お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。

今回のお悩み

中間管理職として辛い日々が続き、毎日がしんどいです。大手企業から中途入社してきた年下の部長は、仕事をすべて課長である僕に丸投げしてくるし、指示も超適当です。一方、社内の他部署から異動してきた部下は自分より年上です。慣れない仕事でミスを連発するのですが、年上ということもあり、注意・叱責しづらいです。この地獄のような板挟みから解放される方法はあるのでしょうか? (30代男性)

  • 絵:ジョイマン高木

はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。お笑い芸人をしています。

僕は芸歴が18年目になるのですが、お笑い界では、少し前までは自分達よりも先輩がMCをしている番組ばかりだったのが、最近はいわゆる“第七世代”の活躍によって、僕達よりも若い世代の芸人がMCをしているライブやイベント、番組などが増えたように思います。

お笑い芸人の世界には上司や部下という枠組みはないですが、MCが「上司」だと考えると、MCの仕事がほぼないジョイマンは立場的には30代男性さんと似たような立場になるのでしょうか。

ただ僕の経験から言うと、お笑いの世界は後輩だろうが先輩だろうが、MCには単純に実力のある芸人が据えられるものなので、特に何らかの被害を被る心配はないようです。先輩だろうが後輩だろうが、しっかり甘えさせて頂いています。さらにそういう立場や枠組みをフリにして笑いをとれる場合もあるので、30代男性さんのように、板挟みが地獄のように辛い、という感覚はあまりないかもしれません。

それでも、仕事に関わらず、立場による細かいやり辛さは色々な場面で常に人生に付きまとうものです。なので、僕はこういう考えに辿り着きました。もちろんジョイマンも歳を取りますし、新しい世代の突き上げを古い世代は受け止めますし、時代の流れによって環境は変化し続けます。自分を取り囲む環境が、自分にとって都合の良いものばかりではないのは当たり前のことで、全てを環境や周りの人のせいにして気に病んでばかりいては、限りある人生の時間がもったいないと思うのです。

周りを無理矢理どうにかこうにかしようとするよりも、自分の心持ちを変化させようと努力する。その行為こそが、太古の昔から地球の厳しい自然環境の中で生き抜いてきた人類の真骨頂ではないでしょうか。環境を自分に都合よくコントロールしようと思えば本当にキリがないですし、それは人類の思い上がりのようにすら感じます。

僕がそう考えることが出来たのは、恐らく、芸人は舞台に立ったら「笑い」が第一目標であるという、はっきりとした大前提があるからかもしれません。だから30代男性さんも、身近な多種多様の煩わしさに惑わされるのではなく、ちょっぴり遠くにある「仕事の成功」をしっかり見定めれば、周囲の些細なことに惑わされることは少なくなるのではないでしょうか。

そして、もっと言うのならば、年下の部長はもしかしたら年上の課長(30代男性さん)にやり辛さを感じているかもしれませんし、年上の部下も30代男性さんに萎縮をしてしまって本来の力を発揮できずにいるのかもしれません。皆が皆、多かれ少なかれ、意図せず社会の中で置かれてしまった立ち位置によってやり辛さを抱えているものです。全てはお互い様。だからこそやはり自分の心を最強にするのが一番だと思います。

年下の部長が仕事を全て丸投げしてきたら、腹を立てる前に一度目を閉じて心の中で「部長 脱腸」と唱えて深呼吸をしましょう。適当な指示をだしてきたら「部長 盲腸」と唱えましょう。年上の部下がミスを連発したら「オーライ 阿弥陀如来」と唱えて手を合わせましょう。そして仕事の成功だけを見据え、すべきことをしましょう。不思議なもので、韻を踏むと周りの些細な煩わしさなんてどうでも良くなるものです。

立ち位置のねじれによる煩わしさに心を支配されていた時間を前向きに有効活用し、仕事の成功を目指しましょう。そうすることで、もしかしたら社内で評価され、しがらみのない立ち位置(そんなものがあるのかどうか分かりませんが)に辿り着けるかもしれません。さあ、韻を踏みましょう。30代男性さんが地獄のような板挟みを気に病む毎日から華麗に抜け出せることを、ジョイマン高木は切に願っています。

筆者プロフィール: 高木晋哉

お笑い芸人。早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷と「ジョイマン」を結成。吉本興業所属。趣味は詩を書くことで、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となっている。