お笑いコンビ「ジョイマン」の高木晋哉が、ちょっぴりほろ苦く、そしてどこかほっこりする文章で綴るこの連載。読者のお悩みにジョイマン高木ならではの視点で答えてもらいます。

今回のお悩み

「職場の上司が生理的に受けつけません。いちいちキザな物言いをしてきますし、暇があれば鏡をチェックしています。仕事自体はとてもできるし、私を含めた部下への教え方とかもすごく丁寧なのですが、そういった言動を見るたびに『やっぱ無理』と思ってしまいます」(20代女性)

はじめまして。ジョイマンの高木晋哉です。お笑い芸人をしています。いきなり私事で申し訳ないのですが、芸風のせいか、それとも持って生まれたポテンシャルなのか、その両方なのか、実は「生理的に無理」という言葉は僕もSNSなどで言われた経験が何度もあります(特に女性から)。

あの言葉、攻撃力ありますね。言われたことのある人はわかるかもしれませんが、ダメージとしては刃で切られる感覚と言うよりも、鉛のように重くて大きな塊をこちらの意思とは関係なく手渡されて立っていられない感覚とでも言いましょうか。

やはり「生理的に」の部分に生き物として「NO」を突き付けられるような響きがありますね。「もう、動いたり喋ったり、簡単に言うと生きなくても良いよ?」と耳元で言われるような感じ。

今は僕も幸か不幸かずいぶん慣れてしまって耐性がついてきましたが、若い頃は女性の気軽な「生理的に無理」を前に、なす術もなく膝から崩れ落ちたものです。できれば面と向かっては言わないであげてください。すいません、なまじっか言われた経験があったもので思わず上司の方に寄り添って書いてしまいました。

ただ、特に女性のほうがその言葉を使うイメージはありますね。動物的な好き嫌いの本能が男性より強めというか、本当にゴキブリなどを嫌う感覚と似ているのかもしれません。だから、そう感じてしまうことは止められないのでしょう。

でも世の中にはゴキブリを嫌いじゃない人もたまにいて、中にはむしろ好きだという人もいる。その感覚はわからなくても、どういうものなのかを知ることはできるはずです。それはきっと20代女性さんにとって損ではないですし、むしろ得なことのように思います。僕もその上司の方をゴキブリに例えるのは正直つらいです。話の成り行き上、やむをえずこうなってしまったことを心苦しく思っています。

ゴキブリは「自然界の掃除屋」と呼ばれているそうです。有機物なら比較的何でも食べるようで、地球の食物連鎖の中の一員として立派な役割を果たしているのです。20代女性さんの出したゴミなども食べて部屋を掃除してくれているかもしれません。例えば、その上司の方もあなたが仕事でしてしまったミスを帳消しにしてくれるような働きをしてくれたことはないでしょうか。あなたの不始末を綺麗に掃除してくれたことはないでしょうか。

そして捕食される側としてのゴキブリは栄養価が高いそうです。爬虫類や両生類などからすれば大切な食料。あなたからすれば生理的に無理な生き物でも、その上司の方を愛している妻や子ども、もしくは恋人などがいるのではないでしょうか。あなたには見えていないだけで、そのキザな上司がいないと生きていけない人が確かにどこかに存在しているのです。

さらにゴキブリの脳組織は、従来の抗生物質に耐性のある細菌をも死滅させるような物質を分泌するそうです。非衛生的な暮らしをするゴキブリだからこそ、そういった抗生物質を分泌することができるそうです。ゴキブリは細菌から人類を救える可能性を持っているかもしれないのです。

そう考えると、不愉快に思える上司の方のキザな物言いもナルシストな素振りも、何か地球の未来にとって尊い物質を分泌する行為のようにも見えてきませんか? そのゴキブ…いや上司の方は、将来、もしかすると人類を救う存在なのかもしれないのです。そんなこと100%無いと言い切れるでしょうか。いや、言い切れません。

どんな人にも多かれ少なかれそういった「奥行き」は存在しています。「生理的に無理」という理由でその上司の表面だけを見て簡単に嫌うのではなく、もう少し立体的に見てあげてはいただけないでしょうか。そうすれば許せる余地がきっとあるはずです。

それはきっと20代女性さんの成長にもつながると思います。もしここに書いたようなことを20代女性さんが理解してくれて、すべてを踏まえたうえでなお「やっぱ無理」ということなら、どれだけ無理なのか僕も体感してみたいので一度会わせてほしいです。もう飲みにいきましょう。