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷と「ジョイマン」を結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。趣味は詩を書くことで、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となっている。