お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。今回からは、読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。
今回のお悩み
「仕事ができず、ついに後輩に成績を追い越されてしまいました。恥ずかしくてもう会社に行きたくないけど、転職する勇気もありません。僕はどうすればいいのでしょうか」(20代/会社員/男性)
はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。
2014年頃でしょうか。ジョイマンのサイン会にお客さんが0人しか来なかったことがありました。2008年はあんなにたくさんあったテレビの仕事はもちろん、営業の仕事もその頃には減り続けていました。沢山の後輩達がジョイマンを追い抜いていきました。昔、自分が出ていて今は後輩達が出ている番組の前説の仕事をすることもありました。
仕事は、増える時は一瞬でしたけど、無くなる時は感覚としてはスローなんです。だから、より苦しいんですよね。苦しい時間は永遠のように感じる。
厳しい試練は日常茶飯事な毎日でしたが、サイン会にお客さんが0人しかいない光景を目の当たりにした時は、初めて目の前が真っ暗になりパニックになりました。そんなことは初めてでした。
でもパニックになりつつも、ホッとした気持ちもあったんです。ずっと崖から落ち続けていたので、やっと底についたというか。その場所が奈落の底であっても、やはり人間は陸の動物ですから地に足が着くと安心するんですよね。
やっと、「へえ……ここが芸能界の底かあ」と周りを冷静に見渡せた。嬉しさにも似たような不思議な感情になったんです。
でも確かにその状況は僕にはトゥーマッチでした。複雑な感情を自分の中では抱えきれなくなって、「おーい僕はここにいるよ」という風にその状況をSNSで発信したんです。そこで世間の人々が「ジョイマンは今そんな状況なんだ」と初めて知ってくれた。世間の人々は、僕達がそんな状況だとは全く知らなかったんです。
そりゃそうですよね。でも当時は少し驚きました。全世界が"お前は情けない一発屋だ"という目で自分を見ているという妄想に取り憑かれていましたから。勝手な自意識過剰で自分を卑下し過ぎて視野が狭くなっていたんです。
まず、周りはそんなに僕に興味がない。何も知らない。それに気付いて不思議と少し楽になりましたし、だからこそ今は諸々の状況を周りに発表していって、少しずつ知ってもらうことから始めています。今では手を差し伸べてくれる方々も徐々に増えているように感じます。
まずこの会社員さんは、"恥ずかしい"という心理を拭い去ることが大切なような気がします。恥ずかしさというのは「周りの同僚達や先輩後輩が自分をバカにしているのではないか」という勝手な疑心暗鬼のようなものから生まれる。
でも、周りは意外にその状況を知らないんです。基本的には知ろうともしてくれない。でもそれはお互い様。だから良い意味で諦めて、こちらから自分の状況を周りに知ってもらう。情けなさや恥ずかしさも含めてさらけ出す。その時の周りの反応で、思いもよらない味方を見つけられるかもしれませんし、これからの会社員さんの未来を決める何かのきっかけに、きっとなるような気がします。
僕も仕事はできません。芸人という仕事を16年続けられていますが、いまだに向いてないとすら思います。でもいつの日かやってみたい仕事や最高に楽しいと思える瞬間はありますし、例えどこへ行こうと今の自分から始めていくしかない。
もし会社員さんの中にも心残りがあるのなら、腹をくくってみませんか。ここじゃないどこかへ行きたくなるのはよく分かります。でもその前に「ここにしかないどこか」を探してみるのも大切だと思うんです。
筆者プロフィール: 高木晋哉
お笑い芸人。早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷と「ジョイマン」を結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。趣味は詩を書くことで、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となっている。