お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。
今回のお悩み
「自分の仕事のできなさに嫌気がさしています。営業職として新卒入社して早3カ月ほど。もう複数の案件を受注した同期がいるのに、僕はまだ0件です。先輩から指摘されたミスを何度もしてしまうし、緊張すると噛むクセがあるので、会社にかかってくる電話への対応もまともにできない始末。ここまで自分がポンコツだと思っていなかったので、正直、会社にいるのがつらいです」(20代男性)
はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。社会に出て初めて判明する、自らのポンコツ具合。とってもよく分かります。最初はどうしても周りの人間と自分を比べてしまいますもんね。
ただ、20代男性さんは「早3カ月」と言いますが、いやいや「まだ3カ月」。ちなみに僕は、お笑いという特殊な世界ではありますが、社会に出て17年が経ちました。そこで思うのは、人間はどれだけ年月をかけても、完全には自らのポンコツ具合を克服できないのではないか、ということ。
ひとつ直せば、ひとつ別の部分の破損が見つかる。そしてそこを直すとまた別の部分が気になってくる……という風に、きりがないというのが、僕のこれまでの自分の人生に対する印象です。
だから僕は徐々に自らのポンコツ具合と共に生きていくしかないと思うようになりました。諦めのような、もしくは腹をくくったような、とっても複雑な思いです。しかし、20代男性さんに伝えたいのは、ポンコツ具合と共に生きることは決して絶望なんかではないということです。
ジョイマンの今の芸風が出来上がったのも、今考えれば、自らのポンコツ具合に折り合いをつけようとした結果のような気がするのです。僕たちは元々は正統派の漫才をしていました。漫才は会話の延長。人間が、会話の中でどこまで想像の翼を広げられるかに挑戦する芸だと思います。会話が足場となり、だからこそ想像の大空に飛び立てる。
でも僕はその会話が苦手でした。昔からどうも緊張して上手くいかない。それはある意味、芸人として致命的なことなのかもしれません。
そこで僕は、そんな自分への逆ギレのような思いで、相方とあまり会話をしないネタを作りました。想像の大空へと飛び立てないのなら、ほの暗い地中へと深く掘り進もうと思ったのです。やり取りはなるべく排除して、言葉を記号化して、極論、ただの音の響きだけで笑いにならないかと思いました。
それで出来たのが「普段着 エリンギ」や「イカリング スリリング」や「マンボウ 貧乏」などの、意味があるようで無い、無いようであるような、韻を踏む言葉遊びのようなネタでした。
ポンコツ具合に悩み、苦し紛れに出来上がったネタでジョイマンはテレビに出られるようになりました。お笑いで何とかご飯が食べられるようになりました。自らのポンコツ具合に折り合いをつける行為がジャンプ台になり、ある意味、ほの暗い地中からジョイマンを大空に跳ね上げてくれたのかもしれません。
人間はとっても凸凹した生き物です。自分の凸を受け入れたくて、凹を探します。自分の凹を受け入れたくて、凸を探します。でもこの世界で、自分と本当にぴったりくる凸や凹など、そうは見つかりません。しかし、何とか知恵を絞れば、凸を凹に見せることや、凹を凸に見せることくらいはできるかもしれません。凸凹とした自らのポンコツ具合に思い悩む毎日から、ちょっぴり自由になれるかもしれません。
急に安易な提案で申し訳ないですが、まずは20代男性さんの思い悩むポンコツ具合をむしろ「可愛げ」として全肯定してくれるハッピーな彼女などを見つけて、少しずつリハビリから始めるのはいかがでしょうか。まずは凸を凸と考え過ぎない、凹を凹と考え過ぎないことが大切だと思います。
営業の案件をたくさん取れる人間も素敵ですが、僕は、受注案件が0なのに心から胸を張っている人間も同じくらい素敵で幸せだと思います。いつの日か20代男性さんが、自らのポンコツ具合と明るく手を繋げる日が来ることを、ジョイマン高木は祈っています。
筆者プロフィール: 高木晋哉
お笑い芸人。早稲田大学を中退後、2003年に相方の池谷と「ジョイマン」を結成。吉本興業所属。趣味は詩を書くことで、自身のTwitterでの詩的なツイートが話題となっている。